「プライドが高い」「自分の値打ちを理解していない」…人事担当者が語る40代、50代の転職が簡単にはいかないシビアな理由

(※写真はイメージです/PIXTA)

「40代~50代の転職は本当に厳しい」…そう聞いてはいても、自分のことになると客観視することが難しくなるもの。厚待遇を望み転職のチャンスを逃してしまう人も少なくありません。本記事では、元永 知宏氏の著書『まだまだ仕事を引退できない人のための50代からのキャリア戦略』から、人事担当者Aさんの視点で「転職のリアル」をご紹介します。

40代、50代の転職がそう簡単にはいかない理由

会社に居場所がないのなら、起業して社長になるか、転職するしか方法はありません。ただ、資金の用意がない人の場合、独立にはリスクしかない――。

30年近く活躍してきた実績があれば、同業他社からの誘いがあるはずです。しかし、40代、50代の転職はそう簡単にはいきません。

その理由を、転職者を受け入れる側の人事担当者、45歳のAさんはこう言います。

「本当に経歴がきれいで優秀だからこそプライドが高い人が多い。でも、望まれるほどの年収は出せません」

転職サイトに自分の経歴を打ち込んで登録を済ませれば、明日にでも好条件の求人が来るかもしれない――そう考える40代、50代は多い。大学卒業から20年以上(あるいは30年も)その業界で働いてきたのだから、そう思うのは当然でしょう。人脈もあれば、誇れる実績もある。その業界特有のビジネス作法はもちろん、身についている。

しかし……いつまで経っても声がかからない。それはなぜなのでしょうか。Aさんは言います。

「自分の値打ちを知らない人、値打ちを下げられない人がいるんですよ」

現在の会社でどれだけ高収入を得ていても、その会社にはその会社の給与体系があります。歴史のある会社であればまだしも、成長途上の企業であれば、成果報酬によって不足分を補うところが多いのが現実です。

「スカウトサイトを使って、いいなと思う人にメールを打っても、反応は鈍い。返信してきても、なかなか『会いましょう』となりません。はじめに給料や待遇について聞いてくる。『こういう条件じゃないと』と」

現在得ている年収を維持したい、もっと稼ぎたいという気持ちは理解できますが、それを盾にされると進む話も進まなくなります。自分の市場価値を把握できなければ誰にも相手にされるはずがありません。Aさんは続けます。

「ひどい人になると、数社前に勤めていた会社の年収を出してきて、『1,500万円は欲しい』と言ってくる。自分の経歴にどれだけ自信があるのか知りませんが、こんな人とやり取りをするのは時間のムダですね」

本当に求める人材であれば、高給を用意することもできます。ただ、そのための社内調整は必要です。人事担当者とすれば、実際に会って、人となりや仕事に対する考え方を確かめておきたいと思うものですが、それすら理解していない……。

パフォーマンスを出せるかどうかわからない人に面談の前から約束なんてできません。はじめから条件ありきだと、その時点で『はい、終わり!』になりますね。50代の人にも、40代の人にもこういうケースが増えています。なかには、『今はまだタイミングではないので……』と断ってくる人もいて、『じゃあ、何のために転職サイトに登録しているの?』と思っちゃいますね」

戦力にならなくても給料は絶対に下げたくない勢いのある30代の頃ならいざ知らず、40代、50代になれば転職するのにも勇気がいります。せっかく入社できた人気企業に数十年も勤めれば、当然、愛着があるでしょう。見ず知らずの人と働くとなれば、どんな人でもストレスを感じるはず。どうせなら、自分を高く売りたい。こんなチャンスはもうないかもしれないから。でも、その金額に見合うだけの仕事をする自信がない。そんな胸の内が透けて見えるようです。

「『執行役員じゃないと』と言ってくる人もいて……そんな人、絶対にダメです」

Aさんはため息交じりにこう言います。

「頑なに、年収を下げたくないと主張する人もいます。はじめに立場(役職)を確約しろという人も……経歴が素晴らしいだけでそんなことできます? 少し考えればわかると思うんですけどね」

