【現場を歩く】〈日立建機・常陸那珂臨港工場〉開業から10年、大型機の拠点 鉱山機械を一品一様で生産

 日立建機・常陸那珂臨港工場(茨城県ひたちなか市)は2008年の開業から今年で10年を迎えた新鋭工場。鉱山で使われる100トン以上の超大型油圧ショベル、ダンプトラックといった大物の製品が造られている。同工場を現地で取材した。(黒澤 広之)

 常陸那珂臨港工場(臨港工場)は目の前に鹿島灘が広がり、臨港の名の通り茨城港常陸那珂港区へ直結している。この立地は大型機を製造する上で大きなポイントだ。

 大型機は組み立てて製造すれば、そのまま出荷できるものではない。その巨大さ故に、動作確認をしたら分解して運ぶ必要がある。ただ道路交通法の規制があり、仮に横浜港へ輸送して出荷する場合は1個あたり最大24トンにまで分解しなければならない。

 これが常陸那珂港区の場合、港湾道路で一般道とは規制が異なるため85トンまで運ぶことができる。細かな分解が不要というメリットがあり、例えば最も大きい300トン級のダンプトラック「EH5000」の場合、一般道を使うとなると10個以上への分解が求められるだけでなく、ものによっては大きすぎて運べない。臨港工場では4~5個程度への分解で済み運べる。

 何より鉱山機械は豪州など海外が主戦場。輸出する物流面でも強みがある。

 巨大な部品調達、地の利を発揮

 日立建機は茨城県内に土浦工場(土浦市)、霞ヶ浦工場(かすみがうら市)、龍ケ崎工場(龍ケ崎市、ホイールローラ事業子会社のKCMが操業)、常陸那珂工場(ひたちなか市)、そして臨港工場の5拠点を持つ。それぞれが連携しており、キーコンポーネント(基幹部品)を造る常陸那珂工場からは臨港工場へ足回り部品のシューや走行装置、霞ヶ浦工場からはギアなどが供給されている。

 臨港工場で造るのは大型機だけに、これら部品も巨大なものばかりだ。国産の800トン級超大型油圧ショベル「EX8000」の場合、足回りのシューだけで重量は軽自動車並の0・77トン。ギアは直径で4メートルにも及ぶ。大きな部品を近くで造り運び込める地の利が発揮されている。

 臨港工場の敷地は個性的で、幅はわずか165メートルだが、長さが約1・5キロに及ぶ細長い形をしている。敷地面積は26万8508平方メートル、建屋面積は11万7366平方メートルで、常陸那珂港区と密接して建屋が立ち並ぶ構図だ。

 鋼材を加工・溶接する工程では二つの製缶・機械工場がある。ロボットや人間の手で鉄板を1枚1枚つなぎあわせ箱型にし、ブームやアーム、メインフレームを製造している。

 組立工場は2棟あり(1)大規模な土木工事や砕石などで使われる40~90トン級の大型油圧ショベルおよび120トン級の鉱山向け超大型油圧ショベル(2)120トンを超える最大800トンまでの鉱山向け超大型油圧ショベル(3)ダンプトラック―の3エリアに大別される。

 超大型油圧ショベルはセル生産方式で1カ所にとどまりながら複数の作業員が部品を組み込んでいく。最も大きい「EX8000」の場合、20日ほどかけて組み立て、動作確認と出荷に向けた分解で計1カ月ほどを要するという。「EX3600」以上の機種ではエンジンを2個取り付ける必要があり、360トン級の場合、1時間フル出力で稼働すれば250リットル分の軽油を使うほどのスケールだ。

 ダンプトラックはライン生産方式だが、やはり巨体とあって1分間で進むのは2センチ。最も大きい「EH5000」の組み立てには2週間ほどを要する。

 ダンプトラックの場合、荷物を運ぶ箱状の「ベッセル」やタイヤは顧客が自身で取り付けるため、一般的に想像される完成形になることはない。工場内では主にフレームの姿しか拝むことができないが、それでも日立製作所の山手工場(日立市)から納入された発電機を取り付けるといった製品機能が着々と仕上げられていく。

 超大型油圧ショベルやダンプトラックのリードタイムは受注から8カ月とされる。顧客の仕様に合わせて一品一様、丹念に造るため組み立てはもちろん、前工程の製缶、部材調達に至るまで長い時間がかけられている。

 レイアウト再編で生産合理化

 臨港工場では現在、生産レイアウトの再編が昨夏から始まっている。40~90トンの大型油圧ショベル生産を効率化する一方、超大型油圧ショベルやダンプトラックの能力を合理化し、体質強化を進める狙いだ。

