読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、65歳までに1500万円貯めたいという48歳の独身女性。70歳を過ぎても身体が動くうちは働きたいといいますが、目標達成のためにはどのように支出を抑えたらいいのでしょうか。FPの坂本綾子氏がお答えします。
老後のために65歳までに1500万円貯めたいと考えています。とはいえ、現在はボーナスがないため貯蓄のペースが落ちており、この先どれだけ貯蓄を増やせるか不安です。今後、親からの相続として500万円以上は受けられると思いますが、身体が動くうちは70歳を過ぎても月収10万円ほどのパートなどで働きたいと考えています。
目標達成のためには、どのように支出を抑え、何から手をつけたらいいのでしょうか。家は賃貸ですが、ストレスを感じる環境には住みたくないので現状の家賃から落としたくないと考えています。アドバイスよろしくお願いいたします。
〈相談者プロフィール〉
・女性、48歳、未婚
・職業:会社員
・居住形態:賃貸
・毎月の世帯の手取り金額:22万円
・年間の手取りボーナス額:なし
・毎月の世帯の支出目安:19万円
【支出の内訳】
・住居費:6.7万円
・食費:2万円
・水道光熱費:1.5万円
・教育費:なし
・保険料:1.3万円
・通信費:1.3万円
・車両費:なし
・お小遣い:4万円
・その他:2万円
【資産状況】
・毎月の貯蓄額:3万円
・現在の貯蓄総額:600万円
・現在の投資総額:なし
・現在の負債総額:なし
坂本:40代シングルは老後のことが気になりますよね。一生シングルかどうか、今の時点ではわからないけれど、その覚悟で老後資金の準備をしなくてはと思い始める時期です。
ご相談者は、2年後に50歳を迎えるのに、貯蓄のペースが落ちていて不安とのこと。まずは、65歳までに1500万円貯めたいという目標が、実現可能かどうかから見ていきましょう。
65歳までに1500万円を達成するには?
現在の貯蓄額は600万円ですから、1500万円にするには、これからあと900万円貯める必要があります。現在48歳なので期間は17年。利息は考慮せず、元本だけで計算すると、900万円÷17年÷12ヵ月=4万4117.6‥円。毎月4万4118円を貯蓄に回せば実現できます。現在毎月3万円を貯蓄しているので、これに差額の1万4118円を上乗せできるかどうかです。
毎月の支出の内訳を見ると、一番高いのは住居費の6万7000円。毎月の手取り22万円に対して30.5%を占めています。住居費は手取りの20%か、高くても25%におさえたいので、住居費が家計を圧迫しています。ただし、ご相談者は、ストレスを感じる環境には住みたくないので現状の家賃は落としたくないとのこと。ということは、他の支出から貯蓄分を捻出するしかありません。
次に多いのはお小遣いの4万円、食費の2万円、その他の2万円です。1人暮らしで月2万円の食費は決して使い過ぎではありませんし、あまりに食費を節約すると健康にも悪影響が及びます。見直すとすれば、お小遣いと、その他です。レシートを取っておき1週間ごとに合計してみる、家計簿アプリを使うなどして、何に使っているのかを確認しましょう。使わなくてよかった支出があれば、1ヵ月でどれくらいになるか計算します。この2つから5000円ほど節約できないでしょうか?
