凍った湖を愛車で走行! それってどんな非日常体験?
「うおお、あのクルマ滑ってる滑ってる!」
あちらこちらで、氷の上を車が滑りながら走行している。一般の道路であればそれなりの大惨事になりそうなものだが、ここではそうならない。それどころか、皆楽しそうに愛車と格闘している…。
ーーーーーー
自動車イベント会社「プロスペック」が手掛けるイベント「2019 iceGUARD6 & PROSPEC Winter Driving Park」が今年も長野県・女神湖で開催されました。このイベントは、冬の間凍っている女神湖の湖面に車を下ろし、普段なかなか体験できない氷上での運転を楽しもうというもの。参加者は氷上での安全かつ正確な操作を目指して、朝から夕方まで運転を楽しみます。
今回、オートックワンからは私、新米編集部員Iが参加し、氷上走行を行いました。実際に“滑りまくった”体験を余すことなくお伝えします。
バラエティ豊かな3コースを自由に走行
今回、会場に設営されたコースは全部で3つ。練習できる内容が異なっており、参加者は自分の行きたいコースを自由に選べる形式がとられていました。各エリアごとにプロドライバーが常駐していて、愛車をプロのレーシングドライバーに運転してもらうことや、助手席からアドバイスを貰うことも可能です。
コースごとの特徴を、プロドライバーの方々による氷上走行時のコツと合わせて紹介いたしましょう。
ハンドリングエリア
ここでは、大小様々なコーナーで構成されたミニコースを走ることができます。氷の表面そのままの箇所だけでなく、薄っすらと雪が積もってグリップ力にムラのある箇所も存在するなど、コーナーだけでなく路面状態もバラエティ豊かです。
森岡史雄選手(ハンドリングエリアを担当)の解説
氷上走行では、先読みする「目線」が大事。緊張すると目線が手前に行きがちですが、そうすると車体が滑り始め得たことに気づくのが遅れますし、次のカーブへ何キロで侵入して良いのか分からなくなってしまいます。だからコーナーを曲がる時、僕は既に次のコーナーの出口を見ています。先読みすることで、車体の状態をマネジメントすることが出来るのです。
また、氷上で運転練習をできるこういったイベントでは、どれくらいハンドルを切るとアンダーステアになるのか見極める練習もすると良いですね。ハンドルを切る中で「ここまでは曲がるんだな」「ここから前輪が滑り出すんだな」という感覚を養うと良いと思います。
氷上での走行イベントでは、モータースポーツ風に走って楽しむことだけでなく、日々の安全運転に活かすこともできます。また、アスファルトでは時速100キロ以上出さないとわからないクルマの限界も、時速10キロ~20キロで感じ取ることが可能です。
運転技術の基本に立ち返ることができることや、新しい発見を得られることが魅力ではないでしょうか。
アクセルワークエリア
中央に置かれたパイロンの周りをドリフトしながら走行する「定常円旋回」を行うコース。氷上のため限界が非常に低いことから、通常のスタッドレスタイヤでも簡単にドリフト状態へ持ち込むことができます。
岸剛之選手(アクセルワークエリアを担当)の解説
ハンドルを深く切りながら徐行すると分かるのですが、氷上では4WDでも10キロ程度で前輪が滑り始め、アンダーステア傾向が出始めます。これが普段の走行と違うポイントですね。
氷上で定常円旋回を行う際、常にホイールスピンはさせ続けるよう意識しましょう。ハンドル操作はあくまでドリフトのきっかけづくりです。また、アクセル操作はできるだけ一定の回転数を維持するよう意識してください。
他エリアと同様に、「早め」「丁寧」な操作が必要です。例えば、エンジンをふかし過ぎたと思っても、そこから急にアクセルをオフにするのではなく、少しずつ戻してあげる。急に操作してもダメなので、気をつけてください。
今回は非常に過酷な状況で運転練習をしているので、これを経験していれば普段の雪道もラクに感じると思います。
ブレーキング&スラロームエリア
氷上でのフルブレーキングとスラローム走行を楽しめるコース。前半のブレーキングゾーンでは、愛車の装着するタイヤの性能がどれほどのものかを体感することができます。後半のスラロームゾーンでは、氷上ということもあり操作が遅れれば遅れるほど車が外へ膨らんでしまうため、気が抜けません。
小西重幸選手(ブレーキング&スラロームエリアを担当)の解説
氷上では、とにかく操作を丁寧にすることが絶対必要。また、早めの段階で様々な運転操作を行うことが大切です。1テンポどころか、3テンポぐらい早くても良いですね。
安全運転から一歩踏み込んで、スポーツドライビングの観点からいうと、リアが滑り出す感覚を掴むことも重要です。(取材車の)スバル レヴォーグの場合、タイヤが滑っている状態でも、基本はアンダーステア傾向。
しかし、雪で前輪が少し引っかかるタイミングがあると、車の鼻先が内側を向き始めることがあります。そこでアクセルを踏み込むと、クルマがより内側を向き始めるわけです。こういった挙動も楽しめますね。
果たして、新米編集部員Iは女神湖を攻略できるのか?
