サーキュラー・エコノミーへの移行は急務:フィリップス

EUを中心に世界に広がり始め、成長戦略としても注目されているサーキュラー・エコノミー(循環経済)。「サーキュラー・エコノミーへの転換は世界の課題解決につながり、商機にもなる。今が変化のとき」とオランダのヘルスケア大手フィリップスで循環経済プログラムを率いるヘラルド・テッパー氏は語る。同社は今年のダボス会議で、サーキュラー・エコノミーに貢献する優良企業として表彰された。(サステナブル・ブランド ジャパン=橘 亜咲)

テッパー氏は10月25日、日本フィランソロピー協会が開催した勉強会で「サーキュラー・エコノミーへの移行」と題して講演を行った。

なぜ今、サーキュラー・エコノミーか

サーキュラー・エコノミーは世界が抱えるさまざまな課題の解決策になります。まず、私たちは毎年、地球が1年で生み出す資源の1.5倍の量の資源を消費しています。そして、人口増加が進み将来的に100億人に達するといわれるなか、資源が消費されればごみがさらに出て、ごみが出れば健康被害や環境汚染などの問題も発生します。こうした山積する問題を考えると、サーキュラー・エコノミーに早急に移行する必要に迫られていることが分かります。

世の中の流れもサーキュラー・エコノミーへの転換を後押ししています。私たちもヘルスケアカンパニーとして、バリューベース・ヘルスケア(価値に基づく医療:医療に伴うコストや患者と医療従事者の負担、副作用などの損失も考慮した上で医療の効果・価値を最大化するもの)へと移行しようとしています。それに、デジタル化が進むことで、製品をつくるのではなく、人と情報をつなぎコミュニケーションを生み出すことによってソリューションを提供するようになっています。世界の消費動向も変化しています。エアビーアンドビーやネットフリックスなどに代表されるように、ものを所有するのではなく共有することや体験などのアウトカムが重要視される傾向にあります。

サーキュラー・エコノミーへの移行が次の100年につながる

サーキュラー・エコノミーは私たちのビジョンの中心にあります。サーキュラー・エコノミーに取り組むことが、これまで127年間続けてきたビジネスを次の100年も続けていく唯一の方法だと考えています。

私たちはビジョンに「イノベーションを通じて、世界をより健康に持続可能にする」ことを掲げていて、さらに2025年までに30億人の生活を向上させることを目標にしています。

世界の人々をより健康にするためには、まず地球が健康でなければなりません。

アクション・プランとして、まず、バリューベース・ヘルスケアや予防など経済的に持続可能なヘルスケアを提供していくことを掲げています。そして、医療を十分に受けていない人に対して、手頃な価格でヘルスケアを受けるようにするなどヘルスケアへのアクセスを維持することにも取り組みます。

また、さまざまな素材を使って製品を作っているので、持続可能な形で製品を使っていかなければなりません。サーキュラー・エコノミーの概念につながるものです。同時に、エネルギーの消費を抑え、二酸化炭素の排出量も減らしていくことも必要です。こうしたことに取り組むことで、ビジョンの実現に向けて進んでいけるのです。

サーキュラー・エコノミーと社会的責任

フィリップスは毎年、病院用機器を4万トン、個人用健康機器を20万トン市場に出しています。これに対して、私たちは企業として責任があります。その責任を果たすために、2020年に向けて3つの野心的な目標を定めています。

まず、売上高の15%はサーキュラー・エコノミーに基づいたソリューションから生み出すこと。そして、製造過程で出るごみの90%はリサイクルし、埋め立てるごみをゼロにすること。すでに多くの工場で実践していることです。3つ目は、抜け穴を防ぐこと。使い終わった大型機器の資源を有効利用するクローズド・ループ・システムをとることです。2025年までには、すべての医療機器を同じ様に有効利用できるよう目指します。

サーキュラー・エコノミーへの移行は商機になる

そもそもサーキュラー・エコノミーとは、従来型の「とる・つくる・捨てる」というリニア・エコノミー(直線経済)をやめるということです。サーキュラー・エコノミーはリニア・エコノミーの抜け穴を塞ぐものです。

例えば、私たちがつくり出したものの価値をできるだけ長く維持したいと考えた場合、一番有名な選択肢はリサイクルです。しかし、リサイクルをする頃にはその素材の価値は消えてしまいます。サーキュラー・エコノミーでは、リサイクルという手段をとる前に現在使っているものをそのままにして新たなシステムにできないか。リファビッシュして市場に出すことはできないか。売らないまでも、私たちが所有権を持ち、そのアウトカムを市場に提供することはできないか。そういう風に対応していくことです。

サーキュラー・エコノミーへの移行はメリットがあります。まず、企業の成長力になります。例えば、リファビッシュすることで新たな市場に参入することができます。そして、コストの削減にもつながり、リスクも減らせます。これまでの取引だけでなく、安定したビジネスへと移行することができるのです。

良い人材の雇用にもつながります。今は、目的意識を持った企業で働きたいという人が増えきていますから。それに信頼を構築することもできます。企業として良いことをやっているということだけでなく、新しいビジネスモデルを採用するということで、これまでと異なる人たちと共に働き、新たなビジネスが生まれるからです。

実際にどう取り組んでいるかというと、スマートデバイスを使って超音波診断を行う装置「Lumify」を月額で貸し出すサービスの提供や、リファビッシュ用の工場で使用した機器を整備して新品同様に使えるようにすることや、使用できるパーツだけを販売することに取り組んでいます。

また、すでに使っている大型機器のアップグレードを病院外に持ち出して行うのではなく現場で行えるようにしています。そして、一般消費者向けの商品に関しては回収することが容易ではないので、リサイクルしたものを使うことに力を入れています。プラスチックのリサイクル率はここ数年で急速に伸びてきています。

サーキュラー・エコノミーの効果の計測は、四半期ごとにどれだけの収益があったのかをサービス・製品ごとに見ています。ウェブサイトや年次報告書に掲載しています。

欧州でサーキュラー・エコノミーを推進するエレンマッカーシー財団とのパートナーシップはじめ、同じ電気会社などが参加する連合に入ることでサーキュラー・エコノミーの実現を加速させるよう取り組んでいます。例えば、下取りの適正価格はいくらなのかなど話し合います。また、サーキュラー・エコノミーの実現を阻む規制が世界中にあります。ですから、連合をつくることで規制緩和に向けて働きかけるなどしています。

サーキュラー・エコノミーに先進的に取り組んでいるとは言え、私たちはまだ長い道のりの途中にいます。今言えることは、サーキュラー・エコノミーこそが将来にわたってビジネスを続けていく方法だということです。そして、サーキュラー・エコノミーへの転換はこれまでの取引型の経済からパフォーマンス、アクセスベースの経済へと移行していくということなのです。

© 株式会社博展