金属行人(12月5日付)

 今年の世界の粗鋼生産量は過去最高の18億トン前後に達する見通しだ。つまり18億トン規模の鉄鋼製品が自動車、建築物などに使われたことになる。これら鉄鋼製品がその使命を終え、再び鉄鋼製品に生まれ変わるのはいつになるのだろうか▼2009年から10年間の累計生産量はおよそ158億トン。このほとんどはまだ回収されていないはずだが、いずれは資源となる。「都市鉱山」といわれるゆえんだ▼2000年代以降の鉄鋼生産拡大を受けて、今後、鉄スクラップの供給量が増えるのは確実だ。そんな見通しに加え、資源の有効利用促進という観点も手伝って、将来は鉄鋼需要のほとんどをスクラップで賄える、といった指摘がある▼本当にそうだろうか。日本鉄鋼連盟が先月公表した地球温暖化対策の長期ビジョンがこの問いに答えている。ビジョンは鉄の需要想定、スクラップ備蓄量などを基に、将来の需給シナリオを描く。そこから導き出されるのは「将来もスクラップだけでは需要を賄えない」という点。スクラップ回収実績の精緻な分析を基にしたシナリオで、信ぴょう性は高い▼鉄スクラップだけが無限に循環する姿は理想だが、現実はそうもいかない。地球温暖化対策を進めつつ、社会生活に不可欠な鉄をどう供給していくかという視点も重要だ。

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