排気量1万3000cc、車重5.3トンを越えるトラックヘッドの肉弾戦、ETRCヨーロピアン・トラック・レーシング・チャンピオンシップの第6戦がベルギーのゾルダーで開催され、5度のタイトル獲得経験を持つ“帝王”ヨッヘン・ハーン(ハーン・レーシング/イベコ)が、土日ともにスーパーポールからレースを制し、前人未到6度目のタイトルへさらに前進する結果となった。
トラック・レーシング界のスターとして今季もシリーズでの争いを牽引するハーンは、9月15~16日開催の第6戦でも今季おなじみの展開を披露し、全18台のトラックを相手に最後の最後で予選スーパーポール・セッションに登場すると、あっさりと1分57秒170のトップタイムをマークし、定位置のポールポジションを確保する。
わずか0.055秒差での2番グリッドとなったアントニオ・アルバセテ(トラックスポーツ・ルッツ・ベルナウ/マン)を従えて、このゾルダーでのレース1もいつもどおりのポール・トゥ・ウインかと思われたが、スタートの1コーナーでハーンがわずかにレコードラインから外れたのを見逃さなかったアルバセテが首位浮上に成功。
3度のタイトル獲得経験を持つスペインの大ベテランは、選手権上でも帝王とのギャップをなんとか縮めるべく、老獪な攻防劇でハーンを封じ込んでいく。そのまま全12ラップのレースも残りわずか、となった10周目。アルバセテを悲劇が襲う。
2018年にもここゾルダーで勝利を飾っているアルバセテが、昨年の再現を達成するとサーキット中の誰もが感じていたその瞬間、1コーナーのイン側にハーンのイベコがダイブを見せ、そのままドアをこじ開けてアルバセテの前に出ると、続く2コーナーへのラインを守って首位奪還。スタートでミスをした1コーナーできっちりと借りを返し、終わってみればいつものポール・トゥ・フィニッシュを飾ってみせた。
痛恨の2位に終わったアルバセテに続き、3位には2017年チャンピオンのアダム・ラッコ(ブッジラ・レーシング/フレートライナー)が単独走行で続き、4位にアンドレ・クルシム(ドントタッチ・レーシング/イベコ)、5位には三つどもえのバトルでレネ・ラインアート(レイナート・レーシング/イベコ)、シュティフィ・ハルム(チーム・シュアベン・レーシング/イベコ)のドイツ人ふたりを封じたノルベルト・キス(タンクプール24レーシング/メルセデスベンツ・トラック)が入った。
続くセミリバースグリッド採用のレース2では、オープニングの1コーナーでマルチクラッシュが発生し、いきなりの赤旗中断。そのリスタートで首位に立ったのはラインアートで、キスを引き連れてこの2台が後続のパックを引き離す展開となっていく。
しかし直後に2度目のレッドフラッグとなり再度の仕切り直しが切られると、このチャンスを活かしたのはハルムで、彼女のイベコはキスのメルセデスを捉え、首位ラインアートの背後にピタリとつけていく。
かつてラインアートのチームに所属し、監督とエースドライバーという”師弟関係”だったふたりのバトルは12周のファイナルラップまで続き、ファイターらしい動きを見せたハルムが再三のオーバーテイク機会を迎えるも、そのたびに師匠がフタをする緊迫のバトルが演じられ、0.4秒という僅差でチェッカー。師の面目を保ったラインアートが今季3勝目を挙げている。
「どれだけ近くにいようと、最終周にリスクを犯して無茶をするつもりはなかったわ。彼のタイヤが厳しいのは見えていたしね。レネ(・ラインアート)がブレーキングして少しラインが動いたとき、私たちは軽いコンタクトがあったけど、ふたりとも姿勢を乱すほどじゃなかった。クリーンなバトルができて満足よ」と語ったハルムが、7月のスロバキアリンク以来となる2位表彰台に上がった。
続く日曜も前日のリピートを見るような展開になり、スーパーポールで最前列を得たハーンが、ラッコとキスを従えて再びライト・トゥ・フラッグの完勝を飾り、シーズン11勝目をマーク。最終レース4は、リバースのフロントロウに並んだアルバセテが、前日のリベンジとばかりに首位独走で逃げを打ち今季2勝目。2位クルシムに続いてラインアートが連日の表彰台に立っている。
これでハーンはポイントスタンディングスで272点とし、ランキング2位のアルバセテに対し85点差の大量リードを築き、シリーズは残り2戦。続く2019年第7戦はフランスに舞台を移し、ル・マン・ブガッティ・サーキットで争われる。