「マツコの知らないビジネスホテルの世界」第1位ホテルの「苦悩」と「進化」

前回、2016年11月に放映された「マツコの知らない世界」(TBS系)の特集、「マツコの知らないビジネスホテルの世界」第1位のホテルについて、放送後の反響を中心に紹介しました。

2回目となる今回は、記事の本編としてホテルの魅力をはじめ、多くの人々に評価を下されることになったホテルの課題、リアルな現場のドラマなどボリューミーにお伝えします。


秀逸なハードがホスピタリティを生む

マツコの知らない“ビジネスホテルの世界”として紹介した「ホテル ココ・グラン高崎」でしたが、放送当時、視聴者から「こんなのはビジネスホテルじゃないだろう」という声を多くいただきました。後で紹介するスイートルームに加え、ラグジュアリー感もあるロビーの光景もその理由でした。

ビジネスホテルか否かは、スイートルームがあろうが素晴らしいロビーであろうが、フルサービス/リミテッドサービスで判断されます。すなわち宿泊主体のホテルか、バンケットやウェディングなど様々なサービスを提供するホテル(シティホテル)なのかという違いです。やはりココ・グラン高崎は前者となります。

話は逸れましたが、確かにロビーが大変印象的なホテルです。ロビーに続く「レストラン ココシエール」の雰囲気もなかなかで、朝食も同レストランで供されます。ロビーやレストランの雰囲気は写真をご覧いただくとして、フロントはロビーやレストランが望めるポジションにあります。客室へ向かうエレベーターはレストランとフロントの間にあり、朝食に行き来するゲストはフロントスタッフからも確認できます。

放送後、何度か訪問していましたが、先般訪れた際に印象的な出来事がありました。レストランには、客室へテイクアウトできるコーヒーがあるのですが、朝食後、左手にタブレット、右手にはコーヒーと両手が塞がった状態でエレベーターへ向かいました。すると、隣接するフロントからスタッフがササッと駆け寄り満面の笑顔でエレベーターのボタンを押してくれたのです。これまでの同ホテルではなかった体験でした。他のゲストや知人などからも同じことがあったという声を聞きました。

もちろんフロント業務が忙しければできないことでしょうが、レストラン/エレベーター/フロントという動線がなせる技であり、建築家もその辺りを意識したといいます。念のため支配人に「エレベーターのボタンを押すという指導をしたのですか?」と確認したところ、「いえ、していません。エレベーターに限らず番組の放送後には、自然とスタッフが自発的な動きをするようになった」といいます。ホスピタリティはマニュアルやルールではなく、“自発的・突発的な瞬間の言動”にその神髄があるのかもしれません。時にハードが秀逸なホスピタリティを生むきっかけにもなります。

多くの人々に評価を下されるようになったホテルの課題

ココ・グラン高崎は、現在では概して朝食の評価も高いホテルです。提供できるサービスが限られるビジネスホテルにおいて、朝食は重要な差別化のコンテンツ。“現在では”と表現したのも、開業当初から利用し続けてきたゲストからみると、紆余曲折を感じざるを得ない部分があります。

2016年の番組放送時、同ホテルの朝食は決して評価できるものではありませんでした。放送でも簡単な紹介にとどめています。実は開業当初(2012年~2014年あたり)のクオリティは大変素晴らしく感動的でしたが、料理人の交代なども続き、安定感という点について評価できない内容が続いていました。放送後には大いにレベルアップしましたが、往時のクオリティには今一歩という印象です。

同ホテルの客室で高く評価されているのが、デザイン性の高さに加え、コンセントの数や位置、水回りスペースと仕切る引き戸といった利用者目線の工夫。中でも、全室に設置されたマッサージチェアと電子レンジに対する驚きの声も多くあります。大型テレビやアメニティなどは、他のビジネスホテルブランドでも評価できる一般的なアイテムになっていますが、“全室の電子レンジ設置”は筆者の記憶でもこれまで全国で数軒といったところ。加えて“全室のマッサージチェア設置”となると希有。一方で、マッサージチェアが酷使されることが多く、「背ずりやヘッドのカバーが擦れていた」というコンプレ(コンプレイン(complain)=客からの苦情)もあり、多彩な設備や備品にかかわる維持管理のコスト高は想定外だったようです。

利用者数の増加に伴ってゲストからの声も増大します。賛否多様な声が増え続けていくこと、そしてフィードバックできることは大変ありがたいと支配人は話します。

変動させないプライスポリシー

また、当初の利用者から「開業当初に比べ料金が上がった」という苦情も耳にするようになりました。筆者から見ても2割程度高くなった印象があります。ただし、日本のホテルカテゴリーという視座からみると、ココ・グラン高崎のクオリティとしては当初の設定はかなり低めだったと評せます。

