ブノワ・トレルイエが語るフォーミュラEとスーパーフォーミュラの違い。「僕の夢だよ!」と語る日本復帰の可能性

 少し前の国内モータースポーツファンには馴染みの深い、ブノワ・トレルイエ。全日本F3選手権、スーパーフォーミュラ、スーパーGTでチャンピンに輝き、アンドレ・ロッテラーとともに3度、ル・マン24時間を制覇したトレルイエは現在、アウディスポーツ・アプト・シェフラーチームで開発&リザーブドライバーを務めている。『ベン』『青い目の日本人』の愛称で知られ、フランス人ながら星野一義の魂を引き継ぐ日本育ちのドライバーでもあるトレルイエに現在のフォーミュラE、そしてスーパーフォーミュラとの違いについて聞いた。

 フォーミュラE第5戦が行われている香港で、日本モータースポーツ記者会(JMS)の囲み取材で日本のメデイアに答えたトレルイエ。まずは第2世代に入ったフォーミュラEの印象を語った。

「ご存知のようにフォーミュラEは市街地で行われて、電気自動車で走るレース。今年はひとつのバッテリーで走れるようになったけど、エネルギーをセーブしながら走るのがレースパフォーマンスの鍵になる。たくさんの自動車メーカーが参戦して、今年からは自分たちでパワートレインを開発することができるようになった」

「レースではそれぞれ異なったストラテジーで、ブレーキの回生エネルギーを駆使して戦う。つまり、フォーミュラEはどれもが新しいコンセプトのレースなんだ。とても興味深いよね。ドライバーのレベルもすごく高くて、世界各国を回ってチャンピオンシップを争っている。日本を除いてね(苦笑)。自動車メーカー、参加チーム、そしてドライバーとどれもがハイレベルなんだ」とトレルイエ。

 自身が日本で乗っていたスーパーフォーミュラ(トレルイエ参戦時は前身のフォーミュラ・ニッポン)とフォーミュラEのマシンの違いは、明らかだった。

「他のレースカー、たとえばスーパーフォーミュラとのマシンと比べて一番異なるのは、やっぱりダウンフォース量だね。フォーミュラEはご存知のように、そんなに大きなダウンフォースは必要ではないんだ。重量やダウンフォース以上に、使用する電気エネルギーの効率性がもっとも求められる」

「スーパーフォーミュラではもちろん、ダウンフォースがもっとも重要なポイントだよね。競争力を高くして戦うにはダウンフォースが大きくないといけない。そのダウンフォース量が、スーパーフォーミュラとフォーミュラEのマシンで大きく違うところだね」

 トレルイエはアウディがWECを撤退した後もアウディ・チームの一員としてブランパンGTシリーズなどに参戦。現在はフォーミュラEのアウディ・スポーツ・アプト・シェフラーチームで開発&リザーブドライバーを務めている。まだまだシミュレーターでの走行が中心のようだが、実際のフォーミュラEの走行はとても印象的だったようだ。
 
「北京でのテストでソフトウエアのテストをしたり、マラケシュでリアルカーをテストをしたんだ。フォーミュラEカーはまだ走り始めたばかりだけど、テストで走ったときはとても印象的だったね。ドライバビリティがとても高くて、エレクトリックエンジン(モーター)のレスポンスはとても良かった。コントロールしやすかったよ」

■ブノワ・トレルイエの日本復帰の可能性と、スーパーGTとDTMのコラボについて

 フォーミュラEはワンメイクのシャシーで共通のバッテリーを使用するが、パワートレインのインバーターとモーターの開発がチームに許されている。1チーム2台が参戦している。ドライバーによって、コース上のドライビングではどのような違いが勝敗を分けることになるのか。

「チームの2台のマシンは同じだけれど、はドライバーによって回生エネルギーの回生率が異なるし、バッテリーの発熱温度もドライバー自身でマネジメントしなければならない。それらはもちろん、パフォーマンスにつながるよね。そういったたくさんの要素の妥協点をエンジニアとともに探しながらパワーを使って走行しなければならない。どれくらいエネルギーを使うか、どのくらい回生できているか、それからを考えながらマシンをコントロールしていくんだ」と、フォーミュラEの戦い方を説明するトレルイエ。

 今はリザーブという形でフォーミュラEに関わっているトレルイエだが、将来的に日本に戻ってレースをする可能性はあるのだろうか。

「もちろん、日本に戻ってレースがしたいよ! 当然、ニッサンに戻ることができればうれしいけど、正直に言ってアウディと契約したことで日本に戻るチャンスを失ってしまった。日本には本当にレベルの高いドライバーが多い。だから、僕のキャリアの終わりにアウディが日本のレースで走ることになったら、それはとてもグレイトなことだね」

 トレルイエはDTM(ドイツ・ツーリングカー選手権)のテストにも参加している。アウディ、BMW、そしてアストンマーティンが参戦しているDTMとスーパーGTがクラス1規定によってマシンが統一されることで、交流戦などを通してアウディのDTMマシンでトレルイエが日本でレースをする可能性も出てくる。

「そうだね! もちろん、DTMのアウディがスーパーGTに参加することは簡単なことではないだろうけど、日本に戻ってレースをすることは僕の夢だよ。日本にはとてもグレイトなファンがいるし、ご存知のように僕は日本を愛している。僕の妻も息子も、日本で生活する準備はできているから、いつでも引っ越すよ!(笑)」

 日本で活躍していた頃と変わりのない人懐っこい笑顔で日本のメディアに答えたブノワ・トレルイエ。フォーミュラEに舞台を変えても、モータースポーツと日本への愛情は変わっていないようだった。

フォーミュラE第5戦香港で取材に答えるブノワ・トレルイエ

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