一度見直すと効果が続く「固定費」
残りの支出である水道光熱費、保険料、通信費は固定費にあたる部分です。こちらは日々のお金の使い方で減らすというより、契約を見直すことで減らすことができます。そして一度見直すと、その後は効果が続きます。
水道光熱費の1万5000円はひとり暮しにしては高いです。全国的な家計調査では、子どもがいる世帯でも2万円台の前半、シングルなら1万円ちょっとです(総務省「家計調査」平成29年、世帯主が45~49歳の2人以上世帯で2万2000円、世帯主が35~59歳の単身世帯で1万637円)。
電気代は、数年前に電力の自由化が行なわれ選択肢が増えています。電気とガスのセットなら安くなるプランもあります。インターネット上で世帯人数や暮らし方などを入力すると料金のシミュレーションができる会社が多いので、契約の変更で5000円ほど減らせないか調べてみましょう。
次に保険料の1万3000円も、シングルには多いように感じます。どんな保険でどんな保障を確保しているのでしょうか? シングルが加入しておきたい保険としては、病気やケガで働けなくなったときに給付金を受け取れる就業不能保険や、ガンが心配な人ならガン保険でしょうか。両方に加入したとしてもシンプルな掛け捨て保険なら、1万円未満で収まるはずです。保険の見直しで最低3000円は節約できます。
通信費の1万3000円も1人にしては高いでしょう。インターネットやスマートフォンの契約内容にもよりますが、高くても8000円程度で収まるはず。こちらも現在、各社でシミュレーションができるので5000円程度減らすことを目標にしてプランの見直しを。
働き続けることは、家計的にも精神的にもプラスに
住居費と食費はそのままでも、残りの費目について節約ができれば、合計で月1万8000円減らせるので、1万4118円の貯蓄上乗せは充分可能です。
このペースで2年間を過ごし、50歳になったら取り組んでいただきたいことがあります。「ねんきん定期便」の確認です。日本年金機構から毎年届く「ねんきん定期便」は、50歳未満と50歳以上では様式が異なり、50歳以上になると今のペースで60歳まで働いた場合に65歳からもらえる公的年金の見込み額が記載されるようになります。公的年金をいくらもらえそうか、確認してください。
ご相談者は、身体が動く限り70歳を過ぎても月10万円くらいはパートで働いて稼ぎたいと意欲的です。節約により毎月の生活費は17万円に減りました。支出のペースが今後も変わらないとすると、公的年金を7万円以上もらえれば、パート収入と公的年金で生活費をまかなうことができ、65歳以降も働いている間は、貯めたお金に手を付けずに済みます。
公的年金は国民年金の満額で月6万5000円程度。ご相談者は会社員で厚生年金加入のはずですから、月10万円前後はもらえると思われます。仮に公的年金額が月10万円台の前半で、税金や社会保険料を引いた手取りが10万円ならパート収入と合わせると月20万円。3万円の余裕がありますから、貯蓄に回したり、予備費にしたり、生活費以外の楽しみに使えます。
働くことは精神的な張り合いや、人間関係の維持にもつながりますから、ぜひ仕事を続けてください。
公的年金の受給額によっては、老後の軌道修正を
さて、仕事をやめ、年金収入だけになると、どうでしょうか? 目標の1500万円が貯まり、相続で500万円をもらうと、合計2000万円です。
支出のペースが月17万円のまま変わらないなら、公的年金の手取り額は月10万円ですから、毎月7万円の赤字。年間84万円です。2000万円の資金は約24年分に相当します。70歳で仕事をやめると94歳までは持ちますが、それ以上に長生きするとお金が足りない事態に。
ここまでの計算は、公的年金の手取りが10万円と仮定した場合です。ご相談者が公的年金をいくらもらえるか、いつまで働くかがポイントになります。
もし、公的年金額が思ったよりも少なくて、2000万円の老後資金では足りなくなりそうなら、住居費の見直しもいずれ検討した方がよさそうです。もっと家賃が安く済み、シングルが老後を過ごすのによさそうな住宅はないか、自治体が運営する公的な住宅などを中心に、ご相談者が納得のいく住まいを時間をかけて探してみてはいかがでしょうか? 現役の間に住居費を下げられるなら、その分、貯蓄額も増やせます。
まだ、時間も選択肢もあります。50歳前に一念発起、収入が増やせないかチャレンジする、長く働き続けられるよう趣味と実益を兼ねた資格や特技を身につける、70歳以降は月10万円は無理でも3万円程度でも収入を得るなど。その都度、現実を把握し、しっかり情報収集しつつ、進んで行ってください。