被爆者の姿 伝え残したい 東京在住の写真家 大石芳野さん 取材20年超 「長崎の痕」出版へ

 戦争の傷に苦しみながら、たくましく生きる人々の姿を追うドキュメンタリー写真家の大石芳野さん(東京)が3月下旬、長崎の被爆者に焦点を当てた写真集「長崎の痕(きずあと)」(藤原書店刊)を出版する。長崎にテーマを絞った大石さんの写真集は初めて。被爆者の高齢化と減少が進む中で「同時代を生きる者として、被爆者の姿を伝え残したい」と、20年以上の取材を集大成する。

 2月中旬、出版前の最後の現地取材のため長崎市を訪れた。「ほほ笑みを浮かべながら『元気そうに見えるでしょ。でも本当はつらいの』と言うのが、本当にぐっとくる言葉-」と、長崎での被爆者の取材について振り返る。「それが、ひと言で伝わるタイトルにしたい」。副題を付けるかどうかも思案している。

 長崎で撮影を始めたのは1997年。過去に沖縄、広島の写真集などを出版しているが「長崎(の写真集)は遅れていて、気になっていた」と明かす。取材した被爆者らが相次ぎこの世を去る中で、出版を決めた。普段の姿を撮影したポートレートなど約130人の写真を収載予定。説明文の執筆など詰めの作業を進めている。

 印象に残っているのは、被爆地域外で長崎原爆に遭った「被爆体験者」の存在。写真集にも収載する。「原爆で受けた体験も話の内容も、被爆者と全く同じ。被爆者でないことが疑問」と表情を曇らせた。

 「日本は戦争をせず平和を享受してきたが、被爆者はその間、被爆時の恐怖や放射能の不安にさいなまれて生きてきた。そういう人と一緒に生きているということを、広く知ってほしい」。そんな思いで完成を目指している。

 ■長崎などで写真展

 大石さんは7~9月、東京、大阪、長崎で「長崎の痕」の写真展を予定。長崎展は9月5~17日、長崎市茂里町の長崎新聞文化ホール・アストピアで。創刊130周年を記念し長崎新聞社が特別協力、キヤノンマーケティングジャパンが協力する。その他詳細は未定。また、3月23日~5月12日、東京・恵比寿の東京都写真美術館で「戦禍の記憶~大石芳野写真展」を開く。長崎を含め国内外で撮影した約150点を展示。観覧料一般1000円など。

 【略歴】おおいし・よしの 1943年東京都生まれ。約40年にわたり国内外を取材。2001年に「ベトナム 凜(りん)と」で土門拳賞。ほかに「福島FUKUSHIMA 土と生きる」など写真集多数。2007年紫綬褒章。平和を訴える有識者グループ「世界平和アピール七人委員会」委員。

「同時代を生きる者として、被爆者の姿を伝え残したい」と話す大石芳野さん=長崎市内
「長崎の痕」に収載予定の1点。長崎市の被爆者、川口和男さんと自作の水彩画(大石芳野さん提供)

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