【連載コラム】第59回:各球団の主力投手が次々に故障 「高出力時代」の投手を守るために何が必要なのか

写真:右ヒジの炎症で故障者リスト入りしたゲリット・コール ©Getty Images

2024年シーズンの本土開幕からまだ2週間弱しか経っていませんが、各球団の主力投手が次々に故障し、大きな騒ぎとなっています。昨季のサイ・ヤング賞投手であるゲリット・コール(ヤンキース)が右ヒジの炎症で故障者リスト入りを余儀なくされただけでなく、若き剛腕エウリー・ペレス(マーリンズ)と2020年サイ・ヤング賞のシェーン・ビーバー(ガーディアンズ)はトミー・ジョン手術が決定。スペンサー・ストライダー(ブレーブス)とフランバー・バルデス(アストロズ)も故障者リスト入りしてしまいました。

こうした事態を受け、MLB選手会のトニー・クラーク専務理事は「選手たちが健康と安全を懸念して満場一致で反対したにもかかわらず、コミッショナー事務局はピッチクロックの時間短縮を強行した。それ以来、リカバリータイムの減少が健康に与える影響について、我々の懸念は増大する一方だ」と今季から有走者時の投球間隔が20秒から18秒に短縮されたことを批判する声明を発表。選手会としては「ピッチクロックが故障の原因」との立場を取っていることになります。

一方、MLB機構は「選手会の主張は球速やスピンレートの上昇が故障と大きく関係しているという、経験的な証拠や長年のトレンドを無視したものである。ピッチクロックが故障率を上昇させるという証拠は見つかっていない」と主張し、真っ向から対立。マイナーで試験的に導入されていたとはいえ、MLBでピッチクロックが導入されたのは昨季が初めてであり、わずか1年のデータをもとに「ピッチクロックは故障と関係ない」と結論付けるのは早計かもしれませんが、投手の故障率の上昇は今に始まったことではなく、MLB機構の主張には説得力があります。

では、現場の投手たちはどのように考えているのでしょうか。ジャスティン・バーランダー(アストロズ)は「ピッチクロックのせいにするのが最も簡単だが、あらゆる要素が少しずつ影響を及ぼしている。最も大きいのは投球スタイルが変わったことだ。どの投手も可能な限り全力で投げ、可能な限り回転量を増やそうとしている。これはパンデミックであり、解決するには時間がかかるだろう」と話しています。打者を抑えるために出力を高めることが求められる時代になった結果、人間の身体が高負荷に耐えられなくなったというわけです。

コールは自身の故障がピッチクロックのせいであることを否定しつつも「たった1年で何も影響がないと断言するのは短絡的だ。本当の影響がわかるのは5年後くらいだろう」とMLB機構の無責任さを批判。「主役は選手であり、選手のケアが重要だという雰囲気になっていないことにいら立っている。最高の選手を可能な限りフィールドに送り出すべきだという点ではみんな意見が一致するはずだ」と問題を解決するために双方が歩み寄り、協力することを求めました。

投手たちに「速い球を投げすぎるな」とは言えない以上、「高出力時代」の投手たちをいかに故障させないかが重要な課題となります。公式球の質を上げるのか、6人制ローテーションを採用することで解決できるのか、あるいは「高出力時代」に適した投球フォームが存在するのか。ただし、投手を守るために投手有利の環境を整えてしまうと、一気にゲームバランスが崩壊する可能性もあります。MLBはこの問題にどう対処していくのか。今後の動向を見守りたいと思います。

文=MLB.jp 編集長 村田洋輔

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