「下船」始まる

 7年前、大型客船が“生まれ故郷”の長崎市で一般公開されたとき、きらびやかなエントランスホール、劇場、屋内外のプールを一通り見た男性は、ほれぼれとしたらしい。本紙の記事で「外国のホテルにいる感じ」と語っている▲さらにバーもサウナもフィットネスも備える「ダイヤモンド・プリンセス」は、快適で華やかな一つの「街」だろう。客室での足止めに耐え、感染の不安を抱えるような生活とは、無縁のはずだった▲新型コロナウイルスの集団感染が起きた客船で、もう2週間ほど船内待機させられてきた乗客の下船が始まった。きのうは陰性とされた450人ほどが家路に就いたという▲優雅な船旅から一転、どんなにしんどい思いをしただろう。密閉状態の客室で、家族らと毎日、電話で話し、励まされ、何とか耐えた人も多いらしい▲そばに行きたくても行けない。近づきたくても近づけない。閉じられた「街」と外とをつなぐ会話は、命綱、ライフラインと言っても、言い過ぎではあるまい▲イベントの中止などで各地に落胆も広がる。五島市では、各国のツバキ研究者が集う「国際ツバキ会議」などの中止が決まった。集まりたくても、それができない。鈍るべきは社会の動きではなく、感染の勢いだというのに、しんどい局面の終わりが見えない。(徹)

© 株式会社長崎新聞社