ヨマかすり

 「肥前長崎ハタげんか」と題する57年前のドキュメント映像を、今月初めに小欄でご紹介した。長崎伝統のハタ揚げを撮っている。花田美康(よしやす)さんという方が撮影し編集した8ミリ映像が残っていて、DVDにしたものを読者の一人が送ってくださった▲映像を見れば、ヨマ(揚げ糸)を切られ、落ちてきたハタに子どもが群がっている。当時の子どもたちは春になるとハタを揚げて遊び、ビードロ(ガラス粉)の付いたヨマを皆が欲しがったのだと、映像のナレーションで説明している▲そのことをここに書いたら、もう80年も昔の少年の頃が思い出されたと、長崎市書作家協会の竹下玉水さん(88)が感想を寄せてくださった▲日本庭園のある「心田庵」の近くに8歳くらいまで住み、そこから上った丘でよくハタ揚げをしていたという。取り合いを「ヨマかすり」と言ったそうで、「取ったヨマは体にぐるぐる巻き付けたものです」と懐かしむ▲大人たちは、落ちてきたハタを長い竹ざおに引っ掛けてヨマを得ていた、とも竹下さんに聞いた。ハタ揚げにヨマ集めにと、大人も子どもも同じ所で、同じ遊びに熱中した往時があったことを知る▲今ちょうど時代の変わり目にあるが、遠い遠い昔日に空を舞ったハタを思い描けば、昭和からにぎやかな遊び声が聞こえてくる。(徹)

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