[社説]自民「裏金」聞き取り 疑念残るお手盛り調査

 なぜ巨額の裏金をつくったのか、裏金の詳細な使途は―。自民党の調査は、有権者の疑問に真摯(しんし)に答える中身ではなく、真相解明には程遠い。

 自民党は派閥の政治資金パーティー裏金事件で、全議員アンケートに続き、政治資金収支報告書に不記載があった安倍、二階両派の議員ら計91人に実施した聞き取り調査の結果を公表した。

 2018~22年の5年間で不記載があったとアンケートに答えたのは85人(うち現職は82人)で、総額約5億8千万円。聞き取り調査では、パーティー券売り上げの資金還流を認識していた議員らは32人に上り、うち11人は不記載も認識していた。

 アンケートの質問項目は収入の記載漏れの有無と、記載漏れがあった際の金額の記入を求めた2問のみ。聞き取り調査は党執行部が議員1人当たり30分程度の聴取をしただけで、派閥の幹部も含め証言は全て匿名だ。個々の議員の裏金への認識や関与の度合いは分からない。

 還流された金を使用したとする安倍、二階両派計53人の回答の内訳を見ると、懇親費用、手土産代、書籍代、翌年以降の派閥のパーティー券購入費用など15項目と多岐にわたる。いかに重宝していたかが分かるが、どの議員が何に使ったのかは不明だ。

 現役国会議員の逮捕や派閥の解散に発展している中で実態に迫ることなく、政治不信は強まるばかり。

 自民党の自浄能力のなさを露呈した「お手盛り」調査だと言わざるを得ない。

 第三者機関による真相解明を求める。

■    ■

 組織的に裏金づくりが行われていたことは明白だ。

 聞き取り調査の報告書によると、安倍派では事務局から不記載の指示があったと多くの議員が説明している。不記載は20年以上前から続いていたという。

 安倍派議員からは幹部の責任を問う声も多い。報告書には「当選した時からこのような制度となっており、こういうものなんだと思っていた」「派閥から記載するなと言われたものを記載するわけがない」などの証言もある。

 安倍派幹部がどう関与したのかを解明することが根本的な再発防止策の前提になるが、前身の森派の会長を務めた森喜朗元首相には、事実確認すらしていない。

 野党側は安倍、二階両派幹部に国会の政治倫理審査会への出席を求めている。森元首相や関係国会議員は公開の場で説明責任を果たすべきだ。

■    ■

 岸田文雄首相は施政方針演説で「『政治は国民のもの』との立党の原点に立ち返って自民党は変わらなければならない」と述べたが、この報告書を評価している時点で、その言葉は空虚に響く。

 裏金事件を巡り、還流分が課税対象とならないことに、所得税の確定申告が始まった納税者からは「裏金を受け取りながら納税しなかった議員は早く辞めるべきだ」などと批判の声が噴き出している。

 国民の感覚との大きなずれはどこから来るのか。積年のうみを出し切らなければ、政治の信頼回復はあり得ない。

© 株式会社沖縄タイムス社