議員の実情 2019 統一地方選アンケート(5)<なれ合い> 市作成文 賛成討論に酷似

 昨年12月、長崎県東彼川棚町内の宴会場に町議と役場幹部約30人が顔をそろえた。町長の席に向かい赤ら顔で酌をする同僚らを横目に、町議の山口隆(73)は苦々しい思いでグラスを傾けた。
 役場執行部と議会の「懇親会」ではよく見られる光景。「酒の席だから」と言われればそれまでだが、個人的には抵抗がある。「執行権を持つ行政側に寄り付き、酒を注ぐのが、議員のあるべき姿とは思えない」。だから自分から町長らの席に行くことはない。

 懇親会は定例会の最終日などに年3回ほど。日ごろのコミュニケーションは大事だが、正直「多い」。議案審査では一定の意見は出るが、賛成多数で原案通り可決する場合がほとんど。否決はおろか修正されることもまれだ。頻繁な「懇親」が行政と議会の緊張を鈍らせてはいまいか-。そんな思いをぬぐえずにいる。

 議員アンケートで「議会側と行政側とのなれ合いを感じたことがあるか」の質問に49%が「ない」と答えた半面、「ある」も31%と一定の割合を占めた。議会別で見ると、佐世保、諫早、西海、北松小値賀の4市町議会は「ある」と答えた議員が「ない」より多く、長崎県議会は「ある」「ない」が同数だった。

 諫早市議の田添政継(70)は昨夏、諫早市に情報公開請求をした。求めたのは、過去5年の定例諫早市議会の議案などの採決時の討論内容について、議員や議会事務局から資料や情報提供の依頼があった場合に諫早市が作成した文書だ。かねて「定例諫早市議会で議員が述べる賛成討論の原稿を市が作っているケースがあるのでは」と疑念を抱いていた。

 11件の議案に関する文書が公開された。中身を見て「情けない」と思った。例えば、昨春の定例会で議案となった国民健康保険事業を巡る予算案。ある諫早市議が述べた賛成討論の会議録と、公開された諫早市の作成文書は、内容がほぼ一致した。そもそも、諫早市の作成文書の上段に「賛成討論」とまで書いてある。諫早市保険年金課は「議員サイドから依頼があり『参考資料』として渡した。どう生かすかは議員の判断で、使わずに討論されても構わなかった」と釈明する。

 長崎県議会でも一部議員から「一般質問の原稿を長崎県職員が書くことがある」との指摘が出るが、長崎県財政課は「事前のやりとりで議員から質問したいことを文章に起こしてほしいと依頼され、結果的に長崎県が作った文章を一般質問で読まれることはある」と事情を説明する。

 諫早市が公開した文書には「適正につくられた予算」「以上の観点により、私は本議案に賛成するものです」などの文言が並ぶ。田添は憂う。「議会は市当局の施策をチェックする重要な役割を果たせているか。自分で考えた言葉を使い、堂々と政策を巡って渡り合う議会にならないと」
 =文中敬称略=

 ■調査方法■ 長崎新聞社が長崎県内全ての地方議会(長崎県議会、13市議会、8町議会)の全議員435人(当時)を対象に実施した。昨年10月末からアンケート用紙(回答は選択肢と自由記述)を配布し、同12月中旬までに回収。403人から回答(回収率92.6%)を得た。

議会と行政のなれ合い
議員執務室が並ぶ長崎県議会の議会棟5階。長崎県へのチェック機能が議会には求められている

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