プログラミングを学ぶ教材としてはおもしろい。でも小学校にそのまま導入は無理!?『Sphero完全ガイド』

プログラミング教育関連の書籍を中心に、現役のパソコン書籍編集者が、実際に役立つ本なのか、少し辛口に見ていきます。今回は小学館の『Sphero完全ガイド』です。

  • タイトル,Sphero完全ガイド
  • 著者,スフィロ Edu研究会
  • 出版社,小学館
  • 価格,2052円
  • 本書には3つの実践コンセプトがある
  • 内容はいいが、今の小学校にそのまま導入するのは難しい
  • 単にプログラミングを学ぶものとしては非常におもしろい
  • Spheroは直感で動かせる
  • Sphero Eduのビジュアル・プログラミングはなかなか優秀

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3つの実践コンセプト

今回取り上げる『Sphero完全ガイド』は、スマホアプリの「Sphero Edu」と、スケルトンボール「SPRK+」を組み合わせて使うためのガイドブック。開発元のスフィロ社が監修しているので、公式ガイドブックとして安心して読める本です。

本書が強調しているのは、以下の3つの実践コンセプトです。

あえて3つの実践コンセプトを取り上げているのは、これまでの教育とは一線を画しているぞ、ということを強調したいからでしょうか。たしかに一部の先進的な学校をのぞき、2や3の教育が小学校で実践されていることは、ほぼありません。

2020年度のプログラミング授業にそのまま導入するのは非常に困難

さて、小学校でのプログラミング授業の必修化が話題になっていますが、この『Sphero完全ガイド』のカバーにも、「2020年からプログラミングが小学校で必修化」とデカデカと書いてあります。小学生向けプログラミング学習本特需に乗り遅れまいというのが、外装からもにじみ出ています。

先日文部科学省が、2020年度から小学校で使われる教科書の検定結果を公表しました。今となっては周知の事実だと思いますが、小学校では「プログラミング」という授業が増えるわけではなく、あくまでも「算数」や「理科」などの教科書に、プログラミング教育の要素が盛り込まれるだけです。

学習の目的は「情報活用の基本を学ぶ」ことや「論理的思考力の育成」です。小学5年生の算数で正多角形の作図をしたり、小学6年生の理科で明かりの制御をしたりする、一般の人がイメージしているプログラミング教育とは、少し違うと思います。

小学6年生の「明かりの制御」は、「光る」「消す」「繰り返す」などのコマンドを使った、LED(発光ダイオード)の制御(任意の回数点滅させせる)をプログラミングの課題にしているので、少しは実践に向かって進展しているのかなと思います。

中学校にあがれば、すでに技術・家庭科で必修化されているプログラミング教育が21年度から内容を拡充するそうですから、一般の人のイメージに近い学習になるのではないでしょうか。また高校にいたっては、22年度からプログラミングを含む「情報1」が必修科目となります。専門学校や大学に近いプログラミング学習になっていくかもしれません。

前述の「小学校のプログラミング授業の必修化」の内容からすると、『Sphero完全ガイド』が解説しているような、スマホアプリの「Sphero Edu」とスケルトンボール「SPRK+」を組み合わせたプログラミング教育を、今の小学校にそのまま導入するのは非常に困難かもしれません。「おもしろいかおもしろくないか、役に立つか立たないか」ではなくて、「2020年プログラミング授業必修化」に当てはめるのが難しい、ということです。

プログラミングを学ぶ教材としては簡単でおもしろい

ですが、この記事を書きはじめる前に、説明書も読まずになんとなくいじりはじめましたが、セットアップがとても簡単でした。また、すぐにスマホで直感的にボールを動かしたりできることは、「おもしろい!」と同時に「すごい!」と感じました。

おそらく、小学生であっても、きちんとセットアップさえできれば、「おもしろい!」「すごい!」という驚きや感動は得られるのだと思います。しかし、これらを学校で実践しようとすると、どうしてもクラブ活動などの“授業外”になってしまい、一部の興味ある生徒だけの学習になってしまいます。

このプログラミング学習の時間枠をなんとかしないと、海外の学校や国内でも一部の先進的な学校のコンピュータ教育からは、どんどん後れをとっていくことになるでしょう。

「Sphero」のおもしろさ、すごさ

では、「Sphero」話を戻しましょう。「Sphero」は、スマホやタブレットなどのデバイスで動作するブロックプログラミングアプリ「Sphero Edu」(スフィロ・イーディーユー)で、色や動きをプログラムで制御できたり、内部が透けて見えるスケルトンのボールなどを組み合わせて学習するツールです。

