連載コラム【MLBマニアへの道】第16回:ローコストの新戦力を集めるパドレス オールインから中期的チーム作りへ

写真:ダルビッシュと松井裕樹の日本人デュオの活躍に期待がかかる ©Getty Images

MLBのオフシーズンももう折り返し地点を迎えようとしている。ここまでのオフの主役は間違いなくドジャースだろう。大谷翔平と山本由伸という2人の日本人選手獲得に総額10億ドル以上の資金を投入。さらには故障がちながら投げればエース級のタイラー・グラスノウをトレードで獲得し、契約延長までしてみせた。

ここまで十分に派手な補強が続いているが、さらなる大型補強の噂も絶えない。FAに巨額資金を投じ、若手有望株を放出してトレード補強も図る「オールイン」態勢で、2024年シーズンはこれまで以上に力を入れてワールドシリーズ制覇を狙っている。

一方で、2023年までオールインの姿勢であったにもかかわらず、このオフに方針転換した対照的なライバル球団がいる。同じナ・リーグ西地区のパドレスだ。

パドレスは2007年から13年連続でポストシーズンを逃すなど、マーケットも小さくドジャースやジャイアンツといった名門球団の陰に隠れる存在だった。ところが近年、2018年にエリック・ホズマーに8年1億4400万ドル、2019年にマニー・マチャドに10年3億ドルを投じるなど、FAでの大型補強が相次ぐようになった。

さらには若手スター候補フェルナンド・タティスJr.の登場や、2020年オフにはブレイク・スネル、ダルビッシュ有、ジョー・マスグローブらスター投手を相次いでトレードで獲得するなど、地味な球団が一転してスター集団へと様変わり。

2022年シーズン途中には多数の若手有望株を放出して若手スター外野手フアン・ソトを獲得し、オールインの姿勢を決定づけた。その直後にタティスJr.の禁止薬物違反が発覚するという予想外のトラブルがあったが、ポストシーズンではメッツやドジャースを打ち破ってリーグ優勝決定シリーズにまで進出。さらに昨オフにはFAでザンダー・ボガーツを11年2億8000万ドルで獲得するなど補強の手を緩めなかったが、2023年シーズンはポストシーズンを逃すという期待を裏切る結果に終わった。

パドレスにとっては、2024年が節目のシーズンになるはずだった。大量出血の末獲得したソトが2024年シーズン終了後にFAになる予定だったからだ。パドレスはソトの契約延長を狙っていたが、代理人がFAを好むスコット・ボラスということもあって契約延長は困難な状況に陥っていた。

ソトのラストイヤーまでオールイン態勢を継続するか、ソトをトレードして中期的チーム作りへと切り替えるかの決断を迫られたパドレスは、結果的に後者の選択肢を選ばざるを得なくなった。負債に係るコンプライアンス上の問題により、2023年はMLB3位だった総年俸を5000万ドル以上削減する必要性が出てきたことが原因だ。その上、補強に積極的だったオーナーのピーター・サイドラーの急逝という不幸も重なった。

道半ばにして方針転換することとなったパドレスだが、身の丈に合ったチーム作りが実を結ぶ可能性も十分にある。今オフの大きな動きは、リリーフのトレードや、ソトをレギュラー外野手トレント・グリシャムとセットでヤンキースへと放出し、FAでは松井裕樹を5年2800万ドルで獲得しただけ。しかし、ソトの対価になった選手はローコストで長期保有できる若手選手が多く、即戦力枠として入ったマイケル・キングは来季の先発ローテーションで2、3番手級の活躍を期待できるポテンシャルがある。松井もリリーフとしては長めの5年契約にはなったが、新しい環境にうまく適応すれば勝利の方程式に加わることができるだろう。

ブレイク・スネルやジョシュ・ヘイダー、そしてソトといったオールスター級選手らを失ったため、今季より戦力ダウンしたことは間違いない。しかし、手当たり次第スター選手を補強するのではなく若手も多く起用していく。パドレスはそんなチームに生まれ変わろうとしている。

2023年シーズン開幕前にコミッショナーのロブ・マンフレッドはこう言った。

「スモールマーケットのチームにとって問題になるのは持続可能性だ。大型補強は素晴らしいが、いつまでそれが続けられるだろうか」

新生パドレスは今度こそ「持続可能な強さ」を手に入れることができるだろうか。

文=Felix

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