【米大統領選2024】 トランプ氏支持者、AI生成の偽画像で黒人有権者を誘導=BBC調査

マリアナ・スプリング、BBC記者、BBC「パノラマ」

今年11月の米大統領選で、アフリカ系アメリカ人の有権者に共和党への投票を促すため、ドナルド・トランプ前大統領の支持者らが、人工知能(AI)で偽物の画像を生成・拡散している。BBC調査報道番組「パノラマ」が明らかにした。

BBCの調査では、黒人有権者が前大統領を応援しているように見えるディープフェイク(AIを使って本物のように加工した画像や動画)が多数見つかった。

前大統領は実際、広く黒人有権者に支持を呼びかけている。2020年の前回選挙では、黒人有権者がジョー・バイデン大統領の勝利の鍵を握った。

しかし、今回見つかった画像とトランプ陣営を直接結び付ける証拠はない。

黒人有権者に投票を呼びかけている団体「ブラック・ヴォーターズ・マター(黒人湯有権者は大事だ)」の共同創始者は、こうした偽画像が、トランプ氏が黒人コミュニティーで人気があると見せかける「戦略的な文脈」を推進していると指摘した。

BBCが取材した偽画像の作者は、「私はこの画像が正確だと主張しているわけではない」と述べた。

AIによって生成された黒人トランプ支持者の画像は、11月の米大統領選挙を前に、偽情報の新しいトレンドの一つとなっている。

2016年の大統領選では、外国勢力の影響を受けた活動があったという証拠があった。しかし、今回BBCが発見したAI生成画像はその時とは違い、アメリカの有権者自身が作成し、拡散しているとみられる。

そのうちの1枚が、フロリダの保守系ラジオ番組のマーク・ケイ氏とそのチームのものだ。

このチームは、トランプ氏がパーティーで黒人女性たちに腕を回して微笑んでいる画像を作成し、フェイスブックに投稿した。ケイ氏はフェイスブックで100万人以上のフォロワーがいる。

一見、本物のように見える画像だが、よく見ると人の肌が少しテカテカしすぎているし、指の本数も足りていない。どちらも、AI生成画像の特徴だ。

自分のラジオ・スタジオで私の取材に応じたケイ氏は、「私はフォトジャーナリストではない」と言った。

「私の仕事は、実際に起きていることを写真に撮ることではない。私はストーリーテラーだ」

ケイ氏は、トランプ氏を支持する黒人有権者についての記事を投稿し、そこにこの画像を添付した。画像内の人々は、前大統領の出馬を支持しているかのような印象を与えている。

フェイスブックのコメント欄では、一部のユーザーがAIの画像を本物だと信じているようだった。

「これが正確だとは、私は主張していない。『ほら見て、ドナルド・トランプがアフリカ系アメリカ人の有権者たちとパーティに参加していた。みんな彼を大好きみたいだ!』とは言っていない」と、ケイ氏は述べた。

「もし誰かが、フェイスブックで見た写真1枚を理由に誰に投票するか決めるなら、それはその人の問題であって、投稿自体の問題ではない」

批判者も支持者も利用か

BBCの調査で見つかったもう一つのAI画像には、トランプ氏が玄関ポーチで黒人有権者とポーズをとっている様子が写っている。

この画像は元々、前大統領の画像を生成する風刺アカウントが投稿したものだった。しかし、トランプ氏がこの人たちに会うために車列を止めたという、うそのコメントと共に再投稿されたことで、広く注目されるようになった。

BBCは、偽の投稿をした「Shaggy」というアカウントの背後にいる人物を突き止めた。ミシガン州に住む熱心なトランプ支持者だった。

この人物は、ソーシャルメディア上でBBCとやりとりした際、「(私の投稿は)何千人もの心優しいキリスト教徒のフォロワーを惹きつけている」と述べた。

しかしAI生成画像について質問すると、この人物は私をブロックした。

X(旧ツイッター)によると、この偽画像の投稿は130万回以上、閲覧されている。一部のユーザーはうそを見抜いていたが、それ以外の人々は、この画像が本物だと信じているようだった。

私が調べたところ、バイデン氏が特定の層の有権者と一緒に写っている様子をとらえた加工画像は見つからなかった。バイデン氏をめぐるAIの画像は、同氏を単独で、あるいはロシアのウラジミール・プーチン大統領やバラク・オバマ元米大統領など他の世界的指導者と一緒に写している傾向がある。

こうした画像は、批判者が作ったものもあれば、支持者によるものもある。

1月には、バイデン大統領を名乗る音声が、ニューハンプシャー州の予備選挙に行かないよう呼びかける虚偽の自動音声通話が問題となった。

この問題については、民主党の支持者が、技術が悪用される可能性に注意を喚起したかったと責任を認めている。

保守派の戦略と一致

「ブラック・ヴォーターズ・マター」の共同設立者であるクリフ・オルブライト氏は、2020年の選挙と同様に、黒人コミュニティーを標的にした偽情報戦術が復活しているようだと述べた。

