ヒラリー氏を猛追したバーニー・サンダース氏。いまなお続く躍進と民主党内の対立とは

2016年アメリカ大統領選挙ではドナルド・トランプ氏の勝利が世界を驚かせましたが、それと並んで世界を驚かせたのは民主党予備選挙で再分配を強く訴える社会民主主義者を自認するバーニー・サンダース上院議員が元ファーストレディで全国的な知名度もあるヒラリー・クリントン氏を猛追したことです。

大統領選の敗北によってサンダース氏の躍進が止まったかに見えました。しかし、サンダース氏やその一派の躍進はいまなお続いています。その象徴が、ニューヨーク州のある選挙区予備選でサンダース派の候補が現職の重鎮議員を破ったことです。今回は、このサンダース派をめぐる民主党内の対立について解説します。

物議を醸すも、実は支持を集めるトランプ政権

トランプ政権は連日政策や会見において物議を醸しています。特に最近では、不法移民とその子どもを強制的に隔離する政策をめぐって、党派を超えた批判が広がっています。

一方で実は、トランプ政権の支持率が下がっているかといえば、そうではありません。ある世論調査会社の調査によれば、直近のトランプ大統領の支持率は42%で、過去の大統領に対して同じタイミングで行われた調査と比較すると、オバマ元大統領は46%、クリントン元大統領は43%となっており、42%のトランプ氏は特別低いわけではありません。個別の政策において批判はあるものの、総じてみれば一定の評価を獲得していると言ってよいでしょう。

トランプ政権の影に隠れる民主党

一方で、今秋の中間選挙で過半数の議席獲得を狙う民主党は、反トランプ政権という共通項があるにも関わらず、政策的にはまとまることができていません

現在、民主党内で主流派となっているのは、比較的穏健な政策志向のグループです。各論では反対することはあるものの、1990年代のビル・クリントン政権、その後のオバマ政権、2016年選挙でヒラリー・クリントン候補を支えてきたグループです。しかし、近年このグループへの反発が強まっています。その急先鋒がサンダース氏を中心としたグループです。サンダース氏らは自党のオバマ政権の政策を批判し、より強硬に国民皆保険や最低賃金の上昇、大学教育の無償化などを訴えてきました。この主張への支持が広がり、今回の予備選で火を噴きつつあるのです。

多くの選挙区でサンダース派の候補が擁立され、デッドヒート

アメリカの選挙制度においては11月の本選挙の党候補者になるには党内予備選挙で勝たなければいけません。そのため、現職議員であっても、また大統領や党幹部が支持する候補であっても、まずは予備選挙で勝たなければいけないのです。今回の多くの民主党予備選において、主流派が推す候補とサンダース派を自認する候補とが激しいデッドヒートを繰り広げています。

このデッドヒートの中、予想外の結果がある選挙区でもたらされました。下院ニューヨーク州第14選挙区において、下院議員を10期務めたベテランであり下院民主党トップのペロシ議員の後継者として有力視されていたクローリー氏が、かつてサンダース派だった28歳のオカシオコルテス氏に敗れたのです。他にも、メリーランド州知事選民主党予備選挙ではサンダース氏が支持する候補が勝ちました。

無論、こうした動きはまだまだ例外的と言える範囲です。実際、多くの選挙区の民主党予備選挙では現職、あるいは主流派が支持する候補が勝っています。しかし、2014年選挙の共和党予備選挙で急進的な候補が当時下院共和党幹部だったカンター氏を破ったという事件があり、そのあとその勢力は議会共和党内で拡大したという経緯があります。この事例のように、今回のオカシオコルテス氏の勝利は将来的なインパクトを持ち得るのです。

共和党がトランプ政権のもとでかつての共和党ではなくなっているのと同様に、民主党においてもサンダース氏の影響力のもとでかつての民主党ではなくなりつつあるのかもしれません。今後もアメリカ選挙に注目する必要があります。

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