【UACJ統合から5年 これまでの歩みと展望】グローバル販売網が充実 次の5年、収益力強化がカギ

 2013年10月1日、古河スカイと住友軽金属工業が統合し、アルミ板で国内シェア5割を握るUACJが誕生した。統合効果の最大化に向け、国内で最適生産体制の構築を図るとともに海外ネットワークの拡充にも取り組んできた。これまでの5年間を振り返り、今後を展望する。(遊佐 鉄平)

最適生産体制おおむね構築

 統合シナジーを発揮する上で第一に取り組んだのが、アルミ板や押出や箔、加工品事業などで事業内容が重複する会社の統合。さらに統合会社の効率運用のため最適生産体制の構築に注力した。主力の板事業では、福井製造所に缶材とLNG輸送船用厚板、深谷製造所に半導体・液晶製造装置用厚板を集約する一方、自動車材や印刷版、フィン材などその他製品は名古屋製造所へ移管。製造所の役割分担をはっきりさせることで生産効率を上げ、競争力の強化につなげた。

 生産移管に伴う客先への認証作業は18年までにほぼ完了し、品種移管もおおむね決着したが変更点もあった。国内需要が想定を上回るレベルで推移したためで、休止予定だった深谷製造所の冷間圧延機の稼働を継続するなど微調整を実施。これにより受注には対応できたが、「拠点をまたいで生産する品目が増え、これが生産性の課題となっている」(石原美幸社長)ようだ。例えば福井製造所や名古屋製造所で造った熱延コイルを深谷製造所に運び、冷延以降の工程をする製品も一部である。当初計画であれば深谷製造所は厚板専用工場となる予定だったため、こうしたコイルの横持ちは想定していなかった。こうした仕事を一拠点で完結する体制づくりを進め、基幹工場の福井製造所と名古屋製造所の生産性改善することが今後の課題になりそうだ。

北米、東南アで事業拡大

 この5年間は、成長市場と捉える自動車材と缶材、エリアでは主に北米と東南アジアをターゲットに大型投資に踏み切った時期でもあった。

 タイでは板圧延子会社のUACJタイランド(UATH)が15年に本格稼働し、来年には年産能力を18万トンから30万トンに引き上げる。成長著しいアジアの缶材市場(中国除く)への対応力を強化した。

 米国では缶材を手掛けるトライ・アローズ・アルミナム(TAA)の能力を増強したほか、自動車構造部材を手掛けるホワイトホール・インダストリーズ(UWH)を買収。さらにオランダのコンステリウムと自動車材の仕上げ加工を手掛けるコンステリウム・UACJ・ABS(CUA)を稼働させ、車体の軽量化需要を捕捉できる体制を整備した。このほか中国で広東東陽光科技との合弁アルミ圧延拠点にLiB用アルミ箔設備を増設し、国内でも福井製造所に自動車パネル用アルミ板の仕上げ設備導入を進めている。

 ノベリスなど海外圧延大手が規模拡大に踏み切る中、設備投資を加速させることでUACJも対抗してきた。しかし5年累計で1千億円を超える積極策の反動で収益性が低下していることは否めない。18年3月期の経常利益目標350億円に対し、実績は194億円にとどまった。UATHやCUAの立ち上げ費用や減価償却費の増加が主な要因だ。UATHの黒字化も19年にずれこむと予想されている。

5年後に経常益450億円へ

 石原社長は「これまでの設備投資の早期収益化が重要テーマ。21~22年度を利益拡大期としたい」とし、投下資本利益率(ROIC)の改善を目指している。18年に入り、韓国チョイル社との提携解消や住軽日軽エンジニアリングの持ち分売却も決めた。事業の選択と集中を進め、21年3月期までにフリーキャッシュフローを黒字化させ、23年3月期にはROICを8%以上に引き上げる計画だ。

 中長期的な数値目標も策定した。21年3月期に経常利益を300億円(18年3月期は194億円)に引き上げ、発足から約10年となる23年3月期には450億円とする計画を示す。柱となるのはタイと北米事業の収益拡大で、この2テーマで前期比150億円以上利益を増やす考えだ。またさらなる採算性改善で80億円の増益も見込む。

 この数年間、アルコアの分裂やコンステリウムのワイズアロイ買収、グレンゲスのノランダ圧延部門買収、ハイドロのサパ完全子会社化、ノベリスのアレリス買収などアルミ圧延業界ではM&Aの風が強く吹いた。また欧米圧延大手は、大規模投資で自動車メーカーなどと関係を強化している。中国圧延大手も最新鋭設備の導入と技術向上で存在感を高めつつある。世界のライバルとの競争に打ち勝つためにも、収益力の強化と海外展開の加速は欠かせないテーマだ。これからの5年間は、UACJの実力を見極める試金石となりそうだ。

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