「黒人コミュニティー、特に若い黒人有権者に狙いを定めた偽情報の試みが再び行われている」と、オルブライト氏は指摘した。

オルブライト氏の事務所は、米ジョージア州アトランタにある。重要な激戦州のジョージア州では、黒人票のほんの一部でも、バイデン氏からトランプ氏に乗り換えるよう説得できれば、それが選挙の結果を左右する可能性がある。

米紙ニューヨーク・タイムズとシエナ大学が昨年11月に発表した世論調査の結果では、激戦が予想される6州において、今年11月にバイデン氏に投票すると回答した黒人有権者は71%だった。前回選挙(全国)の91%からは大幅な減少だ。

ニューヨーク・タイムズとシエナ大学が3月2日に発表した今年2月の全国世論調査では、「きょう大統領選があったら」バイデン氏に投票すると答えた黒人有権者は66%、トランプ氏に投票すると答えた黒人有権者は23%だった。

オルブライト氏は一連のフェイク画像について、トランプ陣営からインターネットのインフルエンサーに至るまで、保守派が黒人有権者を取り込むために推し進める「非常に戦略的な文脈」と一致していると指摘した。保守派は特に、黒人女性よりもトランプ氏への投票に前向きと思われる若い黒人男性を標的にしているという。

トランプ氏を支持する主要政治団体「MAGA.Inc」は4日から、ジョージア州とミシガン州、アトランタ州で、黒人有権者に向けた広告キャンペーンを開始する予定だ。

こうしたキャンペーンは、アトランタ州のタクシー運転手、ダグラスさんのような人を対象にしている。

ダグラスさんは、自分が心配しているのは主に経済と移民問題だと語り、こうした問題にはトランプ氏の方が積極的だと思うと述べた。また、すでに選挙そのものに幻滅しているため、トランプ氏が民主主義を脅かしているという民主党のメッセージを聞いても、投票しようとは思わないと話す。

米経済は全般的には好調だが、ダグラスさんのような有権者は、物価高騰の影響で好景気を実感できていない。

前大統領が黒人有権者と一緒に玄関ポーチに座っている画像について、ダグラスさんはどう思ったか?

私が最初に写真を見せたとき、ダグラスさんは画像を本物だと信じていた。そして、トランプ氏が地域社会を支持しているという、周りの黒人たちにも共有されている自分の考えを補強するものだと言った。

この画像が偽物だと明かすと、ダグラスさんはこう言った。

「いかにもソーシャルメディアだ。あまりにも簡単に人をだませる」

二つの危険な組み合わせ

トランプ氏が勝利した2016年以降、米大統領選挙における偽情報戦術は進化してきた。当時は、ロシアなどの敵対的な外国勢力が、真偽不明のアカウント・ネットワークを使って、分裂の種をまき、特定の思想を植え付けようとしたことが記録されている。

2020年には、アメリカ発の偽情報に焦点が当てられた。特に、「大統領選挙が盗まれた」という虚偽の主張は、アメリカを拠点とするソーシャルメディア・ユーザーによって広く共有され、トランプ氏や他の共和党政治家によって支持された。

専門家らは、2024年にはこの二つが危険な形で合わさるだろうと警告している。

ベン・ニモさんは2月まで、フェイスブックとインスタグラムを運営する米メタで、外国勢力の影響に対処する業務を任されていた。ニモさんによると、こうした偽画像がもたらす混乱に乗じて、外国政府による選挙介入の機会が生じている。

「2024年に相当数のフォロワーを持つ人なら誰でも、自分に送られてくるものをどのように吟味(ぎんみ)するか、考え始める必要がある。外国勢力による影響工作に、知らないうちに加担してしまわないようにするには、自分はどうすればいいのかと」

ソーシャルメディアのユーザーやプラットフォームは、自動化された偽アカウントを識別できるようになってきている。こうした方法でオーディエンスを集められないとなると、分裂や誤解をうながす情報を広めるために「実在の人物を利用しようとする作戦」がとられるようになる。

「最善の策は、ソーシャルメディア上に大勢のフォロワーを持つインフルエンサーを通じて(コンテンツを)発信しようとすることだ」

ニモさんは、2024年にはこうしたインフルエンサーが、自分のフォロワーに誤情報を広めることをためらわない場合、外国による工作を「無意識に媒介」してしまう可能性があると懸念している。

こうした情報工作作戦では、秘密裏に、あるいはあからさまに、ユーザーにコンテンツを提供し、ユーザー自身にそれを投稿するよう促す。これにより、あたかもそのコンテンツが本物のアメリカ人有権者から発信されたように見せられるという。

大手ソーシャルメディアはすべて、潜在的な影響力工作に取り組む方針を定めている。たとえばフェイスブックやインスタグラムでは、選挙中にAIが生成したコンテンツに対処するため、新たな対策を導入している。

世界中の主要な政治家も今年、AI生成コンテンツのリスクを強調している。

「2020年の選挙が盗まれた」という何の証拠もなく共有されたシナリオは、AIが生成した画像や動画ではなく、単純な投稿やミーム、アルゴリズムでインターネット上に広まった。それでも、2201年1月6日にアメリカの議会襲撃事件を招いた。

今回、政治団体や工作員が利用できる全く新しいツールが登場し、再び緊張をあおる可能性がある。

(英語記事 Trump supporters target black voters with faked AI images

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