検証 佐世保市政 朝長市長の3期(2)<観光政策> 伸びない“市民所得”

 仕事始め式から間もない6日、佐世保市長の朝長則男(69)は中国に飛んだ。上海にある世界最大手のクルーズ会社、カーニバル社など4社を回り、社長らと面会。「これからも佐世保へお越しください」。2015年度から毎年続ける上海でのトップセールスを精力的にこなした。

 朝長は市長就任以来、観光政策に力を入れる。3期目はクルーズ客船の誘致をはじめ、九十九島のブランド強化など港町を前面に出した戦略を重視。交流人口の増加を図ってきた。

 昨年は市街地に近い佐世保港三浦岸壁の延伸工事が完了。16万トン級の大型客船が停泊できるようになり、寄港数は過去最多の105回に伸びた。客船は夜間も滞在し、光り輝く姿は町の風景となった。

 国土交通省は17年に佐世保港を「国際旅客船拠点形成港湾」に指定。20年には浦頭地区にも大型客船が停泊できる岸壁が完成する予定で「追い風は吹き続ける」(市幹部)。

 成果は観光客数に表れている。リーマン・ショックがあった08年は約376万人にまで落ち込んだが、その後はハウステンボス(HTB)の業績回復などで順調に増加。15年は過去最多の約592万人を呼び込んだ。

 ただ、市民が経済的に豊かになったのかは判然としない。県が個人の所得に近い指数と位置付ける「1人当たり課税所得(所得税の課税対象となる所得)」は、07年の約294万円をピークに低下。270万円前後で推移している。県民1人当たりの課税所得とほぼ同じ水準で、佐世保市の“市民所得”が高い、とは言えない。

 クルーズ客船を誘致しても観光客は大型バスに乗って郊外に流れ、市内の消費拡大につながっていないという見方もあり、地元経済界からは政策の経済波及効果を疑問視する声も漏れる。佐世保工業会会長の湯川栄一郎(73)は「クルーズばかりではなく、地域に根差した中小企業を応援する思い切った施策に取り組んでほしい。それが現実的ではないか」と指摘する。

 朝長はカジノを含む統合型リゾート施設(IR)のHTB誘致を進め、さらなる交流人口の拡大を目指す。IRは専門性が高い仕事も多いとし、最近は「雇用の多様化」を実現すると強調する。ただ、それが市民の豊かさにどう反映されるのか。クルーズの効果と同様に、現段階では見えない。

 =文中敬称略=

佐世保市の観光客数と市民1人当たり課税所得の推移

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