プロ契約は16人超…ベネズエラの名門エスコバー家の“長”が語る野球愛

DeNAのエドウィン・エスコバーの父ホセ・エスコバー氏【写真:編集部】

DeNA左腕エドウィンの父ホセ氏、自身もインディアンスでプレー

 メジャーでは2世選手や3世選手の存在は珍しくない。選手の絶対数が日本より多いこともあるが、野球選手の父が子供を球場に連れてくることは日常茶飯事。幼い頃からクラブハウスの中で過ごし、試合の前後にグラウンドでキャッチボールに興じる子供たちは、自然と父の背中を追いかけるのだろう。

 こうやって「ベースボール・ファミリー」のDNAは父から子に脈々と受け継がれていくわけだが、野球大国ベネズエラで屈指の「ベースボール・ファミリー」として名を轟かせているのが、DeNAの救援左腕、エドウィン・エスコバーを輩出したファミリーだ。その中心人物とも言えるのが、エドウィンの父ホセ氏。7月上旬まで日本に滞在していたホセ氏を直撃インタビューした。

 ファミリーが拠点とするのは、ベネズエラの北部、ラ・グアイラというカリブ海に程近い街だ。

「我がファミリーの男連中が集まると、会話の85%は野球の話だ。食事をしていても野球、ビーチへ行っても野球、野球、野球、野球(笑)。人生そのもの、いや私たちの体の一部だから、野球は切っても切り離せないんだ」

 そう語るホセ氏自身、メジャーリーグでのプレー経験を持つ遊撃手だった。1979年からマイナーで11年を過ごした後、1991年4月13日にインディアンスでメジャーデビュー。わずか10試合の出場にとどまったが、地元で知られたベースボール・ファミリーで最初にメジャーの舞台に立った人物でもある。

「メジャーでのデビュー戦は今でも覚えている。レッドソックス戦でフェンウェイパークが舞台だったんだ。その日は守備固めで打席には立たなかったけど、歴史ある球場に立てた時の感動は忘れないよ。

 初めてのヒットは、クリーブランドに戻ってからのロイヤルズ戦だった。救援のルイス・アキーノから左中間に飛ばしたヒットで打点もついたんだ。10年間マイナーでやった甲斐があったと、心から思えた瞬間だったよ」

 ちなみに、初ヒットを打った試合でインディアンスの先発マウンドに立ったのは、現在エンゼルスで投手コーチを務めるチャールズ・ナギーだった。ロイヤルズには、殿堂選手のジョージ・ブレットやカーク・ギブソンが名を連ねていた。

エスコバーファミリーで結成されたソフトボールチーム「ロス・プリモス(従兄弟たち)」【写真提供:ホセ・エスコバー氏】

ケルビン、アルシデスに加え、アクーニャJr.もメンバー

 ホセ氏のメジャーデビューをきっかけに、エスコバー家から次々とメジャーリーガーが誕生することに。まずは、甥のケルビン・エスコバー。ブルージェイズやエンゼルスで活躍した先発右腕でメジャー101勝を誇る。続いて、2015年にロイヤルズで世界一に輝いた遊撃手アルシデス・エスコバー、さらに今季途中までエンゼルスに在籍した投手ビンセンテ・カンポスも甥だ。息子のエドウィンはメジャーで通算27試合投げた後、戦いの場を日本に移したが、もう1人の息子のエルビスはパイレーツ傘下マイナーでメジャー昇格を目指す23歳左腕だ。「エルビスは外野手だったが、打撃がいまいちで今年からコンバートされたんだ。それでも時速94、95マイル(約151~153キロ)で投げるんだよ」と語る顔は誇らしげだ。

 これだけでも豪華な面々だが、今年デビューしたもう1人の選手がすごい。ブレーブスの左翼手、弱冠20歳のロナルド・アクーニャJr.だ。アクーニャの父がホセ氏の甥で「少し前まではアクーニャ家も本名にエスコバーの名字を入れていたんだが、いつの間にかなくなっていたなぁ」とホセ氏は笑う。

 これまで16人以上がMLB球団とプロ契約を結んだというファミリーの絆は強い。毎年12月になると、前述した全メジャー選手を中心としたエスコバー・ファミリーの男性陣が集まり、ソフトボールチームを結成。その名も「ロス・プリモス(従兄弟たち)」というチーム名で、「30人以上集まるんだ。エスコバー帝国だよ」と揃いのユニホームを身にまとった集合写真の取り出した。遠縁にあたるカージナルスの一塁手ホセ・マルティネスも弟や父らとチームを組むなど、合計4チームほどで大会が行われるという。

「子供の頃から、朝、昼、晩とずっと野球をやってきた。エスコバー家にとって野球こそ人生なんだ。オフぐらい休んだら?なんて言われるけど、野球をしていないと暇でしょうがいない(笑)。だから、日本でも必ず球場に試合を見に行ったよ。

 日本の野球は面白いね。私は大好きだ。メジャーとは違った面白さがある。ロッテの井口監督がホワイトソックスでプレーしていたことは覚えているよ。いい内野手だった。今のNPBだったら、筒香(DeNA)、山田(ヤクルト)、坂本(巨人)、丸(広島)あたりがメジャーに行ったら面白そうだね。いい才能を持った選手はたくさんいるよ」

 今季は再来日する予定はないが、エドウィンが来季も日本でプレーすることになれば、また必ず訪れたいと話す。ファミリーに伝えていることは、ただ1つ。「どこで野球をするにしても、責任を持ったプレーを見せるために、準備だけは怠らないように」。日本でメジャーでベネズエラで、エスコバー・ファミリーの教えは広がりを見せている。(Full-Count編集部)

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