というわけでコースの走行方法について解説を受けた後、今回イベントに持ち込んだレヴォーグに乗り込み早速コースのスタートラインへ。
一応、“雪国”新潟出身の筆者。アイスバーンの経験はほぼないものの、湿っぽい雪や、消雪パイプでビシャビシャになった雪の路面は経験済み。生意気にも氷上走行も何とかなるだろう、と過信していました。
ところがどっこい。そこには、想像を超える難路面が待ち構えていたのです。
ハンドルを切っても曲がらない!? 氷上に潜む罠とは
まずは「ハンドリングエリア」に挑戦。スタッフの合図でスタートし、直線でスピードを上げた後に1コーナーへ入っていきます。すると、クルマは本来行きたい方向よりほんの少し外側へ向かい始めました。
これはいけないと思い、ハンドルの切る角度を深くしたそのとき、“事件”は起こります! なんと、進行方向は変わらず、コーナーの外側へまっすぐ向かっていきました! 結果、あえなくコースアウト…。当然、コース上に壁などの障害物は無いのでそれ以上のことは起きませんでしたが、これが一般道だったら…と考えると、寒気がします(ちなみに、会場の長野県・女神湖の気温は日中でも0℃前後と、そもそも寒い!!)。
あの日下部保雄氏が、運転のコツを生解説!
では、プロドライバーの方は氷上でどのように運転しているのでしょうか。筆者はインストラクター陣に同乗走行をお願いしたところ、なんとプロスペック代表の日下部保雄氏の運転を見せていただけることになりました。
日下部氏がハンドルを握り、筆者は助手席へ。1コーナーで日下部氏がハンドルを切った瞬間、レヴォーグはこれまでとは全く違う動きを見せ始めました。先程よりも左右に体が揺すられず、確実にコーナーをクリアしていきます。当然、コースを外れることもなし。その瞬間、濃紺のレヴォーグは会場のどの車よりもスムーズに走っていたのです。
驚嘆のため息しか出ない筆者。日下部氏は、氷上で最も重要なことは「早め」かつ「丁寧」な運転操作だと明かしました。
例えばハンドルを切った時、通常は曲がれる程度の速度だったとしても、氷上では摩擦限界が低いことからタイヤの限界を超えて、前輪が滑り出してしまいます。一旦滑り出したら、ハンドルの切る角度を深くしてもクルマは曲がりません。
そのような状態に陥らないための予防策として有効なのは、ハンドルを小刻みに切るという方法。ハンドルを一度切った後、タイヤの限界を迎える前にハンドルの角度を戻すことで、グリップを保持できる、というわけです。また、これと同じ理屈で、一度滑り出したクルマを制御できる状態にするにはハンドルを元に戻すことが有効です。
もちろん急ハンドルをしないためには、様々な運転操作を早めに行う必要あります。そのため、安全に走るには「早め」かつ「丁寧」な運転操作が求められます。
その後、日下部氏以外のインストラクターにも同乗走行の機会をいただけましたが、どのインストラクターもポイントは「早め」「丁寧」だとコメント。一般道でも気をつけるべき基本を研ぎ澄ますことで、氷上もクリアすることができると語りました。
反復練習できる環境で何度でもチャレンジ
そこで筆者も再びハンドルを握り、ハンドリングエリアにチャレンジ。日下部氏も実践していたように小刻みにハンドルを切ると…無事コーナーをクリア! その後のコーナーでも、早めかつ丁寧な運転操作を心がけたことで、どうにか氷上運転のスタートラインに立ちました。
そして、ハンドリングエリアで得た経験は、他の2エリアでも活きてきます。
アクセルワークエリアでは、氷上でグルグルとドリフトを行います。ドリフト走行は見る分には迫力満点ですが、実はこれこそ繊細な操作が求められるのです。アクセル開度やハンドルの角度も、細かくじわ~っと動かさなければ、クルマはパイロンからどんどん離れていきます。ハンドル操作は少しコツを掴んだものの、アクセルの操作に難があり最後まで納得行くドリフト走行が出来なかった筆者。いますぐ仕事を放っぽり出して、もう一度練習したいぐらい、再チャレンジの機会を窺ってるところです。
ブレーキング&スラロームエリアは、前半と後半で運転操作が異なります。前半では、目印でピッタリ停止できるようフルブレーキング。氷上でABSを効かせるという貴重な経験をしました。
後半ではスラロームコースが組まれ、クルマの挙動が大きくなりすぎないよう気をつけて操作。ここでもポイントとなるのが、「早め」を心がける運転です。進行方向が自分のイメージより外側になることを見込み、ハンドルを切るタイミングを早くするのがコツ。「早く切りすぎて、内側のパイロンにぶつかるのでは?」と思うものの、早めに切りすぎかな? ぐらいのタイミングで曲がり始めることで、クルマは狙ったラインを通過していきます。自分で運転操作しているにも関わらず、狐につままれたような感覚です。
こうして、朝9時から日没の頃まで“雪遊び”は続いたのでした。
参加者の感想は?
