長崎 この1年(6完)企業進出相次ぐ 都市圏の人材難 追い風に

 富士フイルム、京セラ、デンソー、楽天-。名だたる大手企業グループが今年相次いで長崎市への進出を表明し立地協定を結んだ。水源や平地に乏しく、長らく企業誘致に苦しんできた本県だが、今は明らかに追い風が吹いている。
 県によると、今年の立地(新増設)は15件で前年を7件上回った。計画では計760人の雇用を生む。
 都市圏から吹く、新たな風の正体は「人手不足」「働き方改革」「被災リスク分散」「情報通信技術(ICT)向上」。東日本大震災以降、企業は業務継続計画に力を入れだした。人口が縮む中で人材難に苦しみ、職場環境や待遇を改善する動きも加速。ICTが遠距離という地方の不利を解消しつつある。
 長崎への進出も、こうした風に敏感に反応するITやBPO(業務受託)の業種が目立った。日銀長崎支店の下田尚人支店長は「これほどまとまった数のIT企業進出は九州他県でも見られない」と注視する。
 10月の県内有効求人倍率は全国46位。都市圏に比べればまだ人材を確保しやすい。県立大に続き、長崎大もIT系新学部を来春新設。育成と供給の面でも評価されている。県庁近くに1月完成した民間オフィスビル「長崎BizPORT」はほぼ満床となった。
 次のターゲットは関連会社が多い製造業だ。佐世保と大村で新たな工業団地が今年分譲を開始し、諫早にも約20ヘクタールが順次完成する。県産業振興財団の営業担当が表情を引き締めて言う。「“武器”が手に入る。逆に『土地がないから誘致できない』との言い訳はもう通じない」
 中村法道知事も上京し、経営者らにトップセールスを掛けた。その熱意が通じたのか、三菱重工業は長崎造船所内で航空エンジン部品工場を着工。ソニーも1千億円程度を投じて諫早の半導体工場を増設する計画を発表し、千人程度の雇用増が見込まれている。
 折しも年の瀬に飛び込んできた三菱の「長崎造船所香焼工場売却検討」のニュースは、本県の産業構造が変わりつつあることを裏付けた。

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