[水沼貴史の欧蹴爛漫]ドルトムント退団濃厚の香川真司 なぜ出番を失った?

今季のリーグ戦で2試合の出場に留まっている香川 photo/Getty Images
スペインのクラブへの移籍願望を口に。来年1月の移籍は実現するのか photo/Getty Images

水沼貴史です。2018年も残り数日となり、ドイツのブンデスリーガはウィンターブレイクに突入しました。今回はドルトムントを去ることが濃厚となっているMF香川真司についてお話しします。今季開幕前に赴任したルシアン・ファブレ監督のもとで再スタートを切り、国内リーグの前半戦を首位で終えたドルトムントですが、香川自身はリーグ戦17節消化時点で2試合の出場に留まるなど、チーム内で燻っています。これまで監督が変わっても出場機会を勝ち取ってきた彼が、なぜ今季はこれほどまでに苦しんでいるのでしょうか。

ファブレ監督は中盤の守備の安定を図るべく、基本布陣を従来の[4-3-3(中盤逆三角形)]から[4-2-3-1]へ変更しました。2ボランチには力強いボディコンタクトでボールを狩れる人材を置くという方針を固め、実際にこのポジションには球際で強さを発揮できるアクセル・ヴィツェルやトーマス・デラネイが常時起用されています。

皆さんご存じの通り、香川の適性ポジションはインサイドハーフかトップ下です。基本布陣が[4-3-3]であれば彼がプレイできるポジションが2つある状況となりますが(2インサイドハーフのどちらか)、[4-2-3-1]では彼の適性ポジションがトップ下の1枠のみに限られてしまいます。1アンカーから2ボランチに中盤の並びが変わったことでドルトムントの守備力は格段に上がりましたが、この布陣変更により香川が入れるポジションが1つ減り、彼の出場機会の激減に繋がったと私は見ています。ファブレ監督が[4-2-3-1]に布陣を固定して以降、トップ下での起用が多くなったマルコ・ロイスがリーグ前半戦で11得点と結果を残したことで、チーム内競争の趨勢がほぼ決してしまいました。

サイドハーフには香川よりもスピードがあり、独力で複数のDFを剥がせるジェイドン・サンチョやラファエル・ゲレイロなどが重宝されているため、ウインガータイプではない香川がこのポジションで出場機会を得るのは至難の業と言えます。長きにわたりドルトムントに貢献してきた彼が出番を失ってしまったことについて、私自身残念に感じていますが、現状では移籍やむ無しと言わざるを得ません。

帰国早々のインタビューで香川がスペインのクラブへの移籍願望を口にしたこともあり、彼のプレイスタイルや特長が活きそうなチームを私なりに考えてみました。ベティスが打ってつけなのではないでしょうか。前回のコラムでもご説明した通り、ベティスはキケ・セティエン監督のもと、最終ラインから丁寧にショートパスを繋ぐという遅攻メインのサッカーを実践しています。必然的に相手に引かれることが多いのですが、この際に[3-4-2-1]の2シャドーの選手が相手のボランチとセンターバックの間に立ち、相手を引きつけたうえでサイドのスペースへボールをはたけるかが重要になってきます。敵陣の密集地帯でボールを捌くことが得意な彼が2シャドーの一角に入れば、ベティスの攻撃力が増しそうですが! 既にベティスでプレイしている乾貴士と2シャドーでコンビを組む姿も、個人的には見てみたいです。

私の妄想に近い予想はさておき、彼の移籍先が無事に決まり、新天地で輝きを取り戻す日を心待ちにしています。このコラムをご覧の皆さんには、新たな挑戦を始めようとしている香川真司へどうか熱い声援を送って頂きたいです。

ではでは、また来年このコーナーでお会いしましょう!

水沼貴史(みずぬまたかし):サッカー解説者/元日本代表。Jリーグ開幕(1993年)以降、横浜マリノスのベテランとしてチームを牽引し、1995年に現役引退。引退後は解説者やコメンテーターとして活躍する一方、青少年へのサッカーの普及にも携わる。近年はサッカーやスポーツを通じてのコミュニケーションや、親子や家族の絆をテーマにしたイベントや教室に積極的に参加。幅広い年代層の人々にサッカーの魅力を伝えている。

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