高木勇人加入のユカタンとメキシカンリーグとは? 給料や過酷な環境を現地通訳が解説

レオネス・デ・ユカタンの本拠地スタジアムであるパルケ・ククルカンのフィールド【写真:福岡吉央】

ユカタンはメキシカンリーグでも指折りの強豪で競争も熾烈

 メキシカンリーグのレオネス・デ・ユカタンが4日(日本時間5日)、元巨人、西武の高木勇人投手の獲得を発表した。メキシカンリーグとはどんなところで、昨季、同リーグ南地区の王者に輝いたユカタンはどんなチームなのか。元スポーツ紙記者で、昨年メキシコの夏冬リーグでともに日本人選手の通訳を務めた福岡吉央が解説する。

 メキシカンリーグは南北2地区、各8チームの計16チームで成り立っている。その中でユカタン州の州都メリダを本拠地とするレオネスは1954年に創設され、首都メキシコシティに本拠地を置くディアブロス・ロホス・デル・メヒコとともに、南地区で資金力が豊富な2強のうちの1つとされている。

 リーグ優勝4回、地区優勝6回。昨季も各地区8チーム中上位4チームが進めるプレーオフを勝ち上がり、南地区の王者に。メキシコNo.1の座を決める「セリエ・デル・レイ」では北地区王者のアセレロス・デル・ノルテに敗れた。今季も当然、他のチームに比べ、選手層は厚い。つまり、高木は春のキャンプでチーム内競争を勝ち上がらないことには、出場のチャンスを得ることは難しい。

 同リーグの外国人出場枠は7人。それとは別に、アメリカ国籍を持つメキシコ系アメリカ人はメキシコ人としてカウントされるルールだ。同リーグでは多くのチームが外国人枠を投手3~4人、野手3~4人の割合で分配する。つまり投手枠は通常、最大で4。高木はまずはその戦いに勝たなければならない。

 2020年シーズンの開幕は4月6日。各チーム102試合をこなし、レギュラーシーズンが終わるのが8月6日。その後、9月上旬までプレーオフが行われる。2月下旬から約1か月行われるキャンプでは、各チームとも、7人の外国人枠に縛られることなく、10人前後の外国人選手をキャンプに呼ぶ。それはケガ人が出た時や、開幕までに調子が上がらない選手がいた場合、その代役として使える選手を確保しておきたいからだ。

レオネス・デ・ユカタンの本拠地スタジアムであるパルケ・ククルカンの外観【写真:福岡吉央】

過去にメキシコでプレーして経験のある選手たちは…

 しかし、日本人にとって不利なのが、日本などアジア球界での実績がこのリーグではあまり意味を持たないことだ。それは、打者の特徴に大きな差があり、三振覚悟で強振してくるタイプの打者が多いこと。さらに投手の配球、ストライクゾーンが違うため、米国か中南米での実績しか参考にならないと判断されるからだ。

 昨季は3人の日本人が同リーグにキャンプから参加した。ブラボス・デ・レオンでプレーした久保康友投手の場合は、本拠地のレオンやその周辺に日本人の駐在員が多く住んでいたことから、日本人の集客を見越して獲得され、キャンプ序盤の時点で監督ではなく社長の意向によって開幕投手が内定していた。

 久保は前年の2018年に米国独立リーグの最高峰と言われるアトランティックリーグで結果を残していたことも要因だったが、このケースは例外。久保は2017年オフにもレオンからオファーを受けて合意に至りながらも、日本で通算97勝を挙げている実績だけでは評価されなかったのか、結局、チームに合流するための航空券が送られてくることはなかった。

 スルタネス・デ・モンテレイでプレーした荒波翔外野手も、最初は練習生からのスタートだった。キャンプで力を見せ、実力で定位置を勝ち取った。日本の独立リーグ、四国アイランドリーグplusの愛媛でプレーし、18年冬にコロンビアのウインターリーグで先発として結果を残し、ペリコス・デ・プエブラのキャンプに参加していた片山悠投手は、7人の外国人枠に残れず、開幕直前にメキシコを後にした。

 では、今年の高木の場合はどうなるのか一。ユカタンにはすでに優秀な先発陣がいる。昨季15勝2敗、防御率2.26で同リーグの最優秀投手賞を獲得したドミニカ人のセサル・バルデス投手はメジャー再挑戦のため退団予定だが、キューバ出身で、昨季13勝6敗、防御率3.22だったヨアネル・ネグリン投手はリーグで最多イニングを投げた久保と最後まで最多イニングの座を争った好投手だ。

7人の外国人枠を掴めないと開幕前に放出されることも…

 さらに昨年3月にメキシコ代表に選ばれて来日し、シーズンでも9勝5敗、防御率4.05の成績を残したホセ・サマヨア投手も先発当確だろう。メキシコでは先発は中5日で5人で回す(火曜に登板した時のみ、次の登板は中4日で日曜になる)ケースがほとんどで、先発として期待される高木は残された3枠の座を争うことになる。

 ユカタンは他にも米国人の先発でメキシカンリーグ5年目となるダスティン・クレンシャー投手、昨季米国の独立リーグ、アメリカン・アソシエーションリーグで先発として11勝2敗、防御率2.86の成績を収めた米国人左腕ルーク・ウェストファル投手とも契約。さらにリリーフとしてメジャー通算288試合に登板している元ヤクルトの米国人ローガン・オンドルセク投手を獲得した。すでにパナマ代表で元メジャーのエンリケ・ブルゴス投手も所属しており、投手だけでも外国人枠争いは相当し烈になる。

 7人の外国人枠から外れた選手は、キャンプ終盤、あるいは開幕直前にリリースされるが、その場合は給料はゼロ。メキシコでは契約は“月いくら”という契約を結ぶのが慣例となっている。キャンプ中はチームが各選手にホテルや3食を用意するため選手の負担はないが、給料が発生するのは開幕してからとなる。

 日本のように、契約選手にはシーズンの最後まで全員に給料が支払われるということはなく、例えば開幕から3日でクビになれば、給料は日割計算で3日分しかもらえないシビアな世界だ。夏のリーグでは1年目の外国人選手は月5000ドル(約55万円)から1万ドル(約110万円)が相場。メキシコ人の若手は1500ドル(約16万5000円)から3000ドル(約33万円)程度と言われる。

 結果が出ない場合は見切りも早く、投手、野手ともに数試合の出場だけでクビを宣告されてしまうケースも珍しくない。かつて同リーグでプレーしていたあるベネズエラ人投手は「チームが用意した家に住んでいたが、1年でルームメイトが6回も変わった。明日は我が身じゃないかと思って、いつもヒヤヒヤしていた」と話していた。選手の入れ替わりがいかに早いかがよく分かる発言だ。(福岡吉央 / Yoshiteru Fukuoka)

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