トヨタの鋼板価格据え置き、地区流通・加工業に衝撃 中小、店売りの「立ち位置」どこに

 ともに日本経済を支える「自動車と鉄鋼」が、大きな変化点を迎えた。品質と供給の安定を目指して始まったと言える国内自動車メーカーの「集中購買制度」が、結果的に「日本のものづくり力」を支える中小企業の存立基盤を揺るがし、秩序解体へと進む流れに拍車が掛かってきた。老朽化する製鉄設備。半ば一方的に疲弊する中小の「底力」。どこを見て今後の投資戦略、経営戦略を決めるべきか。

 「終わったな」「どうすりゃいいのよ」―自動車最大手のトヨタ自動車が今週から調達先に連絡している今年10月からの集購価格(管理自給)が、東海地区の鋼材流通・加工業者にも大きなショックを与えている。

 鋼板価格は4~9月期比で据え置き(ステンレス鋼は原料サーチャージ制のため別。特殊鋼棒鋼なども別)。ステイは今年度上期に続き2期連続。それがなぜ波紋を呼ぶのか。

 鋼材価格は値上げ局面が続く。特に店売り向けは先行して値上げが進んでいる。上げ幅はこの1年でトン当たり2万円を超す。

 自動車メーカーもそれは把握しているが、自らの事業環境も「百年に一度」と言われる大きな変化の波の中にある。これまでの運用ルールを一部変更してでも「危機意識」を共有しようとする考えも生まれる。

 しかし、今日明日を模索する中小の扱い筋にとっては、その「異質な」判断は大波乱要素となる。仮に自動車メーカーの財務内容が厳しく、協力を要請してくる場面なら、ともに血を流すという選択もあろう。実態はそうではない。

 「仕入れ値高を売値に転嫁できない」事態になり、そのリスクをどこにもヘッジできない。自動車だけではない。価格交渉は各分野個別であるべきだが、値上げが切実な流れの中で、据え置きの情報は市場全体の大きな阻害要因になりうる。そうなれば「一体だれがお客様なのか」。

 高炉メーカーの生産は超繁忙で引き受けカットが常態化している。人手不足などで経費は増すばかり。間接コストも上がっている。大逆風の中で、身を削って献上する中小、店売りは今後どう経営の舵を取るべきか。

 品質、供給の安定を最大の目的としながら中小の取引当事者は有機的に結び付き、それがお互いの切磋琢磨や共存共栄、ひいては自動車を買う力にもつながってきた。世界に誇る日本車は、多くの人たちの力によって成り立ち、一定の秩序によって保持されている。そうした一連の状況をどう考えるべきか。

 「生産が海外に移転するから」「国内需要は先細りするから」という机上の議論で、現場の本当の現実を見逃してもいいのか。

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