WTCR:バルセロナ公式テストはホンダ勢好調も、アウディ首位。ヒュンダイはBoPに沈む

 2019年で2シーズン目を迎えるWTCR世界ツーリングカー・カップの公式プレシーズンテストが3月28~29日にスペインのバルセロナで開催され、ALL-INKL.COM Münnich Motorsport(オール-インクルーシブ.comミュニッヒ・モータースポーツ)勢のFK8ホンダ・シビック・タイプRがトップタイムを独占する好調さを見せるも、最終日最終セッションを首位で終えたレパード・レーシング・チーム・アウディスポーツのゴードン・シェドン(アウディRS3 LMS)が総合トップに立ち、開幕に向け万全の体制を整えた。

 この公式プレテストを前に2019年シーズン最初の性能調整となるBoP(バランス・オブ・パフォーマンス)テーブルが発表され、完全ブランニューモデルとなるシアン・レーシングのLynk&Co 03 TCRが最大ウエイト30kg搭載の1355kg、エンジン出力97.5%、最大ライドハイト80mmというシリーズでもっとも重い調整を課せられることが判明。

 WTCRには参戦しないものの、同じく新型モデルとなるヒュンダイ・ヴェロスターN TCRがホモロゲーション登録車最高値となるバラスト40kg搭載の1365kg、出力97.5%、地上高90mmとなり、昨季のWTCRチャンピオンカーであるヒュンダイi30 N TCRも10kg搭載の1335kgに出力97.5%、地上高90mmのBoPを課せられ、如実に競争力を削がれる事態となった。

 一方、2018年シーズンを通じて出力97.5%で戦ってきたホンダ勢は、晴れて100%のエンジンパワーを解放することが許可され、ライドハイト80mm、ウエイト10kg搭載の1335kgとわずかながらパフォーマンスが改善。

 フォルクスワーゲン・グループ傘下の3車種は全車ライドハイト70mm、出力100%の設定となり、ゴルフGTI TCRが-20kg、クプラTCRが-30kg、そしてアウディRS3 LMSが-10kgというBoP初期設定値となった。

 その効果を反映するかのように、前日のシーズンラウンチを経てバルセロナのカタルーニャ・サーキットで始まった公式テストでは、木曜午前のファーストセッションからホンダ勢が躍進。今季“アルゼンチン・スクワッド”と化したエステバン・グエリエリ、ネストール・ジロラミのコンビが代わる代わるトップタイムを記録し、ジロラミ、グエリエリ、ジロラミと金曜午前までの全セッションを制覇していく。

 しかし金曜午後の最終走行枠でホンダ勢を食い止めたのは、チームWRTのアウディをドライブする元BTCCイギリス・ツーリングカー選手権王者のシェドンで、ジロラミのタイムを0.074秒更新する1分54秒434をマークして総合首位に立ちバルセロナの2日間を締めくくった。

新型モデルのLynk&Co 03 TCRや、北欧STCC出身の実力派も多数参戦し、激戦が予想される2年目のWTCR
前夜のシーズンラウンチを経て、2019年にエントリーする全26台のマシンが集った
アルゼンチン・ペアとなるミュニッヒのエステバン・グエリエリ(左)とネストール・ジロラミが交互にトップタイムをマーク
新規参戦ながら、すでにBoPで最大ウエイト搭載を課せられたLynk&Co 03 TCR

 そのシェドンのチームメイトとなる2017年TCRインターナショナル・シリーズ王者のジャン-カール・ベルネイもこの最終セッションでトップタイムからコンマ4秒遅れながら3番手につけ、全セッション総合でも4番手タイムとアウディ勢の好調さをアピールした。

 さらに金曜午後トップ3の背後にはマ・キンファ、ケビン・チェコンのチーム・ミュルザンヌ勢が並び、ロメオ・フェラーリが製作したEVOモデル、アルファロメオ・ジュリエッタ・ヴェローチェTCRが1305kg、-20kgのBoPも活かす結果となった。

 一方、前日はトップ10入りもなくこの最終セッションでもPWRレーシングのダニエル・ハグロフ(セアト・クプラTCR)とヤン・エルラシェール、イバン・ミューラー(ともにLynk&Co 03 TCR)の親族ペアに次ぐ9番手止まりとなったBRCヒュンダイN スクアドラコルセのディフェンディングチャンピオン、ガブリエル・タルキーニは「新しいBoPには満足していない」と、不満を表明した。

「もちろん2018年前半戦は我々に競争力があり、それがタイトルに向け後押しにはなったが、後半戦はマシンに突出したアドバンテージは存在しなかった。現状では開幕戦で戦えるレースペースがなさそうだ」とタルキーニが語れば、BRCレーシングのチームマネージャーを務めるガブリエル・リゾも「BoPにより連覇を阻止するという考え方が蔓延するのは民主的ではない」と、エースのコメントをフォローした。

「午前のセッションでの最高速を分析したが、我々は最速モデルより10km/hも遅かった。現状のi30は2番目に重く、もっともライドハイトが高いマシンだ。昨季後半の性能差を考えても不当なBoPを課せられており、競合他社と同レベルで戦う能力を削がれている」と続けたリゾ。

 これに対し、アルファロメオのチェコンらは「彼らはどんなテストをした? 写真を撮っただけだろう?」と厳しく糾弾する。

「僕ら以外は誰も真剣にテストなんかしちゃいないさ。僕らはトラックでの時間を稼ぎたいから全力で走行した。でも他陣営の誰もがこのセッションをメディアイベントとして、フィルミングに使っているだけだ」

 同じく総合4番手に入ったベルネイも、昨季のTCRヨーロッパでの実績を踏まえてヒュンダイ勢の主張に批判的な目を向けている。

「彼らは昨季のTCRヨーロッパでのi30と同じBoPだったにも関わらず、(最終戦の舞台となった)この同じバルセロナで約5秒も遅かった。冗談を言っているとしか思えない」

 このテストの結果を踏まえ、シリーズの勢力争いはどう動くか。開幕戦モロッコ、マラケシュ・ストリートサーキットでの勝負は4月6~7日に幕を明ける。

トップ10に顔を出すことはなかったものの、完全復帰のティアゴ・モンテイロも精力的に周回を重ねた
エースのガブリエル・タルキーニのみならず、チームマネージャーやノルベルト・ミケリスらもBoPへの不満を口にする
2台そろって2日間でタイムシートの上位を占めたアルファロメオ・ジュリエッタ・ヴェローチェTCR
「ヒュンダイ勢の印象操作は成功しない」と冷静に語ったジャン-カール・ベルネイのアウディもテストを成功裏に終えている

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