また、料金が上昇した理由は放送による人気沸騰ということではなく、ここ数年のホテル業界全体の傾向と括ることもできます。訪日外国人旅行者の激増によるホテル活況において、全体的に稼働率はアップしている傾向にあり、需給の原理からも多くのホテルで概して料金が上昇傾向にあります。

他方、ココ・グラン高崎の料金で注目すべき点は「料金変動」の点です。一般的なホテルでは需給(繁閑)に応じて相応の料金変動をさせます。その幅が2倍・3倍というケースも珍しくなく、人気観光地となれば5倍~などというケースもみられます。過度な料金変動で有名になったビジネスホテルチェーンも記憶に新しいところですが、ココ・グラン高崎では、“基本的に大幅な料金変動をさせないこと”を開業来のプライスポリシーにしています。

大きな変動をさせない理由としては、「同じ客室を提供するのに支払う料金が過度に違うのはどうなのか?」という問いに加え、「あのホテルのあの客室は○○円」というイメージの植え付け、そこから繋がるゲストの安心感という点にあると筆者は分析しています。

特徴的な大浴場とプレミアムココスイート

同ホテルでは大浴場も評価の高い設備。大浴場を設けるビジネスホテルは増加傾向にありますが、ジャグジー・サウナ(女性岩盤浴)などに加え、炭酸泉の露天風呂までとなると貴重なホテルといえます。さらに、パウダーコーナーにはタオル(バスタオルではなく小タオル)が積んでありますが、客室からの持参が基本のビジネスホテルの大浴場ではほとんど見られない光景です。

数百店舗という全国チェーンであれば、あるコンテンツを1店舗でやったら全店舗でやらなくてはならないブランディングの難しさやジレンマもあると想像できます。多店舗展開のブランドにはできないサービスや備品の実現は、独立系・小規模チェーンならではのフットワークがなせる技といえます。

放送で大きな話題となったのが1室のみという最上階11階の“プレミアムココスイート”。面積はなんと100㎡です。ベッド幅150㎝のベッド2台+デスクが2カ所あります。なかなかお目にかかれないのが“移動できる”大型テレビ。高級マッサージチェアにオイルヒーターやタオルウォーマーまで設置されています。

広大なデッキテラスには露天風呂にミニプールが。まだまだ驚いてはいけません。浴室にはテレビ付きジャグジーバス、そして岩盤浴にスチームサウナまで。贅の限りを尽くした設備が揃っています。

ココ・グラン高崎のコンセプトを体現するかのような客室です。その他、まだまだお伝え仕切れない客室や設備もありますので、別の機会に詳しく紹介できればと思います。

清掃クオリティの秘密

いま、ホテル業界でも大きな問題となっているのが人手不足。特に清掃スタッフ不足の問題は深刻。委託会社から派遣されるホテルは大変多いですが、そもそも委託会社にすら人が集まらないともいわれます。そのような中で評価の高いホテル ココ・グランの清掃レベルの秘密は、開業当初より全て自社雇用し清掃のクオリティの維持・向上に注力している点といえるでしょう。

たとえば、廊下に清掃ワゴンが置かれることは一般的な光景ですが、同ホテルでは清掃ワゴンはありません。持って動けるカゴやバッグにアメニティや備品類を収め、室内に持ち込み作業を行うといいます。廊下、共用スペースもお客様のもの。ワゴンで占拠することのない様に作業をすすめるためという配慮だそうです。

清掃スタッフのユニフォームはスタイリッシュ。自然と身のこなしもスマートになる(見える)といいます。他のホテルで時々悩まされるような“大きな声でのスタッフ同士のお喋り”もありません。感心して支配人に話を聞くと、「特に放送後には多くの人々に注目されたこともあり、さらなる清掃レベル向上のため、ハウスキーピングのコンサルタントを招聘しスタッフ研修も続けています」とのこと。

見た目はキレイでも実際泊まると細かい点が気になるのが人の常。清掃を制することは支持されるホテルにとっての重要なテーマでしょう。


前編・後編と2回にわたった「マツコの知らないビジネスホテルの世界」で“大ブレイク”したホテルのいま、いかがだったでしょうか。大きな注目を浴びることになったホテルと現場のヒトやサービスを中心にレポートしました。この連載では引き続きさまざまなホテルの深い魅力をお伝えしていきます。

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