シンディ・ローパーのアトラクション&リテンション ① 80s 音楽にビジネスを学ぶ 1983年 10月14日 シンディ・ローパーのアルバム「シーズ・ソー・アンユージュアル」が全米でリリースされた日

皆さんは「アトラクションとリテンション」というビジネス用語を聞いたことがあるだろうか。もちろん、アトラクションは「Attract(魅了する・引き込む)」の名詞形、リテンションは「Retain(保持する・留めておく)」の名詞形だが、ビジネスの現場でこの用語を最も頻繁に使うのは、おそらく企業の人事部だろう。つまり、優秀な人材を惹きつけて(採用⇒アトラクション)留めさせる(定着化⇒リテンション)という訳だ。

この用語はこれ以外のシーンでも利用可能だ。例えば、商品のプロモーションを考えているとしたら、その商品を買ったことのない人に買わせるのはアトラクションだし、買ったことがある人にリピートしてもらうのはリテンションだ。よく営業の人が顧客を新規と既存に区分しているのは、まさにこの考え方だ。

私生活にも応用できる。結婚をテーマに考えるなら、アトラクションの能力が乏しい人は一生独身かもしれないし、アトラクションはできてもリテンションの能力がなければ、その人は何度も結婚・離婚を繰り返すかもしれない。とにかく、ここまででお解りのように、アトラクションとリテンションは似た概念ではあるが、分けて考える方が合理的だ。

そこで、今回はシンディ・ローパーを例に、具体的に考えてみたいと思う。1983年、遂にソロアーティストとしてメジャー契約にこぎつけた彼女は、アルバム『N.Y.ダンステリア(She's So Unusual)』でデビューした。これは、5歳年下のマドンナのデビューアルバム『バーニング・アップ(Madonna)』がリリースされた僅か数ヵ月後のことである。

このアルバムは全世界で1,600万枚のセールスを記録し、シングルカットされた「ハイ・スクールはダンステリア(Girls Just Want to Have Fun)」「過ぎ去りし想い(Time After Time)」「シー・バップ」「オール・スルー・ザ・ナイト」とヒットした。デビューアルバムから4曲連続でTOP5入りしたのは女性アーティスト初のことだった。

米国の音楽誌『Rolling Stone』は、このアルバムを「100 Best Debut Albums of All Time」の63位に選んでいるが(マドンナは96位)、いずれにせよこのヒットによって彼女はグラミー賞の「Best New Artist」を獲得し、「ウィ・アー・ザ・ワールド」でソロパートを与えられた。これは、この両方に縁がなかったマドンナと比べても、シンディが明らかに良いスタートを切ったことを意味していたし、少なくとも彼女がアトラクションに成功したのは間違いなさそうだった。

しかし、次のアルバム『トゥルー・カラーズ』で、僕らは良い意味で裏切られることになるのである。

#2につづく

Billboard Chart
■ Girls Just Want To Have Fun / Cyndi Lauper(84年3月10日2位)
■ Time After Time / Cyndi Lauper(84年6月9日1位)
■ She Bop / Cyndi Lauper(84年9月8日3位)
■ All Through The Night / Cyndi Lauper(84年12月8日5位)
■ We Are The World / USA for Africa(85年4月13日1位)

Billboard(Album)
■ She's So Unusual / Cyndi Lauper(84年6月2日4位)
■ Madonna / Madonna(84年10月20日8位)

※2017年2月15日に掲載された記事をアップデート

カタリベ: 中川肇

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