それぞれの「好き」 YouTubeで赤裸々に

 グループ「性性堂堂」が伝えたいこと 「性のかたち、ありのままを生きる」(1)  

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関かおり

共同通信

関かおり

共同通信

2013年入社。名古屋支社、静岡支局、浜松分室を経て47ニュース編集部に。将来の夢は忍者。

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 「人として欠陥があるんだと思っていました」

 なかけんさん(22)はそう振り返る。17歳で「アセクシュアル」という言葉を知るまで、「自分には備わっているべきものがない」と悩んでいた。

 他人に性的に惹かれないアセクシュアル。戸籍上は男性のなかけんさんは、男女どちらでもない「Xジェンダー」という性自認であり、性指向はアセクシュアルだという。同じアセクシュアルにも様々なタイプの人がいる中で、なかけんさんの場合は性欲が薄く、恋愛そのものが「分からない」。

 日本ではまだあまり知られてない性指向だが、インターネットなどを通して当事者が自覚する機会も増えている。なかけんさんは現在、ゲイやトランスジェンダーなどさまざまなセクシュアリティーの若者と一緒にユーチューバーのグループ「性性堂堂」を結成、アセクシュアルやLGBTを取り巻く問題の意識啓発に取り組んでいる。

 ▽「この世界でひとりきり」

 中学生のとき、同級生の女子に「つきあって」と言われた。

 「いいよ」(買い物に付き添ってほしいのかな)

 その後「交際関係」であるはずなのに友達関係と変化のないなかけんさんの態度にしびれを切らしたのか、彼女はだんだん離れていった。

 「漫画みたいですよね」。取材中、なかけんさんは当時を振り返って苦笑した。白いニットに黒の上着、うっすらと化粧をしていた。

なかけんさん

 たとえば食事に誘われたとき、ただ友達として応じてしまう。キスされても「いきなりどうしたの?」と戸惑うばかり。恋愛に関心が持てず、周囲の会話にもついて行けなかった。

 運命の恋、人生を変えた恋、一生に一度の恋…。世間には恋愛を礼賛するドラマや映画があふれている。なかけんさんの目には、そのどれもが不思議に映った。どうして自分には、その感覚がないのだろう。共感できない自分は、この世界でひとりきりなのではないか。

 17歳のとき、ずっと抱えていた違和感を打ち明けたら、バイト先の同僚に言われた。

 「恋愛をしないなんて、人間じゃないみたい」

 ショックだったし、いやな発見だった。これまでなんとなく感じていた違和感が「間違いのないものだ」と突きつけられたようだった。バイトが終わった後、インターネットで自分の違和感を検索してみた。アセクシュアルが初めてヒットした。これに近いかもしれない!

 親友にすぐ報告した。交流会に参加して、アセクシュアルの人たちに出会った。「自分と同じような悩みを持った人がこの世に存在している」という事実に、心から安心した。

 アセクシュアルは認知度が低く、当事者が周囲にカミングアウトしても「本当の恋を知らないだけ」「そのうちいい人見つかるよ」と片付けられてしまうケースも多い。なかけんさんは当事者同士がつながる場を増やすため、NPO団体の活動に参加し始めた。ここ1年で徐々にアセクシュアルが集まるコミュニティーも増えてきたという。

動画撮影中の一コマ

 ▽ばらばらのセクシュアリティーで語り合う

 性性堂堂は、それぞれ別のセクシュアリティーを持った5人の20代の若者で構成されている。なかけんさんの他、Xジェンダーで男性愛者のまるるさん(21)、17年に性別適合手術を受けて女性の体になったゆういさん=年齢非公開、レズビアンのなとせさん(23)、ゲイのヒロキさん(20)。みんなそれぞれ性指向や性自認が異なる。

 ことし1月末、都内での動画撮影を見学させてもらった。この日なとせさんは体調不良で欠席だった。

 「今日、何撮ろうか?」「成人式は?」

 黒板に案を書き出し、動画の内容を決めていく。今回はバレンタインデーをテーマにすることが決定。10分ほどで会議が終わり、まるるさんは光GENJIの「勇気100%」を口ずさみながら撮影の準備を始めた。

 並んで座ったメンバーが、撮影用のiPhoneに向き合って、それぞれのバレンタインデーにまつわるエピソードを披露し始めた。

 「渡したかったけど、渡せなかった」「本命チョコをもらうのがつらかった。当日、学校を休んだこともある」「巻き込まれるのが面倒だから、先にみんなにお菓子を配った」。次々と飛び出すエピソード。なかけんさんが「いろいろあるということで」とまとめる。10分弱で「司るのは性!」という決めぜりふとともに撮影が終了した。

 あくまで「いろいろ」で、「こうするべきだ」みたいな結論はない。「いつもこうなんです、雑で」。まるるさんは笑いながら話す。

 性性堂堂は17年5月から投稿を始め、現在、150本以上の動画を公開している。性にまつわるテーマについて、メンバーがそれぞれの体験や考えを赤裸々に語り合う。「性転換から1年経(た)ったけど何が変わった⁉」「レズビアンあるある」などの動画が人気を博し、チャンネル登録者数は1万人を超えた。

 17年3月にLGBT勉強会のパネルディスカッションで、一部のメンバー同士が知り合ったのが結成のきっかけ。セクシュアリティーが違うから、同じテーマでも抱える思いはさまざまだ。その違いが面白く「形に残さないともったいない」と一致した。顔を出すことに迷いがあったまるるさんは最初、マスクをつけて登場していた。が、途中で「吹っ切れた」といい、今は素顔。ごく近い関係の人にしかカミングアウトしていないヒロキさんは「いつか知り合いにばれるかもという恐れはあるけど、別にそれでもいい」。ゆういさんは「だって悪いことしてるわけじゃないもん」と一言。

 かつてはゲイバーなどへ出向かないと同じセクシュアリティーの人に出会えない時代もあったが、今はSNSを通してLGBTの若者が仲間とつながれるようになった。性性堂堂を含め、LGBTのユーチューバーも増えているという。動画には「自分がアセクシュアルだと初めて自覚した」「勇気づけられた」などのコメントが寄せられている。

 どんな人とつきあいたいですか? と尋ねたら、メンバーは口々に答えてくれた。「経済的に安定している人」「包容力のある人」「(俳優の)大野拓朗君の顔が好き」「信頼のおける人がいい」「恋愛感情はなしで、友達と結婚するのもいい」。なかけんさんは「パートナーにするなら、精神的に落ち着ける人がいい」と話す。「理想の相手」のイメージは、男性→女性、女性→男性という多数派と、対象が違うだけ。それ以外は、20代の若者が飲み会で口にしているような恋愛観と変わらない。

 それぞれ忙しくなり、全員そろう機会が減ったことから、今後は5人での投稿はペースダウンする方針。でも、動画に込めるなかけんさんのメッセージは変わらない。

 「自分を否定しないで」

 セクシュアリティーにはいろいろなものがあり、「好き」の形は多種多様。なかけんさんのように恋愛そのものが「分からない」という人もいる。「もし理解してもらえなくても自分を責めないで、『そういう人もいるんだな』くらいに思ってもらいたい。そのためには、なるべくたくさんの材料が必要。教育ではなく、楽しく伝えたい」。当事者たちが自分を守る「材料」になると信じて、なかけんさんは堂々と動画で自らの体験を語る。

 「はいっ、性性堂堂です!」

 動画の冒頭にメンバーで声を合わせて名乗るグループ名には、こんな思いがこもっている。いろいろあったけど、今、私たち、正々堂々生きているよね―。(年齢などは取材当時、共同通信=関かおり)

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