伝統を紡ぐ新世代の最上位ダイレクトドライブ・アナログプレーヤー「DP-3000NE」

今回の取材にご協力いただいた、株式会社ディーアンドエムホールディングスのGDPエンジニアリング スペシャルプロジェクト シニアマネージャーの岡芹 亮氏(写真、左)。筆者の山之内 正氏(写真、右)は、デノンの銘機DP-80を愛用していた

愛用してきたデノンの印象は“プレーヤー”のメーカー

Hi-Fiオーディオの基盤が確立されたのは、ざっと半世紀前のことである。当然ながらオーディオファンも世代が多様化し、当時のメーカーや主な製品群を鮮明に憶えているベテラン世代だけでなく、デジタルオーディオやネットワークオーディオが浸透したあとにオーディオに関心を抱いた若い世代のファンも増えてきた。

ブランドに対するイメージも世代によって微妙な違いがある。あるメーカーについて得意ジャンルはなにか聞かれたとき、人によってまるで違う答えが出てきても不思議ではないのだ。たとえばデノンはどうか。若い世代ならワイヤレスオーディオやヘッドホンを挙げるかもしれないが、筆者の世代だとプレーヤーとアンプの比重が大きく、個人的にはレコードプレーヤーへの思い入れが一番強い。

「DL-103」や「DP-80」をいまも使い続けているし、CDプレーヤーも何世代かにわたって愛用していた。シンプルに、デノンは元々はプレーヤーのメーカーという印象を持っている。昨年の秋、最上位のアナログプレーヤーとしてDP-3000NEが登場したとき、「デノンが原点に回帰した」と直感、素直にとても嬉しかった。

「DP-3000NE」 385,000円(税込)

DP-3000NEの開発を主導した岡芹亮氏の話を聞くと、当時の事情がよくわかる。

「『DP-5000』は業務用ターンテーブルが母体だったので、家庭用としては過剰な部分もあり、実際に高価な製品でした。家庭用として設計し直した最初の製品が『DP-3000』です。当時のデンオンがオーディオのブランドとして認識されるきっかけになったプレーヤーなので、今回はその型番を復活させることにしました」

DL-103が完成した1960年代半ば、デンオンの製品はほとんどが放送局用で、音楽ファンにはオーディオメーカーとしての知名度も低かったのだ。その限界を突破するきっかけとなったのがDL-103であり、DP-3000なのだ。

岡芹氏が入社した1980年前後は、アナログオーディオが最盛期を迎える一方で、徐々にデジタルへの移行が進む過渡期に相当する。1978年に発売されたターンテーブル「DP-80」を筆者がいまも使っていることを岡芹氏に伝えたところ、興味深いエピソードを披露していただいた。DP-3000NEとも関連する話である。

「実は私が一番好きなターンテーブルがDP-80なんです。3相ACアウターローターモーターを初めて投入した製品ですね。今回、DP-3000NEを開発するにあたって、DP-80を再現してもう一度作りたいと思い、中古品を買い漁って(笑)、分解して調べました。方形コイルが本当に巻けるのかとか、技術的な視点で調べたんですが、それを再現するにはハードルが高すぎました。メカ的な精度が高くて、いまはもう作れないんです。当時モーターを共同設計したOBにも相談しましたが、『とてもできません』と言われてしまいました(笑)」

そんな凄いモーターだったのかと、あらためて驚いたが、私のDP-80は今日もなにごともなくプラッターが回っている。

「ACモーター自体は壊れにくいんです。ただ、オーディオ的には大きなイナーシャのプラッターが主流で、その方が理屈にも合いますが、当時からデノンは技術へのこだわりが強くて、軽いイナーシャのプラッターをACモーターで回すことにあえて挑戦したんです」

最終的にDP-3000NEはブラシレスDCモーターを採用することになり、電源回路も小型のスイッチモード電源(SMPS)を選んでいる。それは技術的な進化の結果であり、当時に比べると部品点数も圧倒的に少なくなって信頼性も上がっている。小型のSMPSは振動源になりやすい大型トランスを使わないし、部品点数が少なければキャビネットをくり抜くスペースもミニマムになる。それだけ剛性が上がるので、音質には有利にはたらくのだ。

デノンから誕生した銘機の設計思想を受け継ぎながら、現代のモーター制御技術によってブラッシュアップが図られたダイレクトドライブ・サーボモーター方式を採用。3相16極のDCブラシレスモーターにより、33回転時は起動1秒以内で既定の回転速度を実現する
直径305mm約2.8kgのプラッターには、素材にアルミダイキャストを採用。共振を抑えるためにプラッターの裏側には3mm厚のステンレス板を銅メッキねじで固定している

