90代の勝訴

 96歳、93歳、92歳という。よくぞその年齢で異国での裁判を闘ったものだ。このまま人生を終えたくないという心境だろうか。壮絶な思いがその身を突き動かしたに違いない▲戦時中に三菱重工業長崎造船所に徴用された韓国人男性3人が、長崎原爆の被爆者であると認められた。長崎地裁はきのうの被爆者健康手帳訴訟の判決で、手帳の交付申請を却下した長崎市の処分を取り消した▲原爆投下当時、日本は3人にとって異国であって異国ではなかった。朝鮮半島は日本に併合された植民地。3人は創氏改名した日本名で働いていたという▲戦後、日韓は「近くて遠い国」と呼ばれる時期が長かった。在韓被爆者に支援の手が伸びるのも遅れ、3人がようやく手帳の申請にこぎ着けたのは、2014~16年のこと▲この間、つらい記憶を忘れることはなかっただろう。長崎にいた証拠や証人がないと申請が却下された時、人生の一部を否定されたように感じたかもしれない。3人のうち2人は裁判中、被爆当時の体験などを証言するため、高齢を押して長崎地裁まで出向いた▲原爆投下から今年で74年。長い長い時間が経過した中で、本人の具体的証言が事実と認定され、勝訴につながった。3人が心のつかえを下ろして余生を過ごせるよう、これで裁判が終結してほしい。(泉)

© 株式会社長崎新聞社