顕在化する電力へのサイバー攻撃に備え 中部電力、役割に応じた教育・訓練や外部連携

中部電力での取り組みを語る長谷川氏

2015年と2016年、大規模な停電がウクライナで起こった。原因はサイバー攻撃とみられている。東京オリンピック・パラリンピックを2020年に控えた日本でも重要インフラや工場といった産業制御向けのサイバー攻撃が懸念される。全社的な取り組みを行う中部電力を取材した。

安定供給は絶対守るべき使命

「サイバー攻撃から守るべきもの、それはお客さま情報と電力の安定供給のふたつ」と語るのは中部電力ITシステムセンター総括グループ主任の長谷川弘幸氏。お客さま情報はいわゆる顧客情報漏えいなどで、旧来から日本でも警戒されている。産業系についてはこれまでは外部のネットワークにつながっていないことが多く、サイバー攻撃のリスクは低かった。しかしOSの汎用化に加え、IoTの拡大、さらには外部メンテナンスの機会もあることから、危険性は増大。長谷川氏は2015年には約140万人が影響を受けたというウクライナの停電について、詳しい情報は明らかになっていないとしつつも、「サイバー攻撃が原因とされる停電の発生には大きな衝撃を受けた。電力会社には電力の安定供給という絶対的な使命があるため、サイバー攻撃に対するリスクの洗い出しの強化が必要だと感じた」と振り返った。

同社では対策の考え方として人・組織・技術の3つの対策が必要と考えている。長谷川氏は「特に大事なのは人」と説明。社内の人員を経営層、一般、セキュリティ担当の3つの階層に分け、教育・訓練を実施している。

経営層は意思決定を行うため、それに役立つプロセス確認など必要な情報が何かを提示。最終責任を負った決定に役立つ情報をあげ、判断をしてもらう。一般の従業員は異常が何かを知り、それを知った際にすみやかにセキュリティ担当者に連絡する必要がある。近年増加している標的型攻撃などの疑似訓練を年に1~2回実施。異常時に連絡することの重要さなどを教え込んでいる。

そしてセキュリティ担当者は経営層と一般従業員やセキュリティの現場との橋渡しを行う。主に一般従業員やセキュリティ事象の発生箇所から異常の情報を聞き対処を行い、経営層に情報を上げる。「幸いなことに当社は社長が『サイバー攻撃の脅威は重大な経営リスクであり、自然災害等、これまで注視してきたリスクと同列に位置付けるもの』という考えを持っており、『電気事業は家庭生活や企業の経済活動を支えているため、電力供給に係るセキュリティを確保することは社会を守ることにもつながる』と意識している。そのため、サイバーセキュリティの施策を積極的に打ちやすい状況にある。風通しはいい」と長谷川氏は語る。

中部での地域内連携も推進

社内の連携を図る以外に必要に応じて外部組織との情報交換も行っていく。電力ISACに加盟し、脆弱性情報は常日頃収集。技術的な対策としては、SOC(セキュリティ・オペレーション・センター)を子会社の中電CTIに設置。24時間365日のシステム監視を実施している。外部との共同研究に注力。サイバー攻撃の検知技術向上のため情報通信研究機構およびPwCサイバーサービスと、組織間連携手法の確立のため慶応義塾大学・日立製作所と共同研究を実施している。

組織的対策について、長谷川氏は「セキュリティの有事の際には、防災体制に移行する仕組みとしている」と説明。実際、サイバー攻撃を受けた警戒レベル3の事態に陥った場合は、災害が起こったときと同じ非常時体制に移行する。災害についてはこれまでも危機対応のノウハウがあり、これをサイバー攻撃にも当てはめて対応することとなる。近年のサイバー攻撃は巧妙化が進んでおり、防ぎきることは困難として、システムへの侵入を受ける可能性があることを前提とした体制をとるという。

2016年に電力の小売全面自由化も実施され、電気だけでなくスマートメーターの普及を通じた情報のやりとりも増大。サイバーセキュリティで難しいことについて、長谷川氏は社内の理解を得ること以外に、「ネットワークが広がり、もはや一企業のみで安全と言い切れる体制を作ることは不可能」と指摘。世界中どこからでも、どこへでも攻撃を簡単に行えるような状況となり、対策が単独では難しいのが現状だ。前述のような外部との情報交換や共同研究は今後も推進。情報を外から得るためにも、自社で何かが起こった場合は、いち早く社会に公表する姿勢が重要になると分析する。

今後の取り組みとして中部電力では、中部地域のセキュリティ向上を目指している。一企業の取り組みではなかなか守ることが難しくなった今、異業種も巻き込んで、地域ぐるみで取り組み、より安全な社会づくりを進める。具体的には日本シーサート協議会の地区活動運営委員会で中部地区運営委員を務め、地域の活動を推進している。また、中部地域で開催されているコミュニティ等にも参加し、情報交換も実施している。コンセプトは「みんなで守る」。防災や防犯のような地域ぐるみの発想が、サイバーセキュリティにも必要な時代になっている。

(了)

リスク対策.com:斯波 祐介

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