議員の実情 2019 統一地方選アンケート(4)<理想と現実> 行政変える難しさを痛感

 昨年末。定例会を終えた西海市議の清水正明(63)に議員のやりがいを尋ねると、こう即答した。「住民の相談に乗れること」。だが、次の言葉が出ない。数十秒後、口をついて出たのは現状への不満だった。「…それぐらい。議場にいてもカリカリするだけ」

 元長崎県職員。2013年に県議補選で当選し、その後、17年に同市議になった。目指したのは行政に対する監視の強化。長年の行政経験を生かそうと考えた。

 だが、地方議員の立場になってみて、行政を変えることの難しさを痛感している。事業展開のスピード感、職員の資質など納得できない部分は多いが、質問、指摘をしても市側の対応はあまり変わらない。「自分の行政経験さえ否定されるような気持ちだ」と無力感を打ち明けた。

 住民の代表として選ばれ、地域の未来を選択できる地方議員。議員アンケートで仕事にやりがいを「感じる」「どちらかといえば感じる」は計93%に達し、「議会で意見が通り、住民に喜ばれるとうれしい」という声が大勢を占めた。

 一方、理想と現実のギャップを感じることが「ある」と答えた議員も48%。佐世保市議の久保葉人(ふさと)(52)も議会と行政の関係性に疑問を感じている。「地方自治は二元代表制。議会と行政は対等なはずだが、形骸化しているのでは」と話す。

 久保の理想は「是々非々で行政と対峙(たいじ)する」こと。しかし、実際は審議が不十分だと感じることも多い。あえて厳しく追及せず、行政に恩を売る議員もいる。住民参加や議論の成熟度など、市区町村議会の「改革度」を評価する早稲田大マニフェスト研究所の調査(17年度)では、佐世保市議会の改革度は全54中核市のうち51位と低かった。

 アンケートの回答では、「党利党略にとらわれ、自分の考えを言えない議員がいる」(西彼時津町議)など議員間のしがらみを疑問視する意見もあれば、「(議員活動が)票数に比例しない」(雲仙市議)など有権者の意識とのズレを指摘する声も目立った。さまざまな壁にはばまれ、志とは異なる現実に直面している議員の多さがうかがえる。

 「活動が活発でない議会ほど、無力感を示す議員が多い」。同研究所の中村健事務局長は、こう指摘する。改革度が低い議会では、首長の権限の強さや、一部の議員に権力が集中していることを嘆く声を耳にすることが多いという。

 一方、先進的な取り組みを進める議会が存在するのも事実。中村事務局長は、自身もかつて徳島県旧川島町(現在は吉野川市)の町長だった経験を基に、言葉に力を込めた。「議員は評論家ではなく実践者。住民の代表として、少しでも話を前に進めなければならないはずだ」 

 =文中敬称略=

 ■調査方法■ 長崎新聞社が長崎県内全ての地方議会(長崎県議会、13市議会、8町議会)の全議員435人(当時)を対象に実施した。昨年10月末からアンケート用紙(回答は選択肢と自由記述)を配布し、同12月中旬までに回収。403人から回答(回収率92.6%)を得た。

理想と現実のギャップ
質問や提言を通じ、意見を政策に反映させることにやりがいを感じる議員は多い=長崎県議会議場

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