制御できるロボットは何種類かありますが、本書ではロボットボールの「SPRK+」が取り上げられています。また、アプリ「Sphero Edu」は、「iOS」「Android」「Kindle」「Chrome OS」搭載のデバイスに対応しています。

本書にも書かれていますが、準備は非常に簡単で、スマホなどにアプリをインストールしたあと、Bluetoothでロボットボールに接続します。「ロボットに接続」を押すと接続できるロボットが表示されるので、目の前にあるボールやロボットを選ぶだけです。

ロボットを接続する際に、ファームウェアの自動アップデートが行なわれることもあります。アカウントを作成するかGoogleアカウントを利用してサインアップすれば、コミュニティなどへの参加もできます。

これだけで準備完了で、その後は直感的にボールを動かしたり、自在にプログラムを組んだりできるようになります。スマホでロボットを制御する設定が、ここまで簡単であることに驚きます。

他の本との違い

『Sphero完全ガイド』は、「Sphero」を取り上げていること自体が、類似本と全然違うものとなっています。「プログラミング言語の概論的な話」や「ブロックプログラミングやビジュアル言語をコンピュータ画面上で動かすための解説」までは、これまでの本と一緒ですが、その先の「手に触れることができる物理的なロボットを制御する」とうことが、他ではできないことであり、「Sphero」の最大の強みです。

Spheroのプログラム

Sphero Eduのロボットボールの制御(プログラム)の仕方は3つあります。

通常、プログラミングとなると、2のビジュアル・プログラミングか、3のテキストで記述する高度なプログラミングです。しかし、「Sphero Edu」は、1の単純にロボットを動かすDrawを採用しているところを非常に評価したいです。

3は当然として、2の簡単なビジュアル・プログラミングでさえ、いくら簡単なプログラム言語とは言え、満足いく実行結果を見る前に途中で挫折してしまう子はいるはずです。しかし、1のDrawは、指で直線の棒を1本描けばそのとおりにボールは動くし、指で円を描けば回るように動き出します。また、指でカラーを選べば瞬時に色が変わります。

ドローのキャンパスで線で描いてみた
スマホからLEDや傾きを操作する

とにかく、頭に浮かんだことを直感的に制御対象に伝え、結果をすぐに確認できます

プログラム言語でいえば、結果がすぐに反映される“インタープリタ型”言語に近いでしょうか。これをロボットの制御でやってしまうところがすごいと思います。もはやは、ラジコンロボットと同じです。ラジコンの操作であれば、誰でも楽しんで率先してやりますから、これで“つかみ”はOKです。

Drawで機器を制御することの楽しさを覚えてしまえば、子どもたちは能動的に「Sphero」を楽しむことになるでしょう。なにより、この“能動的”というのが、学習にはいちばん大事なことだと思います。自らやりたいという意思が出てくれば、プログラミングもアルゴリズムもどんどん吸収して、ビジュアル・プログラミングだろうがJavaScriptだろうが、難題でも次々にクリアしていくのではないでしょうか。そう成長できるのが、子どもだと思います。

Sphero Eduのビジュアル・プログラミング

プログラミングでメインとなるのは、やはりブロックを組み合わせて作る「Blocks」でしょう。JavaScript言語などに比べれば、非常に簡単にプログラムを組めます。一見「Scratch」などのビジュアル・プログラミングと変わりませんが、「Sphero Edu」の場合は、制御するロボットボールがありますから、ひと味違うプログラミングを学べます。

コンピュータ画面上で計算したり、グラフィックを動かしたり、音を出したりするだけでなく、リアルな世界の物理的なロボットを動かしたり、止めたり、回転させたりする制御できます。また、ロボットがもつセンサーから数値を取得したり、衝撃や落下、電池切れなど、突発的なことが起こったときにイベントを発生させるなど、画面だけで完結するプログラミングではできない、機械制御のプログラミングを学べます。

より実践に近い機械制御学習を簡単に導入できて、かつ子どもにも飽きさせない、挫折させないように工夫されている「Sphero」は、今後国内の小中学校でもなにかしらの形で浸透してくるかもしれません。その手引きとなる『Sphero完全ガイド』は、小中学生や親御さんはもとより、教育現場に携わる人にはとくにオススメです

Sphero Edu

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