あの誓いを

 その人が好きだった花の束が、今年も供えられていた。JR長崎駅に近い事件現場の歩道で、献花台に黄色の鮮やかなヒマワリが置かれていて、明朗な人柄とどこかしら重なる▲長崎市役所回りの記者だった当方に、会えばあちらから「どうもどうも」と声を掛けてくれて、雑談になることもあった。気さくなその人が命を狙われ、凶弾に倒れた事態を、よくのみ込めずにいた覚えがある。長崎市長だった伊藤一長さんが、暴力団幹部の男に拳銃で撃たれ亡くなってから12年たった▲市長選のさなかに事件は起きた。世の中、事件に騒然としたが、選挙戦もまた騒然とした。そのとき補充立候補し、初当選した市長と新人3人とが今、選挙で争っている▲伊藤さんの人となり、事件の衝撃、直後の市長選と、この時期はいろいろ心に浮かぶが、思い起こすべきことならば、まだある。暴力への怒りと、それを許さないという誓いとを改めて胸に刻みたい▲暴力のない安全な町にしようと、多くの寄付金を基に2008年、長崎市に「いのちの碑」が建てられた。事件に心を痛めた人々の思いが詰まっている▲伊藤さんの十三回忌を節目に、市は献花台を置くのを今年で終わりにしたという。歳月が流れゆくのを感じる今、願いと誓いを絶やすまいと、思いをいっそう深くする。(徹)

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