【解説】 台湾地震 20年前の経験が被害を最小限に

ルパート・ウィングフィールド=ヘイズ・アジア特派員(台湾)

災害が起きた時、特に大地震の場合、世界中のメディアはハエのように、最も劇的な破壊に群がる。理解できることではあるが、それによって実際に起きていることがゆがめられて伝わることも多い。

ここ、台湾の花蓮市でもそれがいえる。撮影チームは、恐ろしい角度に傾いた10階建ての建物に集まっている。とても奇妙で恐ろしい光景だが、これは市内の何万もの建物のうち、構造的にダメージを受けた数少ないものの一つに過ぎない。

警察の封鎖線から100メートルも離れると、花蓮の街は完全にいつも通りだ。店舗もカフェも営業しているし、交通も機能している。予備知識なしに街を車で走れば、数日前に大地震に見舞われたとは気づかないだろう。

この街がほとんど無傷で存続しているという事実は、「なぜ」と「どのように」の議論をすぐに呼び起こした。

ちょうど1年前、トルコとシリアをほぼ同じ規模の地震が襲った際には、5万人以上が死亡した。もちろん、これらの国々にははるかに少ない資源しかなかった。しかし、2011年にニュージーランドのクライストチャーチで、マグニチュード(M)6.7という規模のずっと小さい地震が発生した際には、市街地がほぼ全壊した。

台湾も大半が断層線の上にある。しかし揺れへの対応を大きく進展させてきた。多くの人が、1999年に起きた「921大地震」がきっかけだったと語る。台湾史上最悪と言われるこの地震では2400人以上が亡くなり、数万棟の建物が倒壊した。

私はこの災害の影響を目撃している。中部の南投県では多くの高層住宅が倒れていた。その多くが新しい建物だったことが、もっとも衝撃的だった。

20階建ての建物が基礎から折れ、ほぼ無傷の状態で横倒れになっていたことを覚えている。

この壊滅的な被害は、なぜこれほど多くの真新しい建物が倒壊したのかをめぐり、多くの怒りと内省を呼んだ。専門家は、設計に根本的な欠陥があったと指摘した。土台となる柱は十分な大きさがなく、鋼鉄の量も少なすぎたのだ。

この発見はまったくの驚きというわけではなかった。私が台北に住んでいた1990年代には、度重なる建設スキャンダルがあった。

私が学生時代に住んでいた建物は、海砂を使ったコンクリートで建てられていたことが判明し、危険だとされた。海砂は川砂よりもはるかに安価だが、塩分を多く含んでいる。それが鉄筋を腐食させ、「コンクリートのがん」と呼ばれる現象を引き起こす。

私たちは、中程度の地震でもその建物が倒壊する可能性があると言われた。台北市長が主導した別の調査では、新しいビルのコンクリート柱の中に古い石油缶が入れられているのが見つかった。

この建設会社は、手抜きして利益を上げるためにコンクリートでこの手口を使ったと非難された。

それ以来、多くのことが変わった。921大地震の後、建築基準法が変更された。

すべての新しい建物は、基本的な耐震レベルを満たすことが求められるようになった。これは、構造的に大きな不具合を生じることなく、一定レベルの揺れに耐えられることを意味する。

政府はまた、建物に要求される耐震レベルを常に見直している。1999年以降、政府は耐震改修を大々的に実施し、建物の外壁に鉄骨の骨組みを追加したり、柱を増やすなどの補強を行ったりした。それは橋のようなインフラにも適用された。

何十年もの間、政府の対策・防災部門で働いてきた台湾大学の呉逸民教授は、「台湾は危険な地震に頻繁に見舞われるため、質の悪い建物のほとんどはすでになくなっている」と述べた。

また、悪質な建設行為も罪に問われた。17階建ての高層ビルが倒壊し、数十人が死亡した2016年の台南地震では、ビルの建設に関わった5人が起訴され、その後、収監された。

今週これまでに報告された10人の死者のうち、建物の倒壊による悲劇的な犠牲者は1人だけだった。前述の、花蓮市の10階建ての建物だ。その他の死者は、地滑りや落石によるものだった。

そしてこれは、今回台湾の被害が限定的だったもうひとつの主な理由を示している。

運が一役買ったのだ。3日の地震は沖合で始まり、その後、最も近い人口集中地区の花蓮の南を揺れが襲った。

震央分布図によると、震源地は花蓮の南30キロメートルの地点だった。そのため、花蓮とその周辺は最悪の揺れを免れたのだった。

その代わりに、南、西、北の山々で巨大な岩盤崩落が発生し、道路や橋が損壊し、悲惨なことに死者が出た。

3日の地震は、1999年の南投県や昨年のトルコ、シリアなど、人口密集地のすぐ近くで発生した地震とは対照的だった。

それでも、M7.4の地震は信じられないほど強力なもので、島だけでなく、それ以外の土地も揺らした。

台湾にとって幸運だったのは、今回は十分に備えができていたことだ。

台湾のその他の地震対策

追加取材:フランシス・マオ(シンガポール)

(英語記事 Taiwan earthquake: How the island's two-decade preparation saved it

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