東京地区薄板市況、底打ち感広がる 地区流通大手、採算悪化回避へ唱え上げ

 東京地区では熱延鋼板類に続き薄板市況全般がようやく「底値入り」したとの感触が市中に広がりつつある。

 商社やコイルセンター(CC)、在庫販売店など地区流通扱い筋ではメーカーの相次ぐ店売り値上げによる仕入れ値上昇分のうち、いまだ売値にヘッジしきれていない〝積み残し分〟の転嫁のタイミングを再びうかがっていこうとの構えだ。

 この〝積み残し分〟の存在が仕入れ値と売値の値差を縮め、流通各社の店売りプロパー販売の採算を著しく悪化させている。中には「半ば口銭ゼロに近い商いも」あるとされ、仕入れ値高・転嫁難の状態が長引くほど採算面に深刻な打撃を与えてきた。

 流通扱い筋では転嫁値上げに向けて各社各様に取り組んではきたものの、店売りマーケットの構造的な縮小で上期は末端実需が低迷。在庫調整も遅々として進まず、需給に引き締まりを欠いたことから値上げ環境は整わなかった。

 ヒモ付き分野と店売り分野との価格改定差も影響し、エンドユーザー向け値上げが進まず。また、大口仲間取引ではロットがまとまると逆に小幅な値引きやエキストラ調整といった個別対応も散見されたほど。

 下期の需要シーズン入りを機に市中の荷動き、引き合いに復調の兆しがみられ、11月もその傾向が続いている。メーカーは店売り向け引き受け調整を続けており、先行きは「在庫調整の進み具合によっては需給が改善に向かうのでは」(商社)との期待感も出始めつつある。

 こうした情勢下〝積み残し分〟を売値に転嫁することで採算環境改善を急ごうとの具体的な動きとして地区流通大手の1社が、10月下旬から冷延薄板の店売り定尺品販価をトン2千円切り上げたのに続き、今月帳破明けとなる21日受注分から熱延黒皮(中板)、酸洗鋼板、表面処理鋼板についても店売り定尺品を同じくトン2千円値上げすることを決め、客先へのアナウンスを開始した。

 現時点での市中の反応は「反発機運の台頭につながるか動向を注視したい」(首都圏の有力販売店)と冷静な受け止め方だが、流通各社では「現行の仕入れ値でも採算に見合う売り値が急務」との共通認識があり、その意味ではこうした大手の唱え値引き上げに追随する動きもあり得る。

 ただ、値上げには「多大なエネルギーを要し、特にエンドユーザー向けは困難を極めそう」(同)なことから、流通各社では「店売り分野のこれ以上の仕入れ値高」に対する懸念と警戒感も強く、メーカーに対して状況理解を求める声も募っている。

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