ジープ 新型ラングラー 試乗|高いオフロード走破性を備えたSUVの原点

新型Jeep Wrangler(ジープ ラングラー)

SUVの根幹に位置する車種、ジープ ラングラーがフルモデルチェンジ

新型Jeep Wrangler(ジープ ラングラー)

今はSUVの人気が高い。大径のタイヤを装着してボディの下側は力強く、上側はワゴンと同様の形状だから、居住性や積載性も優れている。カッコ良さと実用性の両立がSUVの魅力だろう。

セダンやクーペは、一度人気のカテゴリーになった後で衰退したから、再び売れ筋になるとは考えにくい。その点SUVは、高価格車も堅調に売れる貴重なカテゴリーとされ、さまざまなブランドが殺到している。悪路がまったく似合わないロールスロイスまでカナリンを用意したくらいだ。

このSUVの根幹に位置する車種がジープ ラングラーだ。今は日本車、輸入車ともに乗用車のプラットフォームを使うシティ派SUVが増えたが、ジープ ラングラーは生粋のオフロードモデルになる。耐久性の高いフレームに、ボディ、エンジン、後輪駆動をベースにした悪路向けの4WDシステム、サスペンションなどを組み付ける。

フロントマスクは第二次世界大戦で使われたジープの流れを汲み、ジープブランドの、そしてSUVの原点といえるだろう。日本車でいえばスズキ ジムニーに相当する。

10年間でジープブランドの売れ行きは4倍に

新型Jeep Wrangler(ジープ ラングラー)

このジープ ラングラーが最近は高い人気を得ている。まずジープブランド全体の売れ行きは、2017年に1万台を超えた。ホンダ N-BOXは1ヶ月に約2万台を売るから、台数自体は大したことないが、2007年はわずか2532台であった。この10年間に、ジープブランドの売れ行きは約4倍に増えている。

日本で売れたジープの内、約40%がラングラーになる。これもジムニーの高人気に似ている。ワゴン的な性格のシティ派SUVが増えた結果、「本物指向」ともいえる悪路指向のジープ ラングラーが求められるようになった。

ジープ ラングラーがメカニズムを刷新

新型Jeep Wrangler(ジープ ラングラー) Unlimited SPORT[4ドア/2.0Lターボ/8AT/4×4]
新型Jeep Wrangler(ジープ ラングラー) Unlimited SPORT[4ドア/2.0Lターボ/8AT/4×4]

そしてジープ ラングラーがフルモデルチェンジを受け、2018年10月25日に新型が発表された。外観は伝統的な従来型を踏襲するが、シャシーは一新されている。サスペンションは前後ともに悪路走行に適する5リンクコイルの車軸式だが、各種の設定を見直した。

ボディは3ドアと5ドアのアンリミテッドを用意する。

全長は3ドアが4320mm、アンリミテッドは4870mmだ。ホイールベース(前輪と後輪の間隔)は、3ドアが2460mm、アンリミテッドは3010mmとなる。全幅は1895mmで等しい。

先代アンリミテッドは全長が4705mm、ホイールベースは2945mmだったから、新型は全長が165mm伸びた。全幅もわずか15mmだが広がっている。

新型Jeep Wrangler(ジープ ラングラー) SPORT[2ドア/V6 3.6L/8AT/4×4]
新型Jeep Wrangler(ジープ ラングラー) SPORT[2ドア/V6 3.6L/8AT/4×4]

エンジンは3ドアのラングラーと5ドアのアンリミテッドサハラは、V型6気筒3.6リッターを搭載する。アンリミテッドスポーツは新型の直列4気筒2リッターターボだ。両方のエンジンに8速ATを組み合わせた。

4WDシステムは、従来のパートタイム式からフルタイム式に進化した。センターデフが装着され、カーブを曲がる時などに前後輪の回転数を調節できるから、舗装路も4WDの状態で走れるようになった。従来型と同じく副変速機も備わり、悪路で駆動力を高めることが可能だ。

以上のようにメカニズムを刷新した新型ジープ ラングラーに、悪路も含めた試乗を行った。

こちらが身構える場面でも想定の範囲内という感じで、流石の悪路走破性

新型Jeep Wrangler(ジープ ラングラー)
新型Jeep Wrangler(ジープ ラングラー)

