GT-Rトップ3独占の前半から一転、まさかのサバイバル戦を制し、トムスがスーパーGTで初の1-2達成【GT500決勝】

 真夏の耐久戦として初開催500マイル(約800km)の長丁場で争われたスーパーGT第5戦富士スピードウェイは、波乱の177周をくぐり抜けたau TOM’S LC500がトップチェッカー。2位にはチームメイトのKeePer TOM’S LC500が入り、大量ボーナスポイントを手にしたトムス勢が、選手権争いを優位にする大きなリザルトを手にした。

 第4戦タイの結果から、戦前の予想では36号車au TOM’S LC500が本命視されて幕を開けた真夏の富士戦。しかし、週末も全国的に新記録を更新し続ける猛暑の影響が色濃い暑さのなか、予選から他を圧倒する強さを見せたのはMOTUL AUTECH GT-Rを筆頭とするGT-R勢だった。

 ハンデウエイトと1ランクダウンの燃料リストリクターをものともせず、土曜の公式練習から予選Q1、そして予選Q2と全セッションでトップタイムを記録した23号車に加え、予選2番手のフロントロウには高星明誠が見事な予選アタックを見せたフォーラムエンジニアリング ADVAN GT-Rが並び、4番手に23号車と同じくミシュランタイヤを装着するCRAFTSPORT MOTUL GT-R、5番手にカルソニック IMPUL GT-Rと、ニッサン陣営は予選トップ5に全4台を送り込む大躍進を見せる。

 そのGT-R勢に対し、3番グリッドから発進する36号車トムスとレクサス陣営が、どんな戦略で迫るかがレース序盤の焦点となった。

 13時30分のパレードラップ開始からフォーメーションを経てクリーンにスタートを切ったGT500の隊列はトップ3に変動なく、後方では6番手スタートのWedsSport ADVAN LC500が4番手にジャンプアップ。2台のGT-Rの前に出てニッサン陣営の分断を試みる。

 しかし、2周目に早くも反撃に出たGT-Rは3号車がポジションを取り返し、翌周には36号車とサイド・バイ・サイドでニッサンのワン・ツー・スリー体制を狙うも、ここは関口雄飛が前に出ることを許さず。千代勝正は7周目にバトルの余波か、コースオフを喫して4番手から7番手へと大きくポジションを下げてしまう。

 一方、首位を行くロニー・クインタレッリの23号車は4周目にファステストを記録してひとり1分31秒台を刻み、10周目には2番手に対し約3秒のマージンを構築していく。

 ファーストスティントで奮闘を見せた7番手スタートの1号車KeePer TOM’S LC500のニック・キャシディは、スタートから12号車、19号車とかわし、3号車のドロップと合わせて4番手にまで浮上する。

 しかし20周目にKeePerがカルソニック IMPUL GT-R、佐々木大樹の逆襲に合うと、チームメイトの援軍を失った36号車は孤軍奮闘とばかりに22周目の最終コーナーから車速を乗せ、2番手の24号車に並びかけ、翌周の1コーナーでインからクリーンにオーバーテイク。23号車追走体制に入っていく。

 関口の2番手浮上時には6秒ほどあった首位のマージンはみるみる削られ、30周突入時には3秒差へ。さらに3番手ブリヂストンタイヤを履くカルソニックも快調なペースで追い上げてくる。

 そして36号車にテール・トゥ・ノーズに迫られた32周目、MOTUL GT-Rは最初のピットストップを決断。最終コーナーからスリップに入った関口は、あわや追突のシーンを演じることに。

 この最初のピットウインドウで、23号車に対して5周を引っ張ったauだったが、右リヤタイヤの交換に手間取り59秒1の制止時間を喫し、44秒6の作業時間だった23号車ニスモ陣営を逆転することは叶わず。これでセカンドスティントに向け23号車、12号車、24号車のGT-R勢がワン・ツー・スリー体制を築くと、松田次生、ヤン・マーデンボロー、そしてジョアオ・パオロ・デ・オリベイラによる三つ巴のバトルが20周以上にわたって展開していく。

 一時は背後1秒以内に迫られた23号車だったが、松田はGT300クラスのバックマーカーを巧みに挟むドライビングで見事に応戦。再三にわたってアタックを阻んできたものの、55周目にホームストレートでサイド・バイ・サイドになるとマーデンボローがアウトからレイトブレーキングを敢行。並んで1コーナーを立ち上がると、コカ・コーラ・コーナーでインをとったカルソニックがついに首位浮上に成功した。

 さらに60周目にはタイヤの性能低下に苦しむ24号車オリベイラが36号車の中嶋一貴の猛追を抑えきれず、1コーナーのインを明け渡し後退。そのまま23号車を追い上げたauは、64周目にリプレイを見るかのようなオーバーテイクでMOTUL GT-Rも捉えてみせる。

