「特別清算」企業の追跡調査

 2018年上半期(1-6月)の企業倒産は4,148件(前年同期比2.7%減)と9年連続で減少した。倒産が沈静化をたどるが、「特別清算」は166件(同8.4%増)と増加が際立った。特別清算を申請した166件のうち、60件(構成比36.1%)は開始決定を受ける2年以内に商号を変更し、26件(同15.6%)は登記上本店を別の都府県に移転していたことがわかった。
 特別清算は、破産など他の法的手続に比べ予納金が少額ですみ、裁判所が選任する「破産管財人」の支配下に置かれない。このため、債権者への配当の自由度が比較的高く、債権者数が少ない企業や親会社が債権を持つ100%子会社などで利用されるケースが多い。
 また、通常、裁判所に申請する前に債権者と事前調整が必要になるが、第二会社方式での事業再生スキームに活用する動きも広まっている。2018年上半期(1-6月)に特別清算を申請した166件では、判明する限り52件(構成比31.3%)が第二会社で事業を承継している。申請した企業は老舗の旅館やゴルフ場、スーパー経営、食品製造など、多岐にわたっている。

  • ※東京商工リサーチ(TSR)の企業データベースから、2018年上半期(1-6月)に特別清算開始決定を受けた166社を抽出し、分析した。商号や登記上本店の変更履歴はTSRデータベースなどを活用した。

特別清算とは

 東京商工リサーチ(TSR)は1952年に全国倒産集計を開始して以降、倒産を「私的倒産」と「法的倒産」に区分している。「私的倒産」は、銀行取引停止(振出手形の2回の不渡り)や債権者と債務者が協議して事業清算する内整理などがある。「法的倒産」は、会社更生や民事再生の再建型と、破産や特別清算の消滅型に分けられる。
 特別清算は、申請前に株主総会で解散を決議(特別決議)することが必要で、株主総会の前に株主の調整を行うことが多い。

特別清算の推移

 特別清算は2013年を底に増加をたどり、2017年は7年ぶりに300件を超えた。2018年は上半期ですでに166件を数え、過去5年間で最もハイペースに推移、年間では2017年を上回る可能性が出てきた。
 2018年上半期に特別清算を申請した166件を業種別にみると、不動産業が12件でトップ。次いで、学術研究、専門・技術サービス(11件)、建設(10件)と続く。
 負債別では、1億円以上5億円未満が59件で最多。次いで、5千万以上1億円未満(32件)、1千万以上5千万円未満(31件)と小規模が多いが、100億円以上も2件あった。
 所在地別では、東京が最多の46件、大阪14件と二大都市圏に集中。次いで、新潟8件、三重7件、埼玉、京都、兵庫、福岡が各6件だった。

特別清算件数の年次推移

商号変更した60件のうち6割に当たる36件が第二会社で事業承継

 2018年上半期に特別清算を申請した166件のうち、開始決定の2年以内に登記上本店を移転した企業は26件(構成比15.6%)あった。このうち、本店を東京都以外から都内に移転したのが15件、大阪府以外から府内に移転したのが5件で、域外から二大都市圏に移転するケースが目立った。東京、大阪など大都市圏へ本店を移転する主な背景は、特別清算に精通した弁護士、公認会計士が地方に比べ多いことが大きい。
 166件のうち60件(同36.1%)が、開始決定の2年以内に商号を変更していた。登記上本店と商号の両方を変更した企業は19件(同11.4%)あった。さらに、60件のうち、判明する限り少なくとも6割にあたる36件が第二会社で事業を継続している。商号変更は、事業を第二会社で承継する際の倒産イメージを回避することが目的とみられる。

特別清算開始前2年以内に商号・登記上本店を変更した企業

 特別清算を申請し、第二会社方式で事業再生を目指す場合、倒産後の信用棄損の防止が前提になる。このため、特別清算の申請前に登記上本店を移転し、商号を変更するケースは多い。新会社で事業継承する場合、同じ商号や屋号ではレピュテーション(風評)被害を回避できない場合も多いためだ。
 特別清算は、債務を抱えて事業会社を清算する意味では破産と変わらない。だが、第二会社に事業基盤を譲渡し、事業再生・事業継続する動きが最近の特徴になっている。経営者の高齢化に伴う事業承継が大きなテーマに浮上しているが、地方の老舗企業など地域に影響力のある企業が継続できると、雇用にも大きなインパクトを持つ。
 倒産、休廃業、M&Aなど苦境に陥った中小企業の整理手法に一石を投じる「前向きの倒産」とも言える特別清算。どこまで浸透するか、今後の広がりが注目される。

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