所属する会社の名前と役職で勝負できると本当に思っているのでしょうか。歴史や人気があって、どんなに収益を上げている会社でも、使える人もいれば、まったく戦力にならない人もいます。数十年のビジネスキャリアがあれば、当然それに気づくはず。しかし、自分の転職の場合には、そう考えられないのでしょうか。

「その企業の経営トップの年収が3,000万円なのに『4,500万円はもらわないと』と言われても……」

客観的な「自分の価値」がわからないとチャンスを逃す

どのマーケットにも相場があり、商品には適正価格があり、自分にどれだけの価値があるのかを見極めなければなりません。履歴書も、名刺も助けてはくれません。

「もう少し冷静になれとは言いませんが、客観的に見てほしい。今のあなたにそれだけの価値がありますか。今の会社が十分な金額を出してくれるのなら、そのまま残ればいい。それが難しいのなら、どこかで折り合いをつけないと」

今の自分への評価や待遇に不満があるのなら、思い切って勝負するのも手です。ひとたび市場に出ればひとつの商品になるのだから、シビアな値付けをされても仕方がないという割り切りが必要です。しかし、いつまでも過去にしがみつき、せっかくのチャンスをふいにしてしまっているのではないでしょうか。

「たとえば、『もし1億円の案件を成立させたらこうしてほしい』と言われれば、もちろん検討します。お互いの条件次第、話の進め方次第で、まとまる可能性もあると思っているのですが……。会社に所属しているだけでは意味がない。肩書、ステイタスが欲しい人はいりません

会社にいるだけで、自分の席に座っているだけで給料がもらえる時代はもう過ぎ去りました。今ここで、どれだけの貢献ができるのか――それを会社から見られていることに気づかない人もいます。終身雇用、年功序列など、もうとっくに昔の話になったのにもかかわらず、目を背ける人が多いのが現実です。就「職」ではなく、就「社」の意識がどこかに残っているのかもしれません。

過去の呪縛にとらわれず「自分が今できること」にフォーカスする

Aさんは言います。

「転職してきたにもかかわらず、『以前は〇〇〇〇にいました、〇〇〇〇で働いていました』と言う人がいますね。こちらは『だから、何?』と思うだけです。40代にもいますけど、50代に顕著です。その業界のトップ企業にいて、なおかつ、たいした実績を残せなかった人ほどそう言っているような気がします」

過去ももちろん大事。そこで学んだことが今の仕事にもきっと生きているのでしょう。でも、「それはそれ」ではないでしょうか。メッキはいずれはがれてしまう。

「過去の呪縛にとらわれている人が多いと感じます。20代、30代の若い人の中にもいます。誇りを持つことは大事だと思いますが、『自分が今できること』にフォーカスしたほうがいい。面接で『120パーセントやれます』と言っておいて、『20パーセントもできないんだ……』という人ばかり」

大事なことは過去を切り離すこと。新しい会社にいる自分を受け入れること。

「転職して『この会社になじもう』と思ってくれる人はいずれ活躍してくれるはずです。それが本当に大事なこと。いい役職が付いて、好待遇で迎えられても会社のカルチャーになじめず、すぐに辞める人もたくさんいますから」

40代半ば、自らも転職組であるAさんは「自分にしかできないことはあるのか、自分の仕事に付加価値を付けることができるのか」……こう考えながら、日々、働いています。

「私は自分のことが怖いです。45歳になって、自分にしかできない仕事をやれなければ、この先、給料は上がらない。いや、下がっていく一方です。そんなの嫌じゃないですか。やるなら、ちゃんとやりたいし、評価もされたいし」

〝バブル組〞は自分よりも10歳も若い人の仕事に対する価値観を知っておくべきでしょう。そういう人たちに自分がどう見られているのかも。

元永 知宏

※本記事は『まだまだ仕事を引退できない人のための50代からのキャリア戦略 “バブル入社組”のリアルな声から導き出した3つの答え』(翔泳社)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。

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