【工場ルポ】〈JX金属の資源循環型製錬所・日立メタル・リサイクリング・コンプレックス(HMC)〉都市鉱山から多品種の金属回収 グループ拠点と緊密に連携

 JX金属・日立事業所HMC製造部(茨城県)は、「都市鉱山」とも呼ばれる廃電子部品などから多品種の非鉄金属を効率的に回収するリサイクル拠点だ。回収した金属は同社電材加工事業の原材料としても活用されており、「資源循環型製錬所」としての側面も持つ。社会的にリサイクルの重要性が高まっている中、資源の有効活用と二次廃棄物を発生しないゼロエミッションを追求し続ける同工場を訪れた。(相楽 孝一)

 HMC(日立メタル・リサイクリング・コンプレックス)は、JX金属グループ発祥の地である日立地区で2009年に操業を開始。同社グループの創業100周年を機に推進された日立地区リニューアル計画の一環として建設された。同社が長年培ってきた銅・鉛・亜鉛の各製錬技術を応用し、乾式製錬工程と湿式製錬工程の組み合わせによって、リサイクル原料と銅製錬の中間生産物から多様な金属を効率的に回収しようというのがコンセプトだ。これは同社が過去に手掛けていた鉛・亜鉛やニッケルの製錬技術などを次世代に継承していくための場を確保することにもつながっている。また、リサイクル原料が大量に発生する首都圏から160キロ内という好立地に建てられた大都市隣接型のセカンダリー・スメルターであることも特長の一つだ。

 HMCのリサイクルプロセスは、HMCと同じく日立地区にあるJX金属環境と、銅製錬の中核拠点であるパンパシフィック・カッパー佐賀関製錬所(大分県)との緊密な連携によって成り立っている。操業当初は、銅・鉛・亜鉛をはじめ、貴金属(金、銀、白金族金属)、レアメタルの16元素をHMCで回収していたが、銅系のリサイクルは佐賀関に集約するなどグループ拠点との連携によってプロセスを合理化。現在は鉛製錬、レアメタル精製、貴金属精製の各プロセスを用いて鉛、アンチモン、ビスマス、錫、金、銀、白金族金属(PGM)の11元素を回収している。

 廃電子基板などのリサイクル原料は国内外から幅広く集荷されている。足元の集荷比率は国内からが約6割、海外からが約4割となっている。HMCでは1日100~150トンほどを受け入れているという。原料入荷後は計量器で重量を測り、サンプリングと分析・評価が行われる。

 リサイクル事業においてはこのリサイクル原料のサンプリングから分析・評価の工程が非常に重要だという。鉱石原料の場合、1ロット当たりの量が大きく、含有物の品位も比較的均一なため、含有物の分析がしやすいが、リサイクル原料はロットが小さく、含有物の品位のばらつきが大きいケースが多いためだ。そこで迅速かつ正確な分析・評価を行うことが顧客との信頼関係を構築する上で重要になる。HMCでは、リサイクル原料専門の分析設備と分析チームを設置し、分析作業の効率化と分析期間の短縮化を図っている。

 分析に用いているのは古くから使われてきた金属製錬技術「灰吹法」を応用した技術。金や銀などを鉛に溶け込ませ、そこから金や銀を粒にして抽出。それを溶かしたものを液量分析している。3年前に新設した分析棟は顧客などが訪れた際に分析工程を見学できるように設計されており、どのような分析を行っているかを実際に見てもらうことで分析信頼性の向上に役立てている。

 リサイクル原料のうち、低品位で量が多いものなどはJX金属環境で前処理を行う。JX金属環境の有するクリーンZ炉でリサイクル原料を焼却処理し、焼却金銀滓にした上で佐賀関製錬所の銅製錬原料として送られる。佐賀関ではそこから銅や金、セレンを回収し、銀やPGMは還元銀などの半製品の形でHMCに送って製品化する。佐賀関では年10万トン程度のEスクラップやめっきスラッジを処理するが、そのうち4万トン強が日立地区から送られる原料だという。

 佐賀関から送られてきた還元銀は、分銀酸化炉で銀品位90数%のアノードに精製され、電解工程で電気銀とする。また、その電解工程で発生したスライムに含まれるPGMと金は分離し、回収される。

 今後の課題は、金属の採収率向上や仕掛りの削減に取り組むとともに、銅製錬では不純物となる元素を可能な限り抜き出し、リサイクル原料処理の増加に貢献することだ。廃製品に含まれる有価金属の品位低下が進む中で、一定の金属量を確保するためには増集荷・増処理を可能とする体制づくりが必要となる。AIやIoTなどの最先端技術を積極的に導入しながらコスト競争力を高め、引き続き資源循環型社会の構築に貢献していく考えだ。

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