老後破綻を回避するには?住宅ローン組み方の注意

消費増税したものの、住宅ローン金利は相変わらずの超低金利。マイホーム取得を検討している家庭も多いでしょう。住宅ローン金利も上げ下げはあるものの、過去最低水準であることに変わりはありません。

1年前と比較すると、購入できる物件価格は180万円プラスに

住宅購入を検討しはじめると、物件については、たくさんのモデルルームを見学したりして、時間をかけるものですが、住宅ローンとなると、販売会社から勧められるままに契約してしまう人が少なくありません。

手続きなどを考えると、販売会社に任せた方がラク、となりがちですが、何千万円もの住宅ローンを何十年もかけて返済していくわけですから、目先のことだけではなく、長期的な観点をもって、資金計画にのぞみたいものです。

住宅ローン金利は、ここ数年で上げ下げはあるものの、相変わらずの最低水準。住宅金融支援機構のフラット35(借入期間が21年以上35年以下、融資率が9割以下、新機構団信付きの場合)の最近の金利は、1.45~1.11%の間で推移しています。

平成元年4月の旧公庫融資の基準金利は4.4%。当時は返済途中に金利が上がる段階性金利で、10年目には4.95%になるものでした。

みなさんの親世代の時代とは雲泥の差といってもいいでしょう。しかし、これだけ住宅ローン金利が低いからといって、資金計画を甘く考えてしまうと、のちのち返済困難に陥ってしまう危険も潜んでいるのです。

1年前(2018年11月)のフラット35の金利は1.45%でした。仮に、毎月返済額10万円、ボーナス返済なし、返済期間35年で試算すると、借入可能額は約3292万円。

2019年10月現在の金利1.11%で計算すると、借入可能額は約3479万円となり、1年前より約180万円多く借りられることになります。頭金が600万円だとすると、1年前は同じ条件で購入できる物件価格は3892万円。現在は4079万円まで可能となります。

購入可能な物件価格が上がれば、それだけ選択肢は多くなります。そこに、資金計画を甘く考えてしまうキケンがあるのです。

毎月10万円が家計に無理のない返済額であったにも関わらず、金利が低いからという理由で、融資額を増やしてしまうと、結果、毎月返済額が増え、家計に思わぬ負担がかかることになるのです。

少し頑張れば手が届くとばかりに、当初の計画から逸脱してしまうと、長期の返済を考えれば、余計なリスクを背負うことになってしまいます。

もし頭金600万円で4500万円の物件を購入しようとすると、借入額は3900万円。毎月返済額は約11万2100円になります。当初予定から1万2000円のオーバー。年間で約14万円増えるわけです。

最初は、家計を切り詰めれば、なんとかなる、と思っていても、10年、20年先に何が起こるかわかりません。毎月の赤字分をボーナスで補てんするようになったり、節約生活が続くことに嫌気がさしてしまう可能性もあります。昇給の見込みが不確定な状況で、返済負担が重くなることを安易に考えてはいけません。

上記の試算は、全期間固定金利のフラット35でのものです。もしも、固定金利選択型や変動金利であった場合、返済途中で金利が上昇すれば、さらに返済負担は増える可能性もあります。今後、金利上昇の可能性がゼロではない以上、過剰な借り入れは避けたほうが賢明でしょう。

返せる額が借りられる額。基本の借り方は変わらない

時代とともに、お金のセオリーは変化していきますが、基本となる部分は変わらないものです。

住宅ローンでいえば、金利は上下したり、新しい仕組みのローンが出てきたりと変化はありますが、基本となる「返せる額が借りられる額」というのは変わりません。毎月8万円が無理なく返せる額であれば、ローン金利が下がったからといって、借りられる額を増やしていいことにはなりません。

基本の考え方は、

1)毎月返済額で無理のない金額を設定し、借りられる額を試算する

2)できるだけ毎月返済のみで試算、ボーナス返済は補完的にとらえ、1~2割程度にとどめる

3)35年返済で試算し、繰り上げ返済をうまく活用する

4)頭金の不足を気にしすぎて購入を後送りすると、定年退職後も返済が続く可能性大

5)必ずしも、60歳定年とは限らない。また、退職金をあてにした資金計画はキケン

6)夫婦でそれぞれローンを借りるなら、妻は低金利の変動金利で早期返済を

挙げればキリがありませんが、上記6つのポイントを抑えておけば、無理な資金計画をすることもないでしょう。

60歳で完済を目指さなくてもいい。収入を得る道も視野に

最近は、晩婚化の影響で住宅購入の時期が遅くなり、60歳定年時にも住宅ローンが残っていることも多く、預貯金金利の低下で頭金が増えず、借入額を増やす傾向にもあります。

しかし、50代に入ると、子どもの教育資金がもっとも重くかかる時期にさしかかり、教育費と住宅ローンの返済で、自分たちの老後資金を準備する時間が足りなくなります。今は、返せる額の住宅ローンであっても、教育費とダブルの負担に耐えられるのか、そういった観点も必要になるでしょう。

前述の基本の考え方3で「35年返済で試算する」と書きましたが、仮に毎月返済額を少し増やせる余裕があれば、30年返済、25年返済でローンを組むこともリスク回避になります。今は返済に問題がなくても10年後に負担が重いと感じたときに、35年返済に延長し、毎月の返済負担を減らすことが可能になるからです。

また、定年退職前に完済を目指そうと、こまめに繰り上げ返済をするのも大事なことですが、あまり無理をしすぎないことです。

教育費のめどが立つまでは、あえて繰り上げ返済をせずに、その分を教育費に回すということもひとつの考え方です。少なくとも住宅ローン控除を受けられる期間は、所得税軽減の恩恵を受けるのもいいでしょう。

退職金で住宅ローンを完済すれば、すっきりするかもしれませんが、65歳まで再雇用、継続雇用で収入を得られるようなら、必ずしも退職金で精算することがいいとは限りません。老後資金の準備も十分でないままに、退職金がローン返済でなくなってしまうのは、さらに不安を高めてしまうことになりかねません。

住宅ローンは借りるときの状況だけではなく、教育費との兼ね合い、退職金をどう活用するのか、退職後も返済が続くなら、働き方はどうするのか、といった長期的なライフプラン、将来のイメージをもっておくことが重要です。

住宅ローンが老後破たんの始まりとならないように、資金計画をしっかり立ててください。

(文:伊藤 加奈子(マネーガイド))

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