 69周目には23号車、24号車が。続く70周目に12号車と、GT-R勢が計算通りのルーティンを敢行し、それぞれ最初のストップよりわずかに時間を要してピットアウト。そしてこちらもファーストスティントと同じく23号車の5周後にピットへと向かった中嶋一貴だったが、トムスはここでも右リヤの脱着に手間取るアクシデント。アウトラップで24号車にもかわされ、4番手のトラックポジションから戦い直す形となってしまう。

 このチームのピンチに再び奮い立った関口は、アウトラップのKeePerに追いついた間隙をついて24号車を、続いて79周目には同じくダンロップコーナーで同じトムスのKeePer、ニック・キャシディをかわして3番手へと這い上がる。

 こうして12号車を先頭に23号車、36号車、1号車、そして24号車のトップ5で進んだサードスティントは、こう着状態でレース折り返しの89周を通過。しかし100周を前後して開くはずの3度目のピットウインドウを前に、セクター3でスライドを見せはじめたMOTUL GT-Rに追いついた関口は、13コーナーで大きくカウンターを当てたクインタレッリのミスを見逃さず、最終コーナー立ち上がりから車速を合わせてサイド・バイ・サイドに。続く98周目の1コーナーで見事2番手にポジションを上げてみせる。

 この攻防で力尽きたか、100周を終えたタイミングで23号車は早めのピットへと向かい、44秒ジャストの作業で松田へと交代するが、これで数字上は義務の4回ピットでは足りない計算となり、5回ストップの計6スティントとなる公算が高くなった。

 一方、首位を行くインパルの佐々木は計算より2周ほど多く周回をこなしてピットへ。その前周に作業を終えた24号車とともに、5回のストップでレースを走りきるべく後半戦へ。さらに110周終了時点でauが、113周終了時点でKeePerがピットへ向かうと、ここでトムスは36号車を54秒7の制止時間でMOTUL GT-Rの背後に送り出し、そのクルーの頑張りに応えた中嶋一貴は117周目のプリウスコーナーで2番手へと返り咲く。

 レースは119周、3分の2を経過した時点でカルソニックが首位を快走。それを追う36号車に対し、ミシュランタイヤのグリップに苦しむ様子の見られる3番手MOTUL GT-Rは、KeePerの再三によるアタックを受け、125周目の1コーナーで陥落。そのままピットへと向かうことに。MOTUL GT-Rは36秒7のストップでマシンをトラックへと送り返すものの、これで11番手にまでポジションを落とし、週末完全制覇の夢は事実上潰えることとなった。

 残る最終ルーティンピットは1回、142周終了時点で首位カルソニックがピットへ。35周のスティントを終えたマーデンボローから佐々木にステアリングを託す。それを追う36号車が148周終了でピットへと入ったところで、コース上で事件が起こる。

 セクター3の上り坂を走る首位カルソニックが突如スローダウン。そのまま最終コーナーを立ち上がるとピットレーンには向かわずホームストレートを通過していくものの、そのスピードはGT300クラスにも及ばない。

 そのまま150周目を力なく走りきった12号車はようやくピットへ。そのままレースを終えるかと思われたが、ピットでボンネットを開けてトラブルを修復したはマシンを送り出し12番手で戦列に復帰する。

 これでコース上はau、KeePerのトムスがワン・ツー体制を構築。3番手には予選でエンジンが掛からず14番手スタートから逆襲をみせるKEIHIN NSX-GT、小暮卓史が143周目に1分31秒844の自己ベストタイムを刻みながらの猛追で上がってきた。

 上位勢が軒並み最後のピット作業を終えた150周時点で気温は27度、路面温度は36度まで下がり、154周目には9番手を走る23号車のクインタレッリが1分30秒899のファステストを更新するなどコンディションが変化していく状況下で、レクサスLC500の2台とホンダNSX-GTはマシンへの負担が減り、トラブルなく残り周回を走破。

 序盤はチームとしていくつかのミスを犯したものの、36号車au TOM’S LC500がガス欠で失った前戦の雪辱を晴らす今季初優勝。2位に同じく1号車が入り、これで平川/キャシディ組がシリーズランキング首位浮上を果たし、スーパーGTとしては初となるトムスのワン・ツーフィニッシュで最高の週末となった。

 そして最後の3位表彰台には、最終スティントの塚越広大も自己ベストをさらに1分31秒695にまで詰めた17号車が入り、8号車ARTA、100号車RAYBRIGと、NSX-GT勢が3位、4位、5位と続いている。

 初の試みとなった真夏の富士長距離戦を経て、スーパーGTは同じく真夏の風物詩、魔物の住むSUGOでの第6戦を迎える。今回の富士で圧倒的速さを披露しながらリザルトに繋げられなかったニッサン陣営と、例年強さをみせるホンダ陣営が終盤に向けどう巻き返しを見せるか。例年の7月から9月15〜16日に開催日を移動しての1戦だけに、不確定要素が満載のレースとなりそうだ。

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