閉鎖されたオフロードコース(悪路)は、デコボコが激しく急な登降坂も多いが、4WDでセンターデフをロックする4H(4WDの高速)モードにすれば、余裕を持って走破できた。センターデフをロックしない4H・AUTOモードでも、急な滑りやすい登り坂を除けば、普通に走れてしまう。

サスペンションが柔軟に伸縮するから、駆動力の伝達効率も高い。最低地上高(路面とボディの最も低い部分との間隔)は200mmを確保するから、デコボコの激しい悪路でも不満はない。

大きな段差を乗り越えた時も、足まわりが衝撃を上手に吸収する。直接的な突き上げ感が生じるのではないかと身構える場面でも、実際はそうならず、想定の範囲内という感じでスムーズに走破できた。

ステアリングシステムは悪路走行に適したリサキュレーティング・ボール式で、デコボコを適度に受け流す。このタイプのステアリングは、ボディの下まわりを路面に擦らないよう、ゆっくりと走破していく場面では特に扱いやすい。

悪路走破には3.6リッターV6、高速性能では2リッター直4ターボ

新型Jeep Wrangler(ジープ ラングラー) SPORT[2ドア/V6 3.6L/8AT/4×4]
新型Jeep Wrangler(ジープ ラングラー) Unlimited SPORT[4ドア/2.0Lターボ/8AT/4×4]

エンジンは前述の2種類を用意するが、悪路の走破にはV型6気筒の3.6リッターが適している。最高出力は284馬力(6400回転)、最大トルクは35.4kg-m(4100回転)になる。直列4気筒2リッターターボは、272馬力(5250回転)・40.8kg-m(3000回転)だから、3.6リッターよりも力強く思えるが、運転感覚は少し異なる。ターボは2000回転を下まわると、その性格によって駆動力が低下するからだ。

その点で3.6リッターは、動力性能の盛り上がりが大人しい半面、きわめて低い回転域でもアクセル操作に応じて相応の駆動力を発生させる。幅広い回転域で微妙な速度調節をしやすいのは、ターボを備えない大排気量エンジンの特徴になる。

逆にターボのメリットは、2000回転付近から加速が活発になり、エンジン回転の上昇に伴って動力性能が力強くなることだ。走行状態によってはターボのクセが少し気になるが、最大トルクが40kg-mを超えるから、高速道路などはパワフルに走れる。ジープラングラーは悪路向けのSUVだが、実際に所有すれば舗装路上を走ることも多く、この時にターボの効果が発揮される。

2リッターターボのJC08モード燃費は11.5km/L

2リッターターボは燃費が優れていることもメリットだ。5ドアスポーツは11.5km/Lになる。対して3.6リッターエンジン搭載車のJC08モード燃費は、3ドアのスポーツが9.6km/Lで、5ドアのサハラは9.2km/Lだ。

燃費数値を見ても、2リッターターボは走行距離が伸びる高速道路を中心とした使い方に適する。

ラングラーの本流は走破力の高い3ドアモデル

新型Jeep Wrangler(ジープ ラングラー) SPORT[2ドア/V6 3.6L/8AT/4×4]

悪路の走破力を重視したので、舗装路における操舵感は鈍めだ。峠道では曲がりにくく感じる。速度を高めて走るクルマではないが、カーブに進入する時、ハンドルを切り込むタイミングを若干早めると緩慢さが薄れてスムーズに曲がれる。

注意したいのは小回り性能だ。5ドアボディの最小回転半径は6.2mに達する。先代型の7.1mに比べると改善されたが、Lサイズのボディで最小回転半径が6mを超えると裏道や駐車場では扱いにくい。

ステアリングのギヤ比は悪路に対応して少しスローに設定したから、交差点の左折などでは、ハンドルを多く回す感覚になる。

取りまわし性では、3ドアボディに注目したい。全長が4320mm、最小回転半径も5.3mだから、5ドアのアンリミテッドに比べると運転がしやすい。短いホイールベースは、悪路のウネリを乗り越える時も、ボディの底面を擦りにくい。ステアリングのメカニズムはラングラーと同じだが、ホイールベースが短いため、峠道を走った時の動きの鈍さも抑えられる。

第二次世界大戦で活躍したジープを見ても分かるように、ラングラーの本流は走破力の高い3ドアだ。ロングボディのアンリミテッドは、2000年代に入った後で追加された。3ドアボディの実用性はクーペに近いため、ファミリーユースには適さないが、運動性能と走りのバランスが優れている。

