スペイン人ライターのF1便り:プレシーズンテストで見えたトップ3チームと中団勢の実力差

 スペイン在住のフリーライター、アレックス・ガルシアのモータースポーツコラム。バルセロナで行われたF1合同テストが終わりいよいよ今週末に開幕戦オーストラリアGPがスタートする。どのチームも実力を隠しているが今年もメルセデスとフェラーリのタイトル争いが繰り広げられるシーズンとなるだろうか。
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 8月に2週間をスペインで過ごすのは、リラックスした休日を過ごすのにはいいかもしれない。しかし、2月に訪れるバルセロナはF1にとって特に張り詰めた時期のひとつだ。

 バルセロナのカタロニア・サーキットで行われたF1プレシーズンテストの8日間で、各々のチームはできる限り多くの周回を走ることになる。テストの目的には3つの要素がある。まず、新車のすべてのデータを検証することが重要だということ。

 次に、チームは持てるものすべてを改善し、開幕戦オーストラリアでシーズンを強力に始めるための基礎を築くことが不可欠だ。そしてすべての情報をライバルたちから隠すことだ。こうした3つの点で良い成果を出すことが、シーズンを成功させる鍵となる。

 良くも悪くも、ほとんどのチームは実力を隠すことができていた。しかし、私は自身でF1テストに赴き、各チームの最も興味深いタイムを手早く分析したおかげで、いくつかの事実を明らかにすることができたと思う。

 タイムは必ずしも最速ラップではないが、各ピレリタイヤのコンパウンド間の違いや、該当の周回中の燃料積載量について分かったことを考慮することで、バルセロナで各チームがあらゆる点で示したことを推定することができる。もちろんすべてのチームは本当のペースを隠そうとしていた。だが誰が最速だったのだろうか?

シャルル・ルクレール(フェラーリ)

順位 ドライバー(チーム) 実際のラップタイム 計測日 推定燃料積載量 理論上のタイム

1 S.ベッテル(フェラーリ) 1’16.720(C3) 8日目 予選並みの少量 1’15.8

2 L.ハミルトン(メルセデス) 1’16.224(C5) 8日目 予選並みの少量 1’16.2

3 P.ガスリー(レッドブル) 1’17.715(C3) 5日目 少 1’16.7

4 K.マグヌッセン(ハース) 1’18.199(C3) 7日目 中 1’16.7

5 A.アルボン(トロロッソ) 1’16.882(C5) 7日目 少 1’16.8

6 N.ヒュルケンベルグ(ルノー) 1’16.843(C5) 8日目 予選並みの少量 1’16.8

7 C.サインツJr. (マクラーレン) 1’17.144(C4) 6日目 予選並みの少量 1’16.8

8 K.ライコネン(アルファロメオ) 1’17.239(C5) 8日目 予選並みの少量 1’17.1

9 L.ストロール(レーシングポイント) 1’17.556(C5) 7日目 予選並みの少量 1’17.5

10 G.ラッセル(ウイリアムズ) 1’18.130(C5) 7日目 予選並みの少量 1’18.1

 これらのラップタイムは必ずしもその週の各チームの最速ラップではなく、むしろ最速の“調整済み”ラップである。これらのタイムは、一見非常に平凡にしか見えないラップタイムの現実を掘り起こそうとしているのだ。

 こうした結果にどのようにたどり着いたかを理解するためには、タイヤコンパウンドの違いを知らなければならない。ピレリのC1タイヤが最もハード、C5が最もソフト寄りのタイヤだ。このタイヤコンパウンド間の差は平均して、コンマ4秒からコンマ6秒の差があると見積もっている。

 その上、より分かりづらいのは、燃料積載量だ。ある任意のタイミングで、マシンがどれだけの燃料を積んでいたかを正確に知るのは不可能だからだ。

 マシン底部がブレーキング時にどれだけ下がるか(燃料が満タンだと火花が散る。つまりより重いということになる)ということから小さなヒントを得ることはできるが、ある重量以下だと、手がかりはない。

 たとえば、レースシミュレーションを行なっているマシンは、20周の走行のうち3周目でベストタイムを出し得る。そのマシンは少なくとも20周を走行するのに必要な燃料は積んでいたわけだ。しかし余分のウェイトを積んでいた可能性もある……

 燃料は複雑な問題だ。特に積載量が少なかったと思われるチームについては断言するのは難しい。フェラーリ、メルセデス、ルノー、マクラーレン、レーシングポイント、ウイリアムズは、決められたラップタイムを出した後、すぐにガレージに戻っていた。

 つまり彼らはほとんど予選シミュレーションのように、ごく少量の燃料を搭載していたと見られる。だがもし、メルセデスが余分な燃料を積んで予選シミュレーションを行なっていたとしたらどうだろう?理論的には、十分にあり得ることだ。

 実際のところ、おそらくそうだったのだと思う。データをみる限り、現在フェラーリが明らかに最速であることは否定できない。しかしメルセデスがある程度ペースを加減していたと見ることもできる。彼らはオーストラリアで優勝するのに十分な力があるのだろうか?

2019年F1バルセロナテスト1回目 ロマン・グロージャン ハースVF-19

 他チームの状況も非常に異なっており、特にハースはプレシーズンテストにおける最大の謎だった。信頼性の面では芳しくなかったものの、彼らの理論上のラップタイムはほとんどレッドブルと同レベルだった。

 レッドブルについて言えば、極めて高い信頼性を見せており、プレシーズンテスト全体で非常に良い兆候を示していた。ホンダのエンジンはレッドブルにおいてもトロロッソにおいてもなんらトラブルはなく、両チームとも非常に強力に見えた。

2019年第2回F1テスト2日目 マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)がコースオフ

 ピエール・ガスリーやマックス・フェルスタッペンが2019年にタイトル争いすることは想像しにくいが、2019年にレッドブル・ホンダがレースで優勝することは大いにあり得るだろう。

 最後に、アルファロメオが優れたペースを発揮するかどうかは確信がもてない。新車C38は優れていたようだし、テスト1週目の彼らの走りは素晴らしかったようだ。

 だがテスト2週目ではすべての状況が少々難しいものになってしまった。それでも彼らはレーシングポイントとウイリアムズよりは優位にあるようにみえる。

 レーシングポイントとウイリアムズにとって、2019年は苦しい戦いになるかもしれない。レーシングポイントは過去に、そしてウイリアムズは現在資金難にあるからだ。ウイリアムズはマシンが特に速いわけではない上に、スケジュールが遅れており、開幕前にはFIAからマシンの違法性も指摘されていることを考えると、2019年シーズンはポイントを獲得することにすら苦戦するかもしれない。

 そういうわけで、バルセロナで見たことから私はいくつかの結論に達した。フェラーリとメルセデスは再度タイトル争いを継続することになるだろう。

 レッドブルはコンディションが整えば、3番手につけ、時には優勝争いに絡むようになるかもしれない。彼らの後ろでは、トップ10内の残りの順位を賭け、その他の様々なチーム間で極めて激しい接戦が繰り広げられるだろう。

 私はハースとルノーが有力だと見ている。マクラーレンは予想されていたよりも力がないように見える。

 そして最終的にウイリアムズは、F1シリーズにおいて最下位になるのは明らかだろう。非常にエキサイティングなシーズンになることを心待ちにしているが、同時に私は、過去2年と似たようなシーズンになるのではないかと感じずにはいられない。そして私は心の中で思っている。「自分が間違えていますように!」と。

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