プロドライバーによる指導は、他の参加者に対しても絶え間なく続けられました。次ページでは、その熱心な解説に耳を傾けていた参加者の皆さんにインタビューを敢行。生の声をご紹介いたします。
参加者の感想その1:SPYDERさん・まあちゃんさん
金色のホイールが印象的なダイハツ キャストで参加したのは、SPYDERさんとまあちゃんさん。
今回で2回目の参加となったSPYDERさんは、この氷上走行の魅力を「雪であれば路面をしっかり捉えるが、氷ではそうはいかない。雪から氷へ横切るタイミングでミューが変化していくのが面白いです」とコメント。
また「氷上では軽自動車でもオーバーパワーなくらい。車種の特性を楽しめたり、愛車のことをより理解できるのもいいですね」と語っていただきました。
まあちゃんさんも、普段運転すること自体あまりないというものの、氷上という非日常の路面でのドライブを楽しまれている様子でした。
参加者の感想その2:近さん
今回が初参加という近さんは、ホンダ トルネオ ユーロRでイベントに参加。去年は抽選に外れたということもあり、念願のイベント参加となりました。
高速道路で降雪地域を走行した経験もあるものの、「高速道路は除雪が行き届いているから感覚が全く違いますよね」とコメント。愛車のことをより知れる貴重な機会となったようです。
参加者の感想その3:ZC6D-KAIさん
関西エリアから参加されたZC6D-KAIさんが持ち込んだのは、リアウイングが印象的なスバル BRZ。購入してから3年ほど経ったといいます。
実は、2年前にも同じBRZで本イベントに参加されたZC6D-KAIさん。その時は氷上で自分の思うとおりに運転できなかったそうです。しかし、その後サーキットでの走行会で経験を積んだことで、今年は前よりも良く走れているとコメント。本イベントは自分の成長度合いを理解する機会にもなっていることが窺えます。
参加者の感想その4:姫路のM3さん
BMW M3を会場に持ち込んだのは、姫路のM3さん。以前別のイベントで氷上走行を経験したことがあったそうですが、本イベント自体は初参加とのことです。
イベントの感想は「非日常な感覚を味わえるのが楽しい。どれだけ高性能な車でも、物理の法則に従うんだな、ということを実感できました」と、ハイパワーなBMW M3オーナーならではの意見を語られました。
参加者の感想その5:丹羽さん
最後に話を伺ったのは、アルファロメオ ジュリア クアドリフォリオで参加した丹羽さん。本イベントへは初参加だったそうですが、鈴鹿サーキットやツインリンクもてぎなどでの走行会に参加された経験はあるそうです。また、ジュリアの他にポルシェ 911 GT3 RS、シボレー コルベット、フォルクスワーゲン ルポ GTIカップカーも所有しているといいます。
参加された感想をお聞きすると、「とにかく滑る滑る。なかなかスピードが上げられない。アスファルトと氷上は異なるので、より繊細な操作が必要だが、意識してもできないときもある」とコメント。「抽選に当たったら来年も参加したい」と楽しんでいる様子でした。
大盛況だった“オトナの雪遊び”、来年の開催も待ち遠しい!
このように、普段体験できない非日常を味わうことができた「2019 iceGUARD6 & PROSPEC Winter Driving Park」。毎年恒例となっていることから、来シーズンも開催されるものと見られます。
普段、氷上で走行する機会はとても貴重。その上「滑っても良い」環境など滅多にないといっていいでしょう。安全運転のため、そしてドライビング技術向上のために、次回の参加を検討してみてはいかがでしょうか。
本取材のお供 スバル レヴォーグをご紹介
最後に、今回のイベントで用いたスバル レヴォーグを改めてご紹介します。
今回用いた仕様は、1.6リッター直噴ターボエンジンが搭載されたもの。1.6リッターという排気量は、この車格ではやや小さめではあるものの、それを感じさせない加速性能が印象的です。オートックワンのオフィス(東京・港区)から女神湖までの道のりでも、高速道路の合流・追い越しなどで威力を発揮。高速道路に不慣れなドライバーでも安心して走ることができるという意味で、ファミリーカーとしても優秀だと感じました。
「SI-DRIVE」をスポーツモードにすることでより鋭い加速を楽しめますが、通常のモード(インテリジェントモード)でも十分に速いことから、普段はこちらで十分ではないでしょうか。
また、搭載されている運転支援システム「アイサイト・ツーリングアシスト」は、アクセル・ブレーキだけではなくステアリング操作のサポート機能もあるなど、長距離ドライブでのサポート機能が充実。疲れにくいだけではなく、安心して移動することができます。
なお、燃料指定はレギュラーガソリン。思う存分過去“雪遊び”した後でも懐が傷まない、氷上ドライブに最適なクルマとなっています。
[筆者・撮影:オートックワン編集部]