40年前と現代で目的は同じでも、それを達成するための技術的な手法は大きく進化している。当時は力技で精度を極限まで高める必要があったが、いまは洗練された手法で高い目標をクリアできるのだ。トーンアームの設計にも多くの苦労があったという。

「まず、トーンアームを作るところが見つからないという問題があります。価格が高価になりすぎることもデノンのレコードプレーヤーとしては困ります。幸いなことにDA-309やDA-308の図面が残っていましたので、DP-3000NE用には有効長244mmのDA-309をベースにして新たにトーンアームを設計することができました。とはいえ図面があっても、それが本当に形になるかどうかは別の問題があります。かつて設計に携わっておられたエンジニアのOBにもアドバイスをいただきながら、最終的には良い形に仕上げることができました」

開発のアーム高さ調整機構を搭載。使用するカートリッジの高さやシートの厚みに合わせてアームを最適な高さに調整することができる。アンチスケーティング機能はマグネット式を採用しているため、アームの感度に影響を与えない設計となっている

やはりロングセラーの秘密は「バランスの良い音」にあった

DP-3000NEでもう一つ筆者が注目しているのは、デザインの完成度の高さである。剛性が高く一体感のあるキャビネット、細部までこだわった美しい仕上げなど、一貫性のあるデザインが生まれた背景を知りたくなり、岡芹氏に聞いてみた。

「オーディオ機器はどうしても設計に注目が集まりますが、今回は特にデザイナーとサウンドマスターが必死に取り組んでくれたことに感謝しています。デザインでは微妙なカーブとかダイヤモンドカットがその良い例で、こちらがいくら言っても絶対に妥協しない(笑)。実は、かなりのせめぎ合いがありました」

MDF製のキャビネットはソリッドなMDFをくり抜き、美しい自然木(黒檀)の突板で仕上げている。見た目の美しさもさることながら、触れたときの感触がとても上質で心地よい。黒檀は弦楽器や木管楽器に使う素材で手になじむこともあるが、それ以外の箇所についても細部の仕上げがとても丁寧だ。

「アメリカの本社と何度もやり取りするなかで、彼らは『タッチポイント』、つまり手で触れる箇所の質感に強いこだわりがあることがわかりました。トーンアームのウェイトやノブも含め、触れる箇所の仕上げを揃えて一貫性を持たせることを重視しています」

キャビネットには、ダーク・エボニー(黒檀)仕上げを施した高密度MDFを採用。ダストカバーも付属する
個別に高さ調整ができるインシュレーターを装備する。素材にはアルミニウム、樹脂、フェルトに加え、スプリングとラバークッションを組み合わせることで、ラックや床からの振動の伝わりを防止している
リア部は、金メッキ処理が施されたRCA端子とアース端子を用意。電源部は3極を採用している

デザインの一貫性を追求するプロセスで音にも良い結果をもたらした要素もあったという。メカ以外の部分はすべて内部損失の大きい木材で作ることで、共振周波数を低く抑えることができたのもそんな成果の一つだという。

「場所によって共振周波数が1Hz単位で変わるので、調整が難しいんですが、キャビネットを重く作るとそれだけ全体の共振を低い周波数に持っていくことができるんです」

DP-3000NE誕生の背景には半世紀に及ぶ果敢な挑戦の歴史があった。多くのエンジニアが築き上げたノウハウの積み重ねが現代の製品に活かされている。その事実を知ると、何気なく使い続けてきた往年の銘機に愛着が湧き、登場したばかりの新しいアナログプレーヤーへの興味も強く掻き立てられる。

DP-3000NEが獲得した品位が高く鮮度の高い再生音は、あらためてレコードをじっくり聴きたくなるような魅力にあふれ、聴き手をワクワクさせる高揚感や躍動感もそなわる。低音から高音まで偏りのない正確なバランスと、音溝に刻まれたディテールを精密にピックアップする安定したトレース能力。

ロングセラーの秘密はやはりそのバランスの良い音にあったのだ。レコードの歴史に重要な足跡を刻んできたデノンから、不動の評価を次の時代に受け継ぐ重要な製品が誕生した。

デノンの伝統を受け継ぐ現行のアナログプレーヤーを紹介

フォノイコライザー内蔵でフルオートにも対応した「DP-29F」18,700円(税込)
レコードの音を録音できるUSBメモリ対応の小型機「DP-200USB」38,500円(税込)
本格仕様を低価格で実現しつつフルオートの機能性も両立した「DP-300F」53,900円(税込)
デザインと基本性能を追求したHi-Fiのエントリーモデル「DP-400」67,100円(税込)
主力機400の姉妹モデルで高音質のデジタル化に最適な「DP-450USB」84,700円(税込)

(提供:株式会社ディーアンドエムホールディングス)


本記事は『季刊・Audio Accessory vol.192』からの転載です

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