既存の枠を飛び出して1+1を3や4に広げる――DeNAの新ムーブ発信源「THE BAYS」

DeNAベイスターズで経営・IT戦略部長を務める林裕幸さん(右)と「THE BAYS」の運営を担当する矢野沙織さん【写真:佐藤直子】

「横浜スポーツタウン構想」の具現化を狙う創造性の発信地

 横浜スタジアムを中心とした新しい街づくりに取り組む横浜DeNAベイスターズは、既存の球団の在り方や野球のイメージにとらわれることなく、さまざまな発信を続けている。スポーツの力で街に賑わいを創出することを目的とした「横浜スポーツタウン構想」の下、野球と新たな分野の融合を図る“基地”となっているのが、「THE BAYS(ザ・ベイス)」だ。

 横浜スタジアムから道を1本隔てた場所に立つ「THE BAYS」は、市の指定有形文化財である旧関東財務局横浜財務事務所を活用した複合施設。レンガ造りの地下1階・地上4階の建物は、次世代につながるアイディアが集まる場所になっている。1階にはさりげなく野球の心を感じ、日常使いできる商品が揃うLifestyle Shop「+B」と、球団オリジナル醸造のクラフトビールやビールに合うオリジナルフードなどが楽しめるBoulevard Cafe「&9」が入り、地下ではスポーツスタジオ「ACTIVE STYLE CLUB」で実際にヨガやチアスクールなど体を動かせる場所を提供している。平日は朝7時からオープンする「ACTIVE STYLE CLUB」にはランステーションもあり、周辺オフィスに勤務する人々が出勤前や昼休みを利用して、手軽にスポーツに親しめる。

「THE BAYS」の中でも、目を引く異色な取り組みが「CREATIVE SPORTS LAB」と呼ばれるシェアオフィス/コワーキングスペースだ。「Sports×Creative」をテーマに新たな産業を生み出すことを目的とする場所で、5つのブースにはベンチャー企業や大学の研究室などが入り、広いオープンスペースでは法人だけでなく個人会員のクリエイターも作業。自由な発想の場から生まれるつながりやアイディアを生かしながら、新たなムーブを生み出そうという期待とエネルギーが詰まった場所だ。

 DeNA自体がベンチャー企業であり、新たな価値観を創造し、世に送り出そうという意識が強い。ゼロあるいはイチから物を生み出すことは、時には困難も伴う。DeNAベイスターズで経営・IT戦略部長を務める林裕幸さんも、2017年3月のオープン当初は「不安しかありませんでした」と振り返る。

「不安しかない状態からスタートし、約2年を経過した今、安定はしている状態です。でも、このままでいいのか、何かにチャレンジしなくていいのか、という思いは常に持っています。まだまだこれで終わりではない。この先に何が起こせるだろう。いろいろな期待を持ち続けています」

野球とクリエイティブさを掛け合わせ、新たなムーブを創造するアクセラレータプログラム

 野球界やスポーツ界が持つ閉ざされたイメージを壊したい。その第一歩として、野球を通じた街づくりを球団のテーマに掲げているが、そのコンセプトに興味を持ち、昨年8月に人材派遣紹介会社から転職したのが、「THE BAYS」の運営を担当する矢野沙織さんだ。「人を楽しませる場所、人が集まりたくなる場所にしていきたいです」と目を輝かせると同時に、新しい展開を継続させるため、常にアンテナを張り巡らせている。旅行で訪れたオーストラリアでも公園やシェアオフィスに出掛け、参考にできるアイディアはないか思案。大洋、横浜時代から続くベイスターズという球団のブランド力を生かしながら、ファンや街の人々の日常が少しでも豊かなものになるサポートをしていきたいと考える。

「横浜スタジアムやTHE BAYSを通じて、人と人とをつなげる場づくりをしていきたいと思っています。スポーツは独特の一体感を生み出せる力を持っている。スポーツ観戦に来てたまたま隣に座った人や、同じ瞬間を目撃してワクワク感を共有した人たちのつながりは特別だと思うんです。例えば、ベイスターズが勝てば、球場ですれ違った見知らぬ人同士がハイタッチをかわしたりする。ああいう一体感を、野球を発信源にして、日常のいろいろな場面で生み出せたらいいですね」

 野球界、スポーツ界に新たなムーブを起こしたい。そう考えるDeNAベイスターズの理念を具現化しているのが、新事業「BAYSTARS Sports Accelerator」(ベイスターズ スポーツ アクセラレータ)だ。2017年12月に行われた第1期公募には、ベンチャー企業から1か月間に約50件のアイディアが寄せられた。第1期プログラム採択企業には株式会社ギフティが選ばれ、電子地域通貨を用いたサービスの提供が検討されている。

 アクセラレータプログラムにも深く関わる林さんは、プログラム参加企業に選ばれたギフティに限らず、数々寄せられたアイディアから「いろいろな刺激や一歩先を見据える視点をもらった」と話す。

「外から受ける刺激は、また新たな発想を生み出す元にもなりますし、私たちが知らないことを知るきっかけにもなる。同じベンチャーマインドを共有しながら、多くのことを学びました。ベンチャー企業同士、あるいは面白い仕掛けを生み出したいと感じる者同士が手を組んで、1+1を3にも4にも増やしていきたい。あまりリスクは恐れずに、既存の考えに風穴を開けて、新しいスタンダードを自分たちから発信していければと思います」

 第2期「BAYSTARS Sports Accelerator」の募集も今後行われる予定。今年はどんなアイディアが寄せられ、スポーツ界の未来を動かすのだろうか。(佐藤直子 / Naoko Sato)

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