【特集】勝敗分けた経験の差 W杯、フランスが高レベルの戦い制す

フランス―ベルギー 前半、パンチングでクリアするフランスのGKロリス(右)=サンクトペテルブルク(共同)

 堅い試合だった。タイトルが懸かった真剣勝負を高いレベルで演じると、得てしてこのような内容になってしまう。ワールドカップ(W杯)ロシア大会の準決勝。古都・サンクトペテルブルクで行われたフランス対ベルギーは緊張感あふれる一戦となった。

 今大会で平均年齢が2番目に若いフランス。対するベルギーは8強入りした2年前の欧州選手権とほぼ同じメンバーが並び、戦い方に成熟を感じさせる。ベルギーは今大会、5試合で14得点と攻撃力が目立つのだが、決勝トーナメントに入ってからこのチームは修正力の高さも見せている。

 きっかけとなったのは、日本に2得点を奪われた決勝トーナメント1回戦。3バックのサイドに空いたスペースを使われて失点したことを教訓に、準々決勝のブラジル戦から守備を見直す。基本のフォーメーションは3―4―3と変えないが、守備時には4バックになるよう変えたのだ。

 だが、王国ブラジルを下した試合では大きなツケを払うことになった。右アウトサイドで攻守に渡って献身的なプレーを見せたムニエが通算2回目の警告を受け準決勝は出場停止処分に。フランス戦でこのポジションに起用されたのは、本来は右アウトサイドのシャドリ。これに伴い、4―2―3―1へとシステム変更を余儀なくされることになった。

 両チームとも、攻撃の得意手はカウンター。そして、守備は単に自陣を固めるのではなく、前線からの激しいプレスでボール狩りを行う。現代的な戦術を実行するチーム同士の戦いだ。勝敗を分ける鍵となるのは、先制点であることは誰の目にも明らかだった。

 大きなポイントとなったのは、フランスGKロリスの見せたビッグセーブだろう。前半22分にシャドリの右CKをフェライニが落としたボール。これをアルデルウェイレルトが難しい体勢から狙った左足シュートは、ゴール左隅を襲ったが、ロリスが素晴らしい反応で弾き出した。1ゴールを決めるのと同等の、1失点を防いだのだ。

 ロリスを見ると、いつも思うことがある。このフランスのキャプテンは、優しそうな容姿が災いしているのか、どこか頼りなげに感じてしまうのだ。実際のプレーはそうではない。事実、準々決勝のウルグアイ戦でもスーパーセーブがあった。前半終了間際のカセレスのヘディングシュートを阻んだプレーだ。その意味で、自らのプレーで若いチームをリードするキャプテンとしての重責を十分に果たしている。そしてサッカーには、このような格言がある。「タイトルは優れたGKと共にある」と。

 同じことはベルギーのGKクルトワにもいえた。前半40分、フランスのパバールが右サイドからGKと1対1になった場面。クルトワはパバールの狙い澄ましたシュートを右足1本ではじき返した。まさに最新式のゴールキーピングで対応したのだ。

 両GKのレベルが高く互いにゴールが遠いなかで、勝敗を分けたのは1本のセットプレーだった。後半立ち上がりの6分、フランスの右CK。グリーズマンのピンポイントのクロスを、ニアサイドで合わせたのがCBのウンティティだった。194センチの長身、その独特のアフロヘアも含めれば2メートルにも達するフェライニに競り勝ってのヘディングシュートは、抜群のポジション取りとタイミングで決まったといえる。

 1―0のまま迎えた終盤で、フランスが披露した「勝つための守り」は見事の一言だった。1点を守ると決めたら、変な色気は出さずに徹底的に守り倒す。最終ラインと中盤のブロックをコンパクトに保ち、絶対にそのエリアには侵入させない。たとえ、危険地帯の外側でいくら相手にボールを保持されても動じない。エリアの外から長めのシュートを放たれても、GKが処理してくれるという安心の裏付けがあったからだろう。フランスはこれで6試合中4試合が無失点のクリーンシートだ。

 そして、前線にはエムパペとグリーズマンというスピード豊かな2人のアタッカーが残っている。彼らは試合を通してベルギーに脅威を与え続けた。GKクルトワの好守もあって追加点はならなかった。だが、ロスタイムを含めていつゴールを陥れてもおかしくないほどだった。

 試合全体を振り返れば、どちらが勝ってもおかしくない内容だった。それほど拮抗(きっこう)した戦いを繰り広げた両チームの勝敗を分けたのは、経験の差か。W杯では自国開催だった1998年フランス大会で優勝を飾ったほか、2度の決勝進出があるフランス。対するベルギーは86年大会の4強進出が最高成績だ。

 世界的スター選手が集まっているW杯でも、やはり経験は重要になるのだろう。3度の決勝進出で一度も優勝したことのないオランダに対し、ドイツのある選手がこういうことを話していた。

 「優勝するための秘訣(ひけつ)は、優勝した国にしか分からない」

 その言葉通りなら、もう一つの決勝進出チームはクロアチアではなくイングランドとなるのだが。約半世紀前の経験は、通用するのだろうか。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はロシア大会で7大会目となる。

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