 現在、大型ショベルの運転席など上部旋回体(上回り部品)は土浦工場から供給を受け、臨港工場で造ったサイドフレームなど足回り部品とドッキングさせて完成させている。再編では土浦での上回り部品生産をすべて臨港工場へ移し、輸送の手間を省く構想だ。マイニング事業本部の玉根敦司開発・生産本部長は「リードタイムは14%短縮でき、組立工数や製造原価も低減できる」と話す。

 合理化では、100トン以上の超大型油圧ショベルで300台、ダンプトラックで240台ある年産能力を削減する。来夏の再編完了後には超大型ショベルで270台、ダンプトラックで180台となる。

 昨年度の超大型ショベルの生産実績は136台、ダンプトラックは28台だった。鉄鉱石など資源価格の上昇に伴う需要回復と拡販の推進で今年度はそれぞれ200台、40台へと増加する見通しだが、能力圧縮後も上方弾力性は確保している。

 悩ましいのはインドネシアやロシア、アフリカなどの鉱山向けで120トンクラスの「EX1200」で引き合いが増えていること。石井壮之介執行役マイニング事業本部長は「今年度末には能力が少し足りず、19年度も苦しい」と、同機の需給ひっ迫ぶりを説明する。

 120トン機は超大型の部類ながら40~90トンの大型ショベルと同じ組立工場だけに、中国やインドネシア工場を含めた大型ショベルの全体生産を通じ、どう臨港工場での能力を捻出するかが当面のテーマとなりそうだ。

 日立建機・マイニング事業の歩み/ルーツは日立鉱山

 銅などを産出していた日立鉱山で使う電気機械の修理を起源とする日立製作所グループ。ここで生まれた「モーターの日立」から、鉄道システムや日立金属の電線事業などさまざまな事業へと派生してきた。日立建機のマイニング事業は祖業に通じるものと言える。

 日立製作所の建機部門だった1965年、国産技術で初めて開発した油圧ショベル「UH03」は総質量で8・7トン、バケットは0・35立方メートルだった。その後、79年に米国鉱山向けの超大型油圧ショベル「UH801」を開発すると、87年には今も続くロングセラーシリーズ「EX3500」を発売している。

 98年にはカナダのユークリッド日立ヘビーイクイップメント社の経営権を取得し、ダンプトラック事業へ参入。このユークリッドと日立の技術を組み合わせ、常陸那珂臨港工場が完成した2008年に日本製ダンプトラック「EH3500ACII」を開発・発売した。5年後の13年には国産最大の「EH5000」も開発している。

 超大型油圧ショベルで掘り、鉱石をトラックに載せる。この双方の機種を手がけることで、バケットとダンプの相性を踏まえた設計も行われている。

 近年は機体だけでなく、部品・サービスを含めたソリューションビジネスの強化が進んでいる。16~17年にかけて豪州のブラッドケン、米国のH―Eパーツを相次ぎ買収。鋳造・鋳鋼メーカーのブラッドケンは耐摩耗鋼が使われるバケットや足回り部品、鋳造品といった消耗品を造る会社で、アフターサービス会社のH―Eパーツは正規のメーカーでもフォローできない部品の修理・再生を行っている。

 これら2社と日立建機のネットワークを融合させた相乗効果では、アフリカに拠点がなかったH―Eパーツが日立建機ザンビアの支援を受け同国への進出を果たす一方、日立建機がやや弱みとしていた南米ではチリにH―Eパーツが再生工場を設け補完性を高めている。チリ、ザンビアとも電気自動車(EV)で需要増が見込める銅鉱石の産地で、重点市場をグループ力で攻める構えだ。

 ソリューションの前提となる機体の競争力強化も進めている。来年4月に発売する次期モデルの超大型油圧ショベル「EX―7」は安全・保守サービスの「コンサイト・オイル」などIoT技術を標準搭載するとともに、現行の「EX―6」より燃費は10%以上減らせるという。

 ダンプトラックではカナダ子会社のウェンコ・インターナショナル・マイニング・システムズとともに無人運転の開発を推進しつつ、日立グループの技術を結集しトロリー受電のAC駆動式で優位性を示していく考え。日立独自の電動モーターや高耐久のパンタグラフを使うため運航速度が高く、生産性やコスト面でメリットがある。6月からは「EH5000」でもトロリー受電式を開発し、海外の大規模鉱山へ売り込んでいる。

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