医療界の最大の勝ち組!? 夫も実家も医師家系「ゆるふわ女医」のお財布事情

2004年度からの新研修医制度と、中途半端な女性支援に翻弄された「ロスジェネ女医」を前回は紹介しました。一方で、俗に「ゆるふわ女医」と称される女医も東京を中心に増加中です。

具体的には、「医師夫を持ち、都市部に住んで、マイナー科(眼科・皮膚科など)を専攻し、時短やパート勤務で効率よく稼ぐ」女医群とされ、「当直・手術・救急・僻地勤務は一切いたしません!」が特徴でもあります。2018年に東京医大などで問題となった「医大入試における女性減点」の一因とも言われています。

今回は、医療界で「最大の勝ち組」とも言われる、「ゆるふわ女医」のお財布事情を覗いてみたいと思います。

※本稿は特定の個人ではなく、筆者の周囲の医師への聞き取りをもとにしたモデルケースです。


瀬戸綾乃先生(仮名):31才、眼科医、父親の経営する東京郊外の病院でパート勤務、大学病院に勤務する内科医の夫(34才)と息子(3才)の3人暮らし

【平均的な月収】
眼科外来(半日5万円):3~40万円
医療法人の役員報酬:50万円
夫からの生活費:30万円

【支出】
・住居費・車両費・ベビーシッターなど:父親の病院と契約しているので自己負担なし
・食費 :20~30万円
・服飾雑貨費:10~30万円
・趣味費:10~30万円
・学会書籍費:5~10万

【資産】
自宅:文京区の2LDK賃貸マンション(法人契約)
車:自宅マンションにトヨタのヴィッツ、実家にBMWのX5(いずれも法人名義)
預貯金:約200万円
実家の医療法人に持ち分あり

開業医の父親×薬剤師の母親

綾乃先生は東京郊外の開業医家庭の長女です。お父様のみならず、祖父・伯父も医者、お母様は薬剤師、母方祖父も医師というファミリーです。綾乃先生は、ミッション系の私立女子中高に進学し、漠然と「将来はママのように医者のお嫁さんになりたい」「だったら薬剤師かなぁ」と考えていました。しかし、当時の医学部女性率は既に3割を超え、なおかつ上昇する一方でした。また、2004年から薬剤師も4年制から6年制に変更になったので「勉強期間は医学部も薬学部も同じ」「女子医大生は男性医師にモテる」と薦められて、医学部受験を決意しました。高校2年からプロ家庭教師による特訓の末に2007年、C医大に補欠合格しました。

神奈川県のC医大は卒業までの総学費が約4,000万円という私立医大で、綾乃先生が入学した当時は偏差値も(医学部としては)高くありませんでした。「開業医のボンボン向け」「寄付金で繰り上げ入学できる」と囁かれており、お父様は相応の寄付をしたようです。また、綾乃先生の伯父様がC医大教授だったのも考慮されたのか、入学を許可されました。

医大同級生と交際はしたけれど

社交的な綾乃先生は、C医大に入学してほどなく学内で彼氏を見つけました。経済的には裕福な病院オーナー家庭の御曹司で、ゴルフ・旅行・サーキット走行会…と、楽しくデートする日々でした。しかし、祖父・伯父は旧帝大医学部卒、父親も国立医学部卒の綾乃先生は、「2浪して私立C医大」彼氏との会話に物足りなさを感じ始め……彼氏が卒業試験に不合格になったのを機にフェードアウトしました。

初期研修は「厚労省主宰の婚活パーティー」

医師国家試験合格後、綾乃先生は東京都内の名門国立D大学で研修医となりました。同期は約100名で7割が塩野先生のような男性医師、しかもほとんどが独身です。新研修医制度によって、1~2か月毎に多数の科を廻るシステムは「男性医師と結婚したい女医」にとって「厚労省主催の婚活パーティー」でもあります。時間外労働は制限されるので、朝のヘアメイクもばっちり、夜はぐっすり眠れるのでツヤツヤ肌をキープできます。

勉強イマイチだけど社交的な綾乃先生は、データ整理や掃除などの雑用を積極的にこなして上司の評判もよく、二年間の研修を修了する頃には3才年上の真面目なD大卒内科医を無事にゲットしました。

地方勤務は妊娠で回避し、最低年限で専門医ゲット

初期研修終了後は、D医大の眼科に入局しました。D医大眼科医局では2年目以降は地方の関連病院に出向させられることが慣習でしたが、その頃に妊娠した綾乃先生は「切迫早産」の診断書を提出して、ひきつづき東京都内の病院に勤務しました。出産後は半年間の育休を取得し、その後は時短で働きました。眼科専門医になるには「4年以上の研修」が必要ですがフルタイムは必須要件でないので、最低年限で専門医ライセンスを取得しました。

普段は地味目、実家で息抜き

専門医取得後は、内科医のご主人を支えつつ、実家の病院でパート勤務しています。実家の医療法人の役員にも就任したので、役員報酬やら家賃補助のおかげで「給料=小遣い」状態です。社交上手な綾乃先生は、国立大学の地味目な同僚から浮かないように、愛車やブランド品は実家に置いて、普段は質素な生活を心がけています。たまにベビーシッターを頼んで、お母様とショッピングや観劇するのが息抜きだそうです。

留学だって楽勝

来年夏から、ご主人がハーバード大学関連の研究所に留学することになり、綾乃先生も同行する予定です。社交的で上司ウケのよかった綾乃先生は、データ整理を担当した論文の共同研究者に名前を連ねていました。ご主人が交渉の結果、綾乃先生も無給ながら客員研究員として在籍する予定です。実家の病院ホームページに「『ハーバード大学留学』って書けるね」と、ご両親も大喜びです。

「ズルい」と言われても

私はラッキーだったと思います。医大ブームの今では母校のC医大も偏差値急上昇だし、2018年からの新専門医制度で、2年間の初期研修を終えた若手医師は、眼科・耳鼻科・内科など19専攻の1つを選んで研修することになりました(図参照)。

同時に、「地方や外科の医師不足対策」として、東京都内の眼科専攻医は厳しく人数制限されるようになりました。今だったら私の実力ではC医大入学もD大眼科就職もムリだったでしょう。

「『ズルい』って言われることもあります。だからと言って、親や生まれ年を変えることは出来ないのです。私は頭も顔もソコソコなのを十分理解していたから、医師キャリアとか余計なこと考えず、女としての旬の時期に自分を高く売った……女として当然のことをしただけです。親には学費の負担をかけたけど、その分の親孝行もしています。あの時頑張ってC医大に進学しておいてよかった……と、最近しみじみ思います」

と、断言する綾乃先生でした。

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