クラシコを徹底分析!試合を動かした「ポジショニングの妙」

リオネル・メッシとクリスティアーノ・ロナウド。

10年以上サッカー界を牽引してきた二大巨頭がそろって欠場となった今回のエル・クラシコは5-1とバルセロナの圧勝に終わり、大敗したレアル・マドリーのロペテギ監督は解任されてしまった。

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なぜ前半、バルセロナの攻撃があんなにも効いていたのか。そして、ハーフタイムを挟んで後半からレアル・マドリーが敢行した戦術の正体とは何なのか。

筆者なりに分析してみたのでぜひ最後まで楽しんでほしい。

執拗に狙われた「カゼミロの脇」

バルセロナのビルドアップ時、レアルは上図の形でプレスを行った。

センターバックに比較的自由を与える代わりにセルヒオ・ブスケツ、アルトゥール、イヴァン・ラキティッチにはマンツーマン気味に対応する。そして幅を取る役割を担ったジョルディ・アルバとセルジ・ロベルトにはそれぞれギャレス・ベイルとマルセロが付く。

しかし、これには大きな問題が2つ存在している。

① ウィングのフィリペ・コウチーニョとラフィーニャがカゼミロの両隣に降りてくることによってカリム・ベンゼマ、イスコ、ルカ・モドリッチのファーストプレッシャーラインが突破された途端に中央で数的不利となってしまう。このままではカゼミロが自分の脇にいる2人を1人で見なければならない。

② ベイルの位置取りが前半を通して何度か怪しかった。コウチーニョが空けた左サイドの大きなスペースを埋めきれず、アルバをフリーにさせることもしばしば。

すなわちナチョは、①によって位置的&数的優位を得たコウチーニョを見るか、②によってタッチライン際でフリーになっているアルバを見るかの2択を強いられることになった。

もし前者をチェックし続ければスピードのあるアルバに一気にサイドを突破され、後者に集中すれば中央を崩される。

ベイルの位置も確かに悪いことは悪いが、それ以上にコウチーニョとラフィーニャのポジショニングがいやらしかった。アンカーを置くチームにとってその脇を狙われることは致命傷に繋がってしまうからだ。

ある特定のエリアに人数をかける“オーバーロード”と、それによって孤立した選手を使う“アイソレーション”という戦術を利用した好例だと言えるだろう。

結局、バルセロナは大外で自由を得たアルバにロングボールを送り、サイドをえぐらせてその折り返しをコウチーニョが落ち着いて沈めてあっさりと先制してしまう。

可変システムのバルサ「思惑通りのプレス」

レアルのビルドアップに対してバルセロナは、ボール保持時と非保持時でフォーメーションを変える“可変システム”で挑む。

4-4-2の形で最後方で数的優位を保ちつつ、前線からマンツーマン気味にプレスをかけていく。ラフィーニャとルイス・スアレスがレアルのセンターバックをどちらかのサイドに追い込み、2列目の選手が縦へのパスコースを遮断しつつ、さらに逆サイドへの展開も禁止させる。これによってロングボールを蹴らせてクリーンな組み立てを阻害した。

なお、「GKに戻されてそこからビルドアップをやり直されたらどうするの?」という問いがあるかもしれない。しかしティボー・クルトワには絶対的なパス精度は備わっておらず、彼のロングボールもそれほど質の高いものではなかった。

さらに、レアル・マドリーとしてはロングボールを蹴った時にFW―MF間が間延びしてしまい、そのスペースを自由に使われていた。MF顔負けのパスを出せるマルク・テア・シュテーゲンが一気に相手のファーストプレッシャーラインをくぐり抜けるようなボールを安定して供給。遅攻だけでなく速攻も効果的に発動することが出来ていた。

後半で見えたロペテギの修正(攻撃)

攻守ともに充実した前半を送ったバルセロナに対して、後半のアプローチをどうするか。ロペテギの答えは、ルーカス・バスケスを投入して3-5-2へのシステム変更だった。

レアル・マドリーのビルドアップ時には上図の円の位置で数的優位を作り出し、前線に素早くボールを送ることに成功していた。何といっても、クロースが降りてきてボールを受け、時間とスペースを味方に分配していたことがスムーズな組み立てに繋がっていた。

さらに大外では2人のウィングバックがポジショニングしており、バルセロナとしてはサイドプレイヤーのうち誰がチェックするのか戸惑ったりサイドバックの選手が釣り出されチャンネル(センターバックとサイドバックの間のスペース)が開いたりと、1失点を後も喫した後もそれにより何度かピンチを招いていた。

後半で見えたロペテギの修正(守備)

そしてプレスをかけるときは、レアルは瞬間的にほぼ全員がマンツーマンで前線から奪いに行っていた。

おそらく撤退守備はこの陣形では慣れていないのでそれをする前にボールを取り戻したかったのだろう。また、シュテーゲンからロングボールが飛んできてもカゼミロが自慢の対人能力で対応できていた。

万が一プレスを剥がされた時は、バスケスが抜群のスタミナを活かしてDFラインまで下がり4バックを形成。押し込まれた時にはマルセロも下がって5-3-2になっていた。これによりDFライン前を少し明け渡してしまうものの、サイドを上がって来るバルサのサイドバックにも対応できる。

プレスも組織的守備もその場しのぎの打開策という感じは否めないが、逆転するためには仕方ない。レアルは通れるか否かギリギリのつり橋を渡ることにしたのだ。

上述の通り、後半開始から20分ほどは攻撃がハマっていたレアルであったが決定機をなかなか決めきれずにいた。そしてついに75分、スアレスの見事なヘディングシュートにより“橋”が崩れ落ちてしまった。

やはり即席の守備システムでは無理があったのだろう。同点、もしくは逆転に成功していたならばレアルが再度システムを変更して違った試合展開になったのかもしれない。

5得点で快勝を収めたバルセロナと最大の宿敵に大差をつけられ敗れたレアル・マドリーであったが、両チームともに時折見せたポジショニングが見事だった。

「位置的優位」や「数的優位」という優位性の重要さを思い知らされる、とても興味深い試合だった。

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