【高校野球】「勝ったチームが一番強い」 U-18日本代表監督が語る夏大会初戦の難しさとは?

U-18高校日本代表監督を務める永田裕治監督【写真:津高良和】

報徳学園では通算18度の甲子園出場、現在はU-18高校日本代表監督を務める永田裕治監督

 第101回全国高校野球選手権大会の49代表を決める地方大会は各地でスタートした。春の選抜で優勝した東邦はノーシードで春夏連覇を目指す。高校球児の集大成となる夏の大会――。Full-CountではU-18高校日本代表監督を務める永田裕治監督に初戦の戦い方、メンバー選考の苦悩などを聞いた。

 甲子園を目指す最後の戦い。3年生にとっては高校野球の集大成となる。報徳学園を春夏合わせ通算18度、甲子園通算23勝を挙げた名将・永田監督は県大会の難しさを「初戦をいかに冷静に、自分たちの力を出して戦えるか」と語る。

「どの監督も同じでしょうが、やはり初戦の入り方が一番難しいと感じます。例え相手が格下のチームであっても高校野球は何が起こるかわかりません。ましてや強豪校といえるチームはシードの場合が多いですよね? 相手は1試合を経験し勢いに乗ってくる。高校生の成長スピード、力は我々が考える以上に凄いものを持っています」

 毎年のようにその年の選抜出場校が敗れると“波乱”という見出しで各校の敗退がニュースになる。だが、永田監督自身はそうは感じていない。勿論、各校で力の差は存在するが選手のモチベーション、勢い、流れなど“力”だけが全てではない。「強いチームが勝つのではなく、勝ったチームが一番強い」を念頭に置き采配を続けた。

「甲子園を経験している選手でも、どうしても雰囲気に飲まれることもあります。初戦にエースを温存するチームもありますが、私は監督生活の中でケガなどが無い限り初戦は必ずエースを投げさせました。口酸っぱく言ってきたのは『目の前の1試合に全力』です。この1戦に勝たなければ先はないのですから。初戦を乗り切って流れを作れば、選手たちも乗ってくる。乗らすような空気を作ることも指導者の仕事だと思います」

劣勢も跳ね返す「逆転の報徳」の原点、メンバー選考の苦悩…

 報徳学園で指揮を執った23年間で夏の県大会初戦で敗れたことは1度もない。幾度となく劣勢の状況から試合をひっくり返す“逆転の報徳”はどこから生まれるのか。

「思うような試合展開にならなかった場合に一番、焦るのは子供たち。監督が少しでも焦った姿を見せれば子供たちは今まで以上に精神的に響いてきます。どんな状況でも気持ちを落ち着かせ勝機を見出す。相手のデータや癖、そして選手たちのコンディション、精神面。試合が始まる前からすべてを頭に入れ采配、起用法に結びつけることが大事になるのではないかと。だからこそ、これまで積み重ねてきた選手たちとのコミニケーション、性格などを把握しておく必要があります」

 報徳学園の練習ではレギュラー、控えを分けることなく全員が同じメニューをこなす。入部条件は存在しない。推薦で入る選手もいれば、一般入部の生徒にも門戸を開いてる。少数精鋭を取り入れなかった理由を指揮官はこう語る。

「野球だけの人間にはなってほしくない。高校野球を終えれば大学にいく生徒、社会人として働く生徒もいる。野球の技術も成長してほしいですが、人間性も成長してほしい。辛いこと、成功体験、喜びなど全員で共有して一つのチームとして戦っていく。ここ一番で力を出せるチーム、全員野球で戦ってほしいと私は思っていました」

「これはいつも言うことなのですが生徒たちには『4つのC』という話をしています。Chanceがあれば、それにChallengeする。戸惑うこと、迷うことがあればChangeも必要。そして、野球だけでは無く人生の勝利者、Championになってほしいと」

 監督として一番つらい瞬間はメンバー選考。100人も及ぶ大所帯からベンチ入りメンバー20人を選ぶ際には何度も自問自答したという。

「背番号1から9ぐらいまではパッと思い浮かぶ。だが、そこからは何時間もかかってしまうことが多い。リリーフ、代走、代打…。色々な試合の状況を考えますし、実力が同じ選手だっている。どっちの選手が試合で力を出せるのか、ここまでどれだけ努力してきたかなど決めなければならない。最後の選手発表に涙を流す生徒を見るのは何年監督を務めてきても辛いものがあります」

 県大会では20人、そして甲子園では18人の選手を選考していく。報徳学園の中で「ミスター報徳」という1枠が存在する。技術的には他の選手たちよりも劣るがムードメーカーとしてチームを支える一人だ。

「ただ単に“お調子者”を選ぶわけではない。日頃の練習態度などを全て把握して決めています。選手、首脳陣、誰が見ても納得する一人を。中学までバレー部だった子もいましたが、その選手は素晴らしい努力を見せ、甲子園のメンバー入りを果たしたこともあった。それが後輩たちにも励みになる。誰にでもチャンスがあると思えば生徒たちの目の色も変わってきます」

 夏の甲子園が終われば、8月30日から韓国で「第29回 WBSC U-18ベースボールワールドカップ」が行われる。日本がまだ手にしたことのない悲願の世界一に向け永田監督の采配に注目が集まる。(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)

© 株式会社Creative2