チーム支える“松浦の母” 澤田直子さん 感謝の力走誓う選手たち 全国高校駅伝

エプロン姿で選手たちと会話を楽しむ直子さん(左)=長崎県松浦市

 2年連続で都大路に挑む男子の松浦。その選手たちの食事など生活面のサポートを、一手に担っている女性がいる。澤田洋監督の妻で寮母の直子さん、53歳。午前4時起床から始まる慌ただしい毎日を「子どもたちと一緒に夢を追う時間が楽しい」と笑って言ってくれる“松浦の母”に、選手たちは恩返しの力走を誓っている。
 11月の県大会。トップでゴールテープを切った後、選手たちが最初に口にしたのは直子さんへの感謝だった。「奥さんが体調に気を配ってくれたおかげ」「いい報告ができるのが何よりうれしい」。チームの躍進を語る上で、絶対に欠かせない存在だ。
 寮母生活の始まりは、澤田監督が松浦に赴任した2000年。当時、全国トップレベルにあった諫早の選手たちが、松元利弘監督の自宅に下宿して強くなっていったのを参考に、学校近くに一軒家を新築。夫婦で面倒を見るようにした。
 その後、学校の寮が整備されても、体調管理のために食事面のサポートは継続した。結果、チームは12年に県大会で念願の初優勝。18、19年は連覇を果たすまでに成長した。澤田監督の言葉に実感がこもる。「嫌な顔一つせずに協力してくれる。頭が下がる」
 直子さんの1日は誰よりも早く始まる。午前4時に目覚まし時計が鳴ると、慣れた手つきで寮生20人分の朝食を準備。朝練習が終わるころ、温かいおにぎりやおかずを学校に届ける。息をつく間もなく次は昼の弁当、そして夕食づくり。「1日の半分は台所にいる」という毎日は、もう20年目になった。
 1食に炊く米の量は2升。夕食は10品近くが食卓に並ぶ。自家製タルタルソースをのせた地元特産のアジフライは人気メニュー。長距離選手に不足しがちな鉄分を補えるように、ひじきやきんぴらごぼうは必ず添える。自身も中学から短大まで短距離ランナーだった経験を生かして、アスリートの視点に立った献立を考えている。
 今季のチームを率いる藤山龍誠主将は五島岐宿中出身。「いつもおいしい料理ばかり。一人一人に違う言葉を掛けてくれるし、大事な大会の前は励ましてくれる。本当にお母さんのような存在。3年分の恩返しをしなければいけない」。今、その思いをチーム全員が共有している。
 都大路は直子さんにとっても特別な場所だ。「ここで走るために、みんながどれだけ頑張ってきたかを見てきた。ただただ力を出し切ってくれればそれでいい」。愛情を注いできた子どもたちがそれぞれに輝く姿を、現地でしっかり目に焼きつけようと思っている。

© 株式会社長崎新聞社