先代モデルから向上した居住性

新型Jeep Wrangler(ジープ ラングラー) Unlimited SPORT[4ドア/2.0Lターボ/8AT/4×4]
新型Jeep Wrangler(ジープ ラングラー) Unlimited SPORT[4ドア/2.0Lターボ/8AT/4×4]
新型Jeep Wrangler(ジープ ラングラー) Unlimited SPORT[4ドア/2.0Lターボ/8AT/4×4]

乗り心地は両ボディともに、上下に揺すられる印象を伴う。悪路向きに設定された車軸式サスペンションの影響だが、SUVらしい足まわりがゆったりと伸縮する感覚も併せ持つ。快適とか不快というより、独特の個性がある。

居住性は前席はおおむね快適だ。床と座面の間隔が離れた印象で(私の短足が原因かも知れないが)、ペダルが少し遠く感じるが、先代型に比べると違和感が薄れた。

アンリミテッドの後席は、ホイールベースの拡大により足元空間が広がった。身長170cmの大人4名が乗車した場合、後席に座る乗員の膝先空間は握りコブシ2つ分だ。先代型は1つ半で少し窮屈に感じたが、新型では解消されている。

ただし後席の座面は相変わらず短く、大腿部のサポート性に不満が残る。乗降性も後席は良好とはいえない。ファミリーカーとして使うなら、後席を確認しておきたい。

ユニークな機能としてルーフの脱着が挙げられる。フリーダムトップ・3ピース・モジュラーハードトップと呼ばれ、天井部分が3分割される。運転席の上部は左右に2分割され、ロック操作によって比較的簡単に取りはずせる。

後部は専用の工具を使ってはずすが、ボディサイドまで含めて一体化されるから少々面倒だ。フロントウインドウも前側に倒せるが、フロントピラー(柱)は残る。ウインドウ部分だけがマド枠と一緒に前側へ倒れる仕組みだ。従って倒しても開放感はあまり変わらない。

実は買い得グレードなローンチエディション

新型Jeep Wrangler(ジープ ラングラー)

価格は3ドアボディに3.6リッターエンジンを搭載するスポーツが459万円、5ドアボディに2リッターターボを組み合わせるアンリミテッドスポーツが494万円、4ドアボディに3.6リッターエンジンを搭載したアンリミテッドサハラのローンチエディションは530万円だ。

アンリミテッドサハラローンチエディションは高価格だが、LEDヘッドライト(ほかのグレードはハロゲン)、カーナビ、アルパイン製サブウーハー付きプレミアムスピーカー(合計9基)、本革シートなどが標準装着される。充実装備を求めるユーザーには、むしろ買い得なグレードに仕上げた。

実力を備えることが、ユーザーの満足感やプライドに繋がる

新型Jeep Wrangler(ジープ ラングラー) SPORT[2ドア/V6 3.6L/8AT/4×4]

そして2019年の春には、悪路の走破力をさらに高めたアンリミテッドルビコンも加わる。

ジープ ラングラーは新型になって4WDがフルタイム式になったが、クルマの性格は前述のようにオフロード指向が強い。従って悪路を走る機会が乏しいと、メリットが生かされず、取りまわし性などの欠点が目立ってしまう。クルマの用途に応じて選びたい。取りまわし性が良くないので、車庫入れや縦列駐車を試すことも大切だ。

そして購入したら、専用のオフロードコースなどを、十分に注意しながら走ってみたい。愛車の優れた走破性能を改めて見直すだろう。日本にジープ ラングラーの限界的な走破力を試せる場所はほとんどないが、その実力を備えることが、ユーザーの満足感やプライドに繋がる。これもジープ ラングラーのようなオフロードSUVの大切な価値だろう。

[筆者:渡辺 陽一郎 撮影:和田 清志]

ジープ 新型ラングラー 主要スペック

ジープ 新型ラングラー 車両本体価格

■スポーツ(2ドア、3.6リッターV6):459万円

■アンリミテッド スポーツ(4ドアー、2リッター直4ターボ):494万円

■アンリミテッド サハラ ローンチエディション(4ドア、3.6リッターV6):530万円

※価格はいずれも消費税込み。

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