不安は消えない

 その人は10年前の今頃、首相の座にあった。都議選の応援演説で「必勝を期して」と言うところを「惜敗を期して」と言い間違って失笑を買った▲ほかにも「未曾有」を「みぞゆう」と誤読したりと、現在は財務相・金融担当相の麻生太郎氏は失言、言い間違いを連発していた。その舌禍の人はいま、不正確とされる報告書を激しく難じている。95歳まで生きるには夫婦で2千万円の蓄えが要ると試算した金融審議会の報告書について、正式なものとしては「受け取らない」と述べた▲老後はひと月に5万円不足し、30年だと2千万円-という計算が一律には当てはまらないとしても、公的年金だけで生活が賄えるのか、かねて疑問視されてきた。報告書はそこまで全否定されるべきかどうか▲年金不安をあおるから、なかったことにする。つまりは参院選を前に火消しを図ったらしい。報告書は事実上、撤回に追い込まれた▲少し前、読者からメールを頂いた。近ごろ、放言・失言した議員がさらりと発言撤回することが多くなったようだが、それでなかったことになるのか、「覆水盆に返らず」ではないだろうか、と▲報告書も同じだろう。舌禍のように扱い、撤回しても、世の年金不安が消えたことにはなるまい。「100年安心」と繰り返すばかりでは、らちは明かない。(徹)

 


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