予選とレース序盤の好調から悪夢の展開となったニッサン陣営。500マイル耐久戦の難しさ/GT500《あと読み》

 圧巻のポールポジション獲得から一転、MOTUL AUTECH GT-Rはレース中盤で早々に優勝の挑戦権を実質、失う展開となってしまった。決勝では序盤にニッサンGT-Rがトップ3を独占して編隊を組むような圧倒的な存在感を示しながら、最終的にはフォーラムエンジニアリング ADVAN GT-Rの6位が最高位。ニッサン陣営にいったい、何が起きていたのだろうか。

 ステアリングを握ったMOTUL GT-Rのロニー・クインタレッリはスタート直後からペースが良く、2番手のフォーラムエンジニアリングとともに3番手のau TOM’S LC500に5周で約5秒のギャップを築いたMOTUL GT-R。そのまま20周目を過ぎても、2番手に上がったauとは約7秒のギャップがあったが、そこから急激にペースを落としてしまった。

 原因はタイヤのタレが予想以上に大きかったこと。松田次生が振り返る。

「最初のスティントでロニーが35周行く予定だったのですが、30周しかいけず5ラップ短くなってしまったんです」

 31周目にピットインしてクインタレッリから次生にドライバーチェンジ。その次生も第2スティント中盤からペースが厳しくなり、後続に抜かれながらもなんとか37周の周回を稼いだ。

「僕のスティントで抜かれながらも、とにかく周回を重ねることを優先してなんとか37周引っ張ることができたのですが、その次のロニーのスティントがまたえらく短くなってしまい、その時点で戦略を変えないといけなくなりました」と次生が話すように、第3スティントを担当したクインタレッリはわずか26周しか周回を稼げず、ここでMOTUL GT-Rは4ピット/5スティントから5ピット/6スティントに作戦を変更せざるを得なくなってしまう。だが、ライバルよりピットが1回多くなれば当然、勝つことはできなくなる。

「予想以上にタイヤが保ちませんでしたが、抜かれても仕方ないのでなんとか1スティントで35周保たせられれば、という想いがあったのですが……5ピットになった時点で勝ち目はありませんからね。予選では速かったですが、やはり、速いだけではダメでしたね」と次生。

「タイヤの温度レンジとしては想定どおりだったのですが、ウエア(摩耗)が厳しくて、タイヤを保たせるには遅いペースで走るしかありませんでした。これもレースなので仕方ありません。ライバルメーカーのタイヤがレベルアップしているので、しっかりと勝てるタイヤを作っていきたいです」と次のSUGOに向けて前を向くのが精一杯の様子だった。

 また、MOTUL GT-Rを55周目にオーバーテイクしてトップに立ったカルソニック IMPUL GT-Rも、2番手に25秒以上のギャップを作る独走状態に入りながら、143周目に吸気系のトラブルでスローダウン。ピットに戻って修復してコースに復帰するも、12位フィニッシュとなってしまった。

「クルマは動くけれども、エンジンのパワーが上がらなくなってしまって、もうどうしようもない状態になってしまいました。ピットに入ってチェックしたら、付いていなきゃいけない部品が付いていなかったので、それを付け直したらパワーは回復したんですけど、そのアクシデントはもったいなかったですね」とその時の状況を振り返るのは、カルソニックの佐々木大樹。

「残念ですけど、レースはこのようなことは付きものなので、もちろんチャンピオン争いはもう厳しくなってしまって、このレースを獲れればいい状況でタイトルが狙えたんですけど、今回の結果でチャンピオンの可能性は実質なくなってしまった。今年はカルソニックさんが80周年なので、これからのレースでなんとか1勝は挙げたいですね。やはり、獲れるときに獲っておかないとチャンピオンにはなれないと思います」と、レースの厳しさを感じながらも、残り3戦に向けての抱負を語った。

 スローダウンするカルソニックのマシンを見て、サインガードで頭を抱えたチームメイトのヤン・マーデンボローも、悔しさを隠しきれない。

「アンダーステアが出ていたからマシンのフィーリングはいいとは言えなかったけど、それでも速かったし、特に問題はなかった。僕の最終スティントもアグレッシブになりすぎず、リフト&コーストしてマシンをケアしていた。25秒という充分なギャップがあったからね。ピット作業も毎回完璧だった。だからトラブルが起きて精神的にかなりキツかったし、お腹も痛くなったよ」

「これでチャンピオン争いも厳しくなってしまった。(レース距離が長く)通常より多くのポイントが獲得できるから、このレースに注力して臨んできた。だけど、結局はランキングトップとの差が大きくなってしまった。僕はとにかくスーパーGTで初優勝を挙げたいんだ。今日はもっとも近づいた日だったけど、あと少しのところでなにかに邪魔された。でも、とにかく戦い続けるよ」と、マーデンボローは文字どおり、ため息混じりにレースを振り返った。

 3号車のCRAFTSPORTS MOTUL GT-Rは140周目にミッション系のトラブルでガレージにマシンを戻してレースを終えており、ニッサンGT-R陣営としては予選の好結果、そしてレース序盤のトップ3独占という強さを見せる展開から、レース終盤はまさに悪夢のような展開になってしまった。

 ただ、今回の富士500マイルはニッサン陣営だけにトラブルが集中したわけではなく、優勝したau TOM’S LC500のピットミスをはじめ、ZENT CERUMO LC500のブレーキトラブルによる大クラッシュ、そしてホンダ陣営でもKEIHIN NSX-GTの予選での電気系トラブル、RAYBRIG NSX-GTの黄旗無視の10秒ペナルティなどなど、どのメーカー、そして多くのチームでなんらかのアクシデントは起きた。もちろん、運/不運はあれども、そのなかで最後まで生き残ったものが好結果を得られた、まさにサバイバル500マイル。

 スーパーGTで初の開催となった第5戦富士の戦いは、レースは終盤にトラブル、アクシデントとまさかのサプライズが連続する、悲